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常連客3

ジュードさんが出かけたのを見計らって、僕は街へと一人飛び出した。

師匠は変わらずひたすら寝ていた。

フードを目深に被って、お金はお店のお金を少し拝借した。

ポケットに入れた分はこれまで働いた賃金のつもりである。

どこか、遠くで雇ってくれる普通の店を探そう。

大きな店なら僕ぐらいの年で雇ってくれる所もあるはずだ。

なるべく楽観的に考えるようにして、ひたすら早足で暗がりの路地を抜ける。

『化け物』『気味悪い』『同じ人間か?』

今まで散々言われてきた言葉が、よみがえって頭の中をぐるぐる回る。

そうだ。それが、普通の人間の対応だ。

僕がまるで、自分達とは違う存在かのように。

見下して区別して差別して。それが当たり前の対応じゃないか。

全く危うく騙される所だった。

僕を油断させて、適当な所で殺すつもりだったなんて。

そんなそぶりを露とも見せず、一見普通に暮らしていた。

それにしても大した演技だったなぁ。

毎日師匠は飽きもせず、僕が寝る前良い夢を見られるまじないをかけて。

ジュードさんも何も知らない僕に材料採取から細かく教えて。

僕に食事を作らせて、対して上手に出来たわけでもない料理をべた褒めして。

夢の中には連れ回して、楽しいことから怖いことまで経験させて。

全部それが、嘘だったなんて。

ぽたりと涙が落ちた。

信じられるか?全部、嘘だったなんて。

気づけば涙が僕の目から次々とこぼれ落ちていた。

それまでなるべく遠くへと急いでいた足が自然に減速して、立ち止まった。

場所は安眠堂から随分離れてしまったものの、暗黒街を抜けるにはまだ遠い。

信じたい。

でも、もし、本当に僕を殺すつもりだったら?

のこのこと帰った僕はその時こそ彼らの本性を目撃する事になるだろう。

それでも触れた温かさを簡単に切り捨てる事もできなくて。

「ふぇっ」

しゃくりあげて僕は泣いていた。

衝動的に出てきたことを後悔する。

もっと上手に立ち回って、しばらく考えて行動すればよかった。

本当にこれで最後にしてしまうのか。本当にそれでいいのか。

その思いが次第に大きくなる。

この時、僕はすっかり頭から抜け落ちていた。

此処が正しく暗がりの一角であったことを。自分がどれだけ無防備にしているかを。

乱暴な腕が、背後から僕の意識を奪ったのだった。



頬に冷たい石の床の温度が伝わる。

僕はどうやら、地下の部屋に腕と足を縛られ転がされているようだ。

瞼をゆっくりと開けば、汚れた靴が視界に写った。

身動きしないまま頭を働かせる僕に上から声が降ってくる。

「ホォー、珍しい。これアルビノだろ?」

「あ、そういえば出入りしている人買いで、アルビノ逃がしたって騒いでる奴いましたね」

「いつ頃?」

「結構前です」

「じゃあコイツ今まで何処で暮らしてたんだ?」

「面倒ですね。ボスのお気に入りの店だったりしたら、厄介ですよ」

会話しているのは二人で、話題になっているのは僕の事だ。

状況がかなり危機的であると察し、目をつむって寝ている振りをする。

どう考えても裏の人間である。

あんな場所で泣いていれば、目を付けられてしまったのも当然だ。

後悔が胸に押し寄せる。

以前人買いから逃げたられた時みたいな幸運が、そう何度も起きるはずもない。

恐怖心で逃げ出して、僕は自分の未来を潰したのだ。

突然髪の毛を鷲掴みにされて、顔を無理矢理上げさせられた。

「なんだ、起きてるじゃねぇか」

痛みに耐えきれず開いてしまった目に、むさ苦しい男の顔が間近に写った。

二人ともどちらも薄汚れて、僕をのぞき込む髭の生えている方が兄貴分のようだ。

「アンタ達・・・誰?」

「気づいてるだろ?マフィアって奴。

この付近で売れそうなもんは、餓鬼だろうが全部売るのが仕事なワケ」

「そーそー、嘘はつかない方が身のためだよ坊ちゃん。

人買いから逃げたのお前だろ?今まで何処にいた?誰が世話してた?」

矢継ぎ早に聞かれる。こういう人種は、どうも気が短いようだ。

手間取りたくないのが如実に伝わった。

早く言わなければ彼らの機嫌を損ねるだろう。

それでも、僕は口ごもる。

「早く言えっての」

髪を掴む男から物みたいに軽々しく頬を殴られた。無造作にふるわれた暴力が鈍く痛む。

痛くて仕方ない。

「黙秘ってやつですかぁ?状況を見てからやりな、坊ちゃん」

僕の痛みなど全く気にもとめず、彼らは笑っていた。

またついでのように反対側も殴られた。

コイツ等にとっては、暴力は殆ど息をするようなもののようだった。

目が衝撃でチカチカする。

骨さえ折れていなければ幸運だと思えるほどの、痛みだ。

それでも口を開く気は起きない。

だって、何を言えと。

自分から捨ててきたあの場所の、ジュードさんと師匠が僕のことを本当に弟子として接してくれていたならば。

これほど勝手な行動はない。

迷惑かける事は絶対出来ない。

ああ、なんだ。僕はやっぱりあの人達を信じてるんじゃないか。

「っぇ・・・うぇっ」

涙が情けなくこぼれていく。ぼろぼろ泣く。泣かずにはいられない。

自分の馬鹿さ加減に呆れて、泣く事でしか大きすぎる後悔を対処出来ない。

「うぇえええ・・・えぇっ」

「面倒くせぇ。だから餓鬼は嫌いなんだよ」

鬱陶しそうに髭の男が言った。また暴力を振るうつもりなのだろう。

しかし、僕の視界は涙で歪んで正しく物が見えない。

誰かがこの閉塞した空間に降りてくる足音がした。

「なー、なんか珍しいもん捕まえたって聞いたんだけどー」

新しい男の声がした。最近聞いたばかりの声だ。

近寄ってきて、そして僕の姿を認識して叫んだ。

「あー!やっぱりアラン君!」

「アドルフさん・・・知り合いですか!?」

慣れた様子で入ってきたのは、安眠堂の常連客だった。

やっぱり僕の確信通り、マフィアじゃないか。

アドルフと男達は顔見知りのようだったが、僕の事に関して協力している訳ではなさそうだ。

トレジャーハンターってなんだよ。この状況じゃあ、僕がトレジャーか?

「うぇえええぇぇっ」

抗議の声は残念ながら泣き声にしかならない。

しかし予想外の常連客の登場は、事態を一変させた。

「うああっ、どうするんだよお前等!

アラン君『安眠堂』の店員だぞ!?」

「はっ!?」

「マジっすか!」

二人の男が一気に顔色を悪くして明らかに狼狽えた。『安眠堂』はどうやら彼らに対して凄まじい影響力があるようだった。

僕は取り合えず涙をふるい落とし、混乱しながらも頭に浮かんだ言葉をそのまま言った。

「このカメムシ!」

「え、え、そのカメムシってまさか俺の事?

ごめんー!よく分かんないけどごめんー!」

アドルフは慌てて僕を拘束している手と足の紐を断ち切った。

楽になった手で、涙に濡れた顔をこする。

「ミミズ!ガガンボ!オケラ!フナムシ!」

「さてはアラン君って昆虫少年でしょ」

「なにがトレジャーハンターだ!嘘つき!」

「いや、本当だけど!トレジャーハンターやってるけど!」

「どうしてこんな所いるのさ!」

「兄貴がマフィアのボスなんだよ!俺は真面目に堅気のトレジャーハンター!

っていうか、アラン君こそ、どうしてこんなところにいるの?

もしかして誘拐された?俺、兄貴に頼んで『安眠堂』には手を出すなってお願いしてたはずなんだけど」

安眠堂で薬を入手出来なければ生活の出来ないアドルフは、必死で僕に弁明する。

絶対嘘だと思っていたトレジャーハンターは本当の職業だという。

正解は裏の人間の関係者かつ、堅気のトレジャーハンター。分かるか!

プロフィールが複雑過ぎる。

「俺たちが、町でうろついている所を捕まえてきました」

「ハァ?何やってんだお前等」

低く唸るような声色で本職よりも本職らしく、男二人をアドルフは脅す。

これでよく堅気だって言い張るものだ。

「や、今確認してた所だったんですよ!口割らなくて!」

「そりゃ脅したら言うわけねぇだろう!

俺の得意先ぐらい、確認しとけ!」

僕を散々痛めつけていた男達は、今や震えるばかりで先ほどの面影は全くない。

厳格な縦社会万歳。どうやら僕はこの男達にこれ以上虐げられずに済みそうだ。

しかし元々安眠堂を飛び出した原因を作ったのはアドルフである。

「アラン君も、どうして一人で外に?」

不思議そうに首を傾げる男に心底腹が立つ。

「アンタのせいだよ!」

「なんかしたっけ俺?」

「アルビノが、材料にされるって!言っただろ!」

「うわあ、マジで本気にしちゃったの?

ごめん、本当にごめん!ただの冗談だって!」

元凶の言動を見るに、どうやら僕が本気にしたことの方が常識はずれのようだ。

空気と化した男二人が「純粋・・・!」「天使?」とか言ってるが、馬鹿にされているとしか思えない。

その天使を数秒前までボコってたのはお前等だ。

「師匠だって僕を収穫とか言ってっ」

「あの人頭おかしいのいつもだから!」

「師匠を馬鹿にするな!」

「気難しいね!ごめんね!」

「変な新聞の記事も見つけたしっ」

「何のことか分からないけど、魔術師もアルビノだからって人間一人殺さないからね?」

「僕がっ、どれだけっ、思い詰めたと思ってるんだ!」

散々振り回された。どれもこれも、アドルフが悪い。どう考えても悪い。

危うく売られかけたり、殴られたり、不安にさせた事などの迷惑料としてとにかく詰る。

「商品値上げ」

「勘弁してくれ」

「寝たら毎回昆虫になる夢を見る」

「やめて、凄い博愛精神に生まれ変わりそう」

「常備薬を異様に臭くする」

「頼む!許して!!

あの店でまともに薬買えないと本当にヤバいから!」

顔を真っ青にして土下座する男を見て、僕はようやく溜飲を下げた。

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