03 悪夢?それともこっちが現実?
「……うぅん。はっ!? あ、あれ、元の体に戻ってる」
次に目を覚ますと、ボクの体は元の男に戻っている。周りは真っ白く、足元はとても有名な塩の湖に水を入れたような状態で、ボクの姿が鏡のように鮮明に写っている。
「天国? 地獄? それとも、なんかまた別な場所?」
「ぬっふっふ~。起きましたね、起きましたね。いや、寝ましたね?」
「んえっ!?」
先ほどまで誰もいなかったはずの後ろからそんな声が聞こえて、思わず振り返りながら後ろずさる。
そこには銀髪の少女がいる。
「え、えっと、え?」
「やあやあ、こんにちは! わたしは……まあ、いいや。それでえっと、とりあえず、なんでしょう? ご愁傷様でーす!!」
本来その言葉はそんなに明るく言うことじゃないはず――
「っというか、やっぱりここ天国なのかな? あと、あなただれですか?」
「まあ、わたしが誰か何てどうでもいいじゃないですか! 恐竜が滅んでしまったことを現代人は『へぇ~、そんなことがあったんだな~』って思うくらいしかしないくらいどうでもいいことですよ。あと、ここは夢のなかですよ」
「夢のなか?」
「そうですそうです。先ほど行ったじゃないですか。寝ましたねって」
あの言葉からそこまで察することができる人は、ほとんどいないとボクは思います。
「それで、えっと……夢の妖精さんはボクになんのようっていうんですか」
我ながら何を言っているんだろうと思う。
「妖精いいですね! 妖精さん可愛いですね! えっとですね。まあ、あれですよ。一応、世界を飛んだわけですし、少しの間は面倒見とかないとつまらないので、助言とか情報共有をしようと思いましたもので」
「世界を飛んだ……?」
「そうそう、死んでしまうとは情けないですね~。でも、大丈夫! その魂は私ががっちゅり掴みましたから!」
がっちりと噛んでいらっしゃる。
「というか魂? 死んでしまう?」
「はい、あなたもなんとなく理解してるでしょう。あの工事現場で女の子を助けて死んでしまった。あなたの冒険はここで終わってしまったと!」
テンションのせいで全然シリアスにならないけど、たしかにあの味わいたくない痛みの感覚は覚えているし、何があったかは覚えてる。
「でしょうでしょう。まあ、その時にこちらの世界、仮に異世界としておきましょう。そこでもまた、魂が抜けるという不可思議な死に方しちゃった方がいたんですよ」
心を読んでいらっしゃいませんか。
「そんなのあたりまえじゃないですか~! わたし妖精ですよ、フィェアリー!!」
発音がねちっこい! ってそんなこと突っ込んでる場合じゃなかった。
「つまり、ボクは死んだ。そしてもう一人異世界で死んだ人がいたってことはわかったんですけど、それとこの空間とかその他が何の関係が?」
「いやね、そういう不可思議な死に方されちゃうと、神の関与だとか、いろいろと疑われちゃったりして、事後処理が面倒くさいんですよね。それで、ちょうど女の子見つけたし、れっきとした物理的死亡なので、折角なので異世界ライフ楽しんでもらおっかなって! ほら、ライトノベルとかで流行ってたでしょ! 異世界転移とか異世界転生とか!」
つまり、もしかしてボクが異世界で目が覚めた時に、あんなことになってたのはこの人のせい。しかも、ボクは元の世界では完全に死亡確定。
「一命を取り留めるか否かってところだったらしいですけど、病院についたところで亡くなったそうですね。だから、お声がけしたんですよ。面白いところへ連れて行ってあげると」
「あの時の声あなただったんですか!?」
「そのとおりです」
信じるかどうかは置いておいて、そうかそうか。
つまり、ボクが死んだと思っていたのにまだこうやって夢を見ることができる体になって、タイムスリップではなく異世界転移したのはこの人のおかげ。つまりボクの命の恩人だったわけか――でも、つまりそれっていうのは
「なんでしょう?」
「ボクは男です!! さっきなんか女の子みたいに言ってましたけど、ボクは生物学上も戸籍上も男ですから!!」
「……へ? あ、あっれー。おかしいな、女の子だと思ったのにな、名前もリュンって書いてあったし」
「それアダ名ですから!!」
「へぇっ!? またなんとも可愛いアダ名で……あ、ホントだ」
なんか、絶対にありえないサイズの名簿みたいなものポケットからだして確認してますけど。
「あぁ~、それは完全にこっちの手違いです。すみません、でもまあ生きているだけ儲けもんってことで」
「うぅ……女の子扱いされてることはあったけど、本当の女の子になるなんて」
「あぁ! いや、本当に申し訳ありません! いちおう新しい世界に、錬金術とか魔法とかいろいろありますし性転換できる方法とか探してみますから、そんな落ち込まないでください!!」
「本当ですか?」
「ほんとの本当ですよ~。この妖精にまかせてください」
「じゃあ、待ってます……」
「えっと、後は……あれ?」
その後も話を続けようとした彼女は、何かに気づいたようにピクッとした。
「リュンさん、寝る前って何しました?」
「え? たしかご飯食べてそのまま眠気が来て……疲れがたまってたのかなって」
「それ本当ですか……あちゃ~、ちょっと待ってください。今からリュンさん無理やり叩き起こします」
「へっ!? ど、どういうこと!?」
「ちょっと、面倒くさいことになってるみたいですから。わたしもここでまた死んでもらうのは色んな意味でごめんなので、起きたらとにかくどうにかしてください。あの体なら、今回は大丈夫なはずですから」
「へっ、ちょっと」
「また、いつかの夢か世界でお会いしましょう。グッドラック!」
彼女がそういった瞬間に、ボクの意識は現実に、異世界のあの体に戻った。
そして、目の前にいたのは、ナイフのような武器を持った昼間に助けたお嬢さんだった。