プロローグ ボクはどうやら死んでしまったようです
背が高い人、低い人に筋肉がつきやすい人とつきにくい人、太りやすい人と太りにくい人とか、この世の中いろいろな人がいて、それぞれコンプレックスをもっている。
かっこいい女子にイケメンな男子とかだってそのひとつで――ボクのこの可愛い男子っていう評価もそのひとつだ。
ボクだって好きでこんな容姿に生まれたわけじゃなかった。
でも、高校生にもなれば、諦めもつくというものでちゃんと向き合い始めた。
さすがに男の娘扱いだとか、そういういじりは断固拒否してるんだけどね。去年の文化祭はメイド服着せられて、ミスコンの特別賞受賞とかになったりもしちゃったけど。
そんなコンプレックスを持ってるボクは男らしくなりたい。それが、七夕や流れ星にお願いする夢だった。
こう見えて性格だって、男らし――
「ほれっ」
「ひゅいっ!? ちょっと、何すんの!!」
「いや、なんかリュンがボーッとしてるから、首筋にアイスをやっただけだ。相変わらず女みたいな悲鳴あげやがって。制服が女子制服だったら、俺は通報されていたぞ」
「女子制服なんて金輪際きないから!!」
今は夏のある日の放課後。友達と帰り道をあるているところ。
ちなみにリュンっていうのはボクのアダ名で、小さい頃からなぜか呼ばれてて高校でもすぐに定着してしまった。本名にかすりもしてないんだけどな。
ちょっと不本意ながらも、退屈はしない普通の学校生活を送っているそんな日だった。
家路の途中で友人と別れて、1人になった時のことです。
少し先に、同じ高校の制服をきた女子が歩いているのが見えました。イヤホンつけて歩いてるから音は聞こえてなさそう。
ただ、それはとても危険を察知するのに邪魔なものとなっていた。
「あぶねえ!!」
その道は、マンションの工事現場の近くだった。鉄骨なんて大きなものとは言わないけど、何かはわからないけど――あの高さから落ちてきたものにあたったら大怪我は間違いなしってことはわかる。
だけど、高いところからの声で何も耳につけてないボクでも反応は遅れてしまった。
というか、なんでこの時に限って、こんな行動をしたのかは定かじゃない。
「んっ!!」
ただボクは走ってその子を突き飛ばした。女の子は少しの距離吹き飛んで、少し強すぎたかなとか考えたかったけど、現実はそんな暇も与えてくれなく後頭部に鈍痛・激痛――とにかく今まで味わったことのないレベルの痛みを受ける。
「えっ!? な、なに――っ!?」
「――――!」
即死にはいたらなかったけど、すぐに意識は朦朧として周りの声なんてはっきりとは聞こえなくなった。はっきりわかるのは何かがぶつかった後頭部がすごく熱いってことと、ボクの血が流れて頬にくるほどの血だまりをつくってるってこと。
「――――!!」
ボクの意識はゆっくりと落ちていった。最期に考えたのは、とてもくだらないことで、少しは男らしい行動だったのかなってことだった。
暗闇に落ちた後、ボクはまだ生きていたらしい。でも視界は晴れない。
そして、声が聞こえる。
『あらら、死んでしまうとは情けない。ですが、ちょうどいいですね。うん、実にちょうどいい。安心してくださーい。もっと面白いところへ連れて行ってあげますから!!』
そんなうさんくさい女の人の声を聞いて、こんどこそボクの意識は堕ちていった。
この時に、ボクは死んでしまったのだ。