05 ボクがすべきこと
ひとまず町の外れで、こそこそと朝まで過ごした。少し眠れたかな。
「これからどうしようかな。まあ、町をでていくのはいいんだけど、宛がなさすぎる。せめて地図でも貰えればよかったのに」
「おい、あんた……」
「うん?」
どこかの建物の影に隠れていたわけだけど、中から話しかけられた。声を元をたどると、人は通れそうにない小さな鉄格子から顔を覗かせてる男がいた。
「どうしたんですか、そんなところで?」
「ちと、冤罪で昔捕まってそのままな……そんなことはいいさ。あんた町の外の人間だろ?」
「まあ、一応そうですね」
「それなら気をつけな。昨日の夜、馬鹿な衛兵が愚痴で漏らしてたが、外からきた人間は狙われてる。おそらく供物ってやつだろうな」
「……そのへんが詳しく教えてもらえますか」
「まあ、構わねえさ。いいか、まずこの町はネクロマンサーに支配されている」
「ネクロマンサー……って死靈使いのことでしょうか?」
「その通りだ。まあ、程度は低いやつだけどな。少なくとも、冒険者ギルドも自警団もろくにないこの町じゃ、十分に恐怖の対象なわけだ。そんで、あいつはそれをいいことに、術に使う死体を供物として、持って来いと言ってきている」
昨日のあれってもしかして、そのネクロマンサーってことなのかな。
「まあ、だから気をつけな。外の人間を殺して、供物にしてすごしてたわけだ。だが、今回は期限に遅れて、バツを受けたから手段を選びやしなくなってる」
「なんて迷惑な……」
「最悪、牢屋にいる誰かが殺されるだろうがな。そういうのもあって、ゲスい奴が冤罪で俺をぶち込んだわけだからな」
「それは……また、難儀なことですね」
「だから、そんな俺からのアドバイスさ。早いところ町をでることだ。正義感の強い男でもいるなら、ヒーローになれとでもいってやりたいが、あんたみたいな可愛こちゃんにんなこと頼むわけにもいかねえからな。入り口から伸びてる行動をまっすぐいけば、別の町に辿り着く」
「…………」
ボクは可愛こちゃんじゃないし、というか女の子でもない。
いや、今は確かに女の子だけど。鏡とかがないから自分の姿、ちゃんと顔まではみたことないけど。
まあ、かと言って確かに別にヒーロー願望とかはないんだよね。
教えてくれたし素直に町をでるのも手かもしれない。
でも、そしたらこの人が殺される?
もしくはここからじゃわからないけど、他にいる誰かが……放っておいても、あの宿の女の子が供物にされるって意味では殺されちゃうわけで――。
ボクは親切なその人の助言に従って、こそこそと町の入口へと向かう。
けど、その頭の中は何かモヤモヤする。
あんたみたいな可愛いこちゃんに頼む訳にはいかない?
じゃあ、もし、ボクが男のままの姿だったら頼んでいたのか。いや、絶対頼まれない気がする。
自分のことは自分がよくわかっているし。覇気のない男には頼まねえとかそんな感じになると思うし。
「もしもーし」
でも、ボクがこの問題に踏み込む理由ってそこまであるかな。敵は明確にわかっているからこそ、ボクがどうにかできるのかも怪しいところだし。
「あの~。リュンさーん。リュンちゃ~ん」
もう、うるさいな。ちょっとボクは今、悩んでいるんだから邪魔しないで欲しい。
「妖精さんですよ~」
「へっ?」
「あ、やっとこっち見てくれましたね」
そこには見覚えのある姿の夢の妖精さんが――
「って、えぇっ!?」
「ふぅ、こっちにでてくるの疲れましたよ。まったく」
「な、なんで?」
「まあ、細かいことは良いので、町の外へと一旦出ることにしましょう」
「へっ?」
彼女はそう言うと、指をパチンとならした。
すると視界に映る風景が一瞬で変わり、遠くに町が見えるどこかへと移動した。
本当に、この人何者なの?