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友人2

他の人に教えてもらうと、師匠が座学と実習をバランス良く教えてくれていたのだと分かる。

ではローリーさんがどうであるかと言えば、実習の比重がかなり大きい。

今やっているのは蝋燭に火をつけては消し、つけては消しを100回やる事だ。

この後も腕立て伏せ100回!とか走り込み!とかそういう部類の鍛え方のメニューが待っているに違いない。

早くも師匠のゆるーい感じの教え方が恋しくなってきた。

日課の狩りに出かけたローリーさんに変わって、ベスちゃんが不本意ながら僕の面倒をみてくれている。

「下手ね。私が始めた頃はもっと上手かったわ」

「その調子じゃ日が暮れるわよ」

「安定しないわねぇ、精神力が貧弱なのかしら」

等々貶されつつ、僕の方も火をつけるのに集中しているので適当に相づちだけして聞き流す。

見ているだけで暇そうなベスちゃんが、反応に乏しい僕につまらなそうに口を開いた。

「全く、どうしてお師匠様ったらフランキーの面倒なんてみるのかしら。

お陰でお師匠様も変人扱いよ!」

それに関しては同意できない。本人の絶対覇者ぶりも関係あると思う。

「何か秘密でもあるの?弱みでも握っているのかしら」

ベスちゃんのあり得ない推測に僕は笑った。

「無いと思うよ。師匠は他人に興味ないし」

客ですら対応を面倒くさがる師匠である。

うっかり弱みを握ってしまったとしても、自分自身の安寧の為にすぐさま放棄するだろう。

「だったらどうして・・・」

そこで堪えるように押し黙ってから、僕を睨めつけて言った。

「だったらどうして、アイツが次の東の森の守護者に任命されてるのよ!」

僕は蝋燭の火をつけるのも忘れて、ベスちゃんの顔を見た。

「師匠が?東の森の守護者?」

「知らなかったの!?」

「全く。くじ引きとかで決めるんじゃないよね?」

「当たり前よ!お師匠様が指名したのよ!」

僕はベスちゃんの情報に顎がはずれるほど驚いた。

何処を見込んでローリーさんは師匠を選んだのだ。

来るときだって死にかかったし、守護者どころか被食者である。

「間違いじゃなくて?」

「私もそう思いたいわ」

僕は師匠がどうしてローリーさんに対してああも不審な動きになっていたか分かった気がした。

やる気ゼロの代名詞のような師匠だ。いくら好意があったとしてもそんな大役に任せられたなら苦手意識を持つだろう。

本当に何でローリーさんは師匠を選んだのか。

遠回しな嫌がらせかとも思ったが、ローリーさんは短時間で分かるぐらい真っ直ぐな性格の人なのでそれは無いだろう。

純粋な友情から?いやいや、そんな理由で指名していたらこの森は荒れるばかりである。

定期的に魔術師協会に貴重な魔獣の材料が入るのも、ここでローリーさんが必要数をきっちり刈っているからだ。

「私が指名されたかったのに!」

次の守護者に任命されるということが、ベスちゃんにとってローリーさんに認められた証だと思っているようだ。

実際に見た通り、ベスちゃんは強い。とても同年代とは思えない強さは、血の滲むような努力の上にあるはずだ。

だからベスちゃんは師匠にあれほど敵対心を持っているのか。

「・・・僕も師匠は無理だと思うよ。ベスちゃんの方が強いぐらいだ」

「そうよね、見所あるじゃない。・・・ベスちゃんじゃない、ベス様!」

「はあ、ベス様」

僕は蝋燭の火をつける作業を再開した。

「アラン、こうなったらアンタがフランキーを倒しなさい」

「は?」

「アランがフランキーを倒す。私がアランを倒す。

そうすれば流石にお師匠様も私を指名してくれるはずだわ」

なんという暴力的解決方法。この師弟は揃って血の気が多い。

そしてその方法でいくと、僕はベスちゃんに倒される運命だ。

「ベス様が直接師匠を倒しなよ。僕は痛いの嫌だし」

「軽ぅーく自分の師匠を売ったわね・・・。

出来れば自分でとっくにやってるわ。逃げ足だけは早いのよアイツ」

僕は帰っていく時の師匠の逃げ足の早さを思い浮かべた。

普段寝ているだけの人間が、よくもあんなに早く走れるものだと思った。

「そうと決まれば行くわよ」

「何処へ?」

「とっておきの修行方法を教えてあげる」

嫌な予感しかしない。

僕は引きずられるようにしてベスちゃんに外に連れ出された。

向かった先は、ローリーさんの家からそう遠くない大きな洞窟の入り口である。

洞窟の中は光もささず暗くてどれだけ深いか見えない。

「そろそろ中から蝙蝠が飛び出してくるから。

それを全部たたき落とすのよ。ほら、火の玉でも出してみなさい」

とんでもない無茶ぶりである。

「急に難易度上がりすぎだから!

僕、さっきまで蝋燭に火をつけるのが精一杯の人間だからね?」

ベスちゃんは僕の陳情など鼻で笑って相手にしない。

「人間、やればなんでも出来る!」

気の弱い僕は、目に炎を燃やしてやる気に満ちているベスちゃんを説得することなど到底出来なかった。

「来るわよ!」

「嫌だぁああ!」

逃げようとしても首根っこを捕まれてびくともしない。

日が沈んできて、まだ周囲は明るいものの不気味な声が洞窟の中から聞こえてくる。

チチチ、と独特の音を響かせながら一斉に黒い塊が飛び出してきた。

流石は魔の森の蝙蝠だけあって、猫ほどもある大きな蝙蝠である。

それが顔面に飛びついてきたかと思えば、鳩尾に飛び込んでくる。

木の棒を振り回して対抗するが、数が多すぎて対処仕切れない。

「ぶへっ」

「ほらほら!次ぃ!」

ベスちゃんは氷のつぶてを放ち、みるみるうちに飛び出してくる蝙蝠を打ち落とす。

見事な手腕である。そして地面に転がった蝙蝠たちは、貧弱な僕に狙いを定めて復讐してくる。

「キィキィ!」

「ぶふっ」

僕じゃないです、と蝙蝠に言ったところで伝わるはずもない。

死にものぐるいで炎の玉を作りだし蝙蝠に投げつけてみるが、ひらりと簡単に逃げられてしまった。

次いで再び炎の玉を空に放つが、数が多すぎて威嚇にもならない。

ベスちゃんにならって氷のつぶてを作ってみるが、作れたのはほんの数個程度で、しかも当たらなかった。

この短時間に驚異的な上達ぶりをみせた訳だが、ちっとも喜ぶどころではない。

死の危険すら感じて僕は魔術が尽きるまであがき続けた。

しかし怒りに満ちた蝙蝠達は頭に肩に足にぶつかってきて、立っていることも出来ない。

うずくまってひたすら耐えるだけの姿勢になった僕を、後ろを振り返ることもしないベスちゃんは気づかない。

もはやこうなると魔術とか関係ない。

「助けてぇえ」

「あ、あら?ちょっと普段より数が多いわね」

不穏な事を言いつつ、氷を量産するベスちゃんは僕を助ける余裕がないらしい。

僕は背中に衝撃を受け続けながら、ただ耐える。

師匠、早く帰りたいです。

蝙蝠達がベスちゃんにいじめられた腹いせに、僕の髪の毛をむしっていく。

只でさえこの前カラスのせいで出来た禿が広がっていく。

泣き出しそうになったところで、雷が落ちたような轟音が周囲に響いた。

蝙蝠達が一斉に空へと逃げ、僕もようやく顔を上げて周囲を確認すると、ローリーさんと焦げた痕のある蝙蝠が何匹か地面に転がっていた。

雷で驚かせたのかもしれない。

ローリーさんはベスちゃんと僕の惨状を見て、眉を険しく寄せた。

「イジメ、ダメ、絶対」

貴方がそれを言うか。

僕は精神力でその言葉を飲み込んだ。


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