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第二章 少年魔術師とドリームランド(1)


 ドリームランド。

 木崎市の南に位置している米国資本の遊園地である。

 もともとこの土地には何もなかった。正確に言えば海だった。海だったその場所には、ゴミを使った埋立地が作られることになった。別にそれだけであれば何の問題も無かったのだが、そこをうまく利用しようと考えた木崎市が土地利用を公共ではなく、民間企業に委託することを発表。それにより、市民への批判が高まったこととなった。

 しかしながらほかの人間にとってそんなことはどうでもよかった。しいて言うならば、その場所が自分の利便性の良いものであればいいという程度の考えしか持っていなかったのだった。

 最初は大型ショッピングセンターを数多く運営する企業が買い取る予定だったが、交通の便を考慮して却下。白紙になってからは数社が買い取りを希望したがいずれもうまく進むことはなかった。

 そして次の年、最終的に米国資本のアミューズメント企業が買収を発表、その土地に巨大遊園地『ドリームランド』を設営することを明らかにした。

 それにより市民はアミューズメント企業『ドリームカンパニー』への批判を拡大、最終的にドリームカンパニーが書面で折衝案を発表するに至った。

 開業後はドリームランドによる木崎市の経済活性化に伴い、市民は掌をひっくり返しているのだが、まあ、それはまた別の話になる。


「……どうして、ここに僕が行く必要があったのか、教えてほしいものだが」


 香月の問いに、顔を赤らめながら答えたのは春歌だった。


「まあ、別にいいのではないかなあ? だって、全然遊べる機会なんて無かったじゃない! しかもドリームランドなんて超有名な遊園地のフリーパスだよ? 使えるうちに使っちゃって、遊ばないと!」

「遊ばないと……っていうけれど、一応聞くが、目的は覚えているよね?」

「……何だっけ?」

「ああ、もう!」


 そう言って香月は頭を抱える。まさか春歌がここまで馬鹿とは思いもしなかったからだ。

 しかし同時に春歌は頭の中があることでいっぱいだった。

 それは好きな人と一緒に遊園地に居られるということ。仕事も含まれているとはいえ、傍から見ればそれはデートの一種であることには変わりない。

 それができることが、彼女にとってはとても嬉しかった。


「まあ、別にいいか……。あとで何とかするよ。説明はどこかで話しながらにしよう。現に、ボスも肩の力を抜いて挑めとは言っていたからね……」

「それじゃ、遊んでいいの?」

「遊ぶ、という言い方は良くないからカモフラージュと言おうか。うん。まだそれなら何とかなる」


 香月はそう言って、心の中で小さく溜息を吐いた。溜息を吐く仕草を表に出さなかったのは、あくまでも彼女に対する思いやりである。

 そうして香月と春歌は遊園地の雑踏の中へと消えていく。

 ユウいわく、あくまでも魔術師だと知られないようにするためには、男女ペアで行動したほうがいいとのことだったが――これはちょっと面倒なことになりそうだ。香月はそう思うと、再び心の中で溜息を吐いた。



 ◇◇◇



「うふふ」


 そして、もう一人の魔術師も遊園地の雑踏の中を歩いていた。

 式山カノン。

 かつて世界五位まで上り詰めたランキングホルダー。

 ランキングホルダーはたとえ刑務所に入ったとしてもそれが消えることは無い。ランキングホルダーがその名前をランキングから消されるときは、実力が相当落ちたか、引退を公式に表明したか、死亡したか――そのいずれかである。

 耳に装着しているインカムを通して、声が聞こえてくる。


『聞こえるか、シェアラ。こちらロメオ』

「こちらシェアラ。そんなこと言わなくても聞こえるわよ、ロメオ」


 シェアラとロメオ――これらはフォネティックコードのSとRを示している。式山カノンのSと、彼女と協力している組織であるリバースアルカナのRを意味している。通信で実際の名前を出してしまうと、誰と誰の通信であるかをすぐに把握されてしまうので、こうやってコードネームで呼んでいるということだ。

 しかしカノンにとってはそれが面倒だった。カノンも刑務所に入る前は魔術師組織に入っていたが、あくまでも一匹狼の行動をとることが殆どだった。だからこそ、団体行動が嫌いで仕方なかった。


『こちらロメオ。爆弾の場所は解っているな? そこへ向かうことだ』

「爆弾ねえ……。こんなこと使わずとも魔術を使えばいいじゃない。爆裂魔法さえ使ってしまえば、爆弾を作る手間が省けるわよ?」

『魔術を使ってしまえば、ばれてしまうだろう? 科学技術で作った賜物であれば、静かに爆発寸前まで気付かれずに済む。人間というのは面白い生き物だよ。自分で作ったもので自分を壊すこともできるのだから、な』

「まるであなたが人間ではないような言い草ね? ……まあ、別にそれはどうでもいいけれど」


 式山カノンは観覧車を見上げる形で見つめる。


『……そうですねえ。まあ、私が人間じゃないかどうかは別にどうでもいい。今は話すべき議題ではありません。とにかく、あなたには為すべきことを成し遂げていただけないと』

「……それくらい、解っているわよ」


 そして、式山カノンは観覧車を見つめたまま――目を閉じた。


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