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第一章 少年魔術師と少女魔術師(4)


「……さて、まだ問題はあるのではないかな?」


 ヘテロダインアジトでの話し合いは、未だに続けられていた。

 ユウがすべてを話し終えた後に、開口一番、香月はそう言った。

 ユウは首を傾げ、――彼に訊ねた。


「ふむ、香月。何かどうかしたかね? 実際問題、君が気になることなど、あまりないと思うが。まあ、私が答えられる範囲で良ければ質問に答えることにしようか」

「……どうして、リバースアルカナが、魔術師を匿っているんだ? だって、その説明が正しければ、それは……『反魔術師勢力』なのだろう? 魔術師なんて、できれば殺してしまいたい、と思っているだろうが」

「しかしながら、それはどうしてだろうねえ? 私もそれは気になっていることなのだけれど、しかし実際判明していないのだから、取り敢えず何とかするしか無い。未だ、それがはっきりしていないのならば、猶更」

「……反魔術師勢力に属さないといけないほどの理由がある」


 そう言ったのは、夢実――香月の妹であり、彼女もまた優秀な魔術師――だった。


「その通り。そして、それは、どういう理由なのか断片的ではあるけれど、判明しているわ」


 そう言ってユウは一枚のカードを取り出した。

 カードを机上に置いて、それを香月たちの居るほうへと投げ出す。摩擦がかかり、ちょうど香月の前でカードは停止した。

 カードに描かれているのは、一人の少年の写真だった。


「……これは?」

「それは誰であるか、ほんとうならば判明させておきたかったところだが……、さすがにそこまで情報は簡単に手に入らなかった。だが、一つだけ判明していることがある。それは、式山カノンの関係者であるということ。そして、その少年が、式山カノンがリバースアルカナに所属せざるを得ない理由の一つであるということだ」

「この少年が……?」

「結局は恋ってことじゃないですか」


 真剣に考察を開始する香月に対して、溜息を吐いてあきれたような表情を浮かべる夢実。


「どういうことだ、夢実?」

「お兄ちゃん、つまりそういうことだよ。これは紛れもない女の勘だけれど」

「まだ中学生になったばかりの人間が、女の勘と言ってもねえ」


 夢実の言葉にユウは茶々を入れてくる。


「……いいじゃないですか。別に、私がそういうことを言ったって。とにかく、この少年はきっと式山カノンの恋愛関係にあった人間ですよ。だから、きっと恋愛の縺れがあったのよ! そうじゃないと、魔術師組織を脱退して犯罪行為に走ることなんて――」

「そもそも、式山カノンが犯罪行為を行った理由もはっきりしていないのよね」

「……何ですって? それなら猶更理解できないわけだが。どうして、式山カノンがわざわざ反魔術師組織に入る必要がある? もし、一人で実現できないことがあったとしても、わざわざ加入するまでも力を示せばいいものを……」

「だから、やはり、それも何らかの理由があるのでしょう。理由なき行動は、単調的行動にしかならない。しかしながらここまで複雑になってくると何らかの理由が確実にあるはず。そうでないと、それは人間ではなく、ただのロボットと同じだからね」

「確かにその通りですね。けれど、それはどこまで確証が掴めているものなのかな?」


 香月の問いに、ユウはすぐに答えられなかった。そういうところを見ると、どうやらユウ自身もあまりこの考えにいいものを見いだせていないようだった。

 香月は溜息を吐いて、立ち上がる。


「まあ、取り敢えず、ボスの言い分は解った。このまま話していても何も進まないし、とにかくこちらとしては従うしかない。こちらは仕事を請け負うのだから。……で? さすがに一人で行動するのはいかがなものかと思う、とか言い出すのではないでしょうね?」

「そこまで解っているのならば、その言葉を言わないでほしいのだけれどね……。まあ、いいわ。香月くん、あなたも理解しているだろうから、さっさと話を進めてしまうけれど、今度の敵はこれまで以上に強力な相手よ。だから、あなた一人でこの仕事を行わせるわけにはいかない」


 ユウは漸く立ち上がると、香月と夢実を指さした。


「だから、香月くん、君のパートナーとして、夢実を推薦しようと考えている。君としても、信頼できる相手のほうがパートナーとして向いているだろう? 私だって幾つも考えていたのだが、やっぱり香月くんが納得してくれるのは夢実、君がパートナーになるしか無いと思っていたからね。どうだい? 香月くん、夢実」

「僕は別にかまわないが……」

「私は、別の人を推薦します」


 香月は夢実の予想外の返答に、思わず彼女のほうを向いた。

 香月は正直、夢実も二つ返事で了承するものだと思っていたからだ。これがこうもあっさりと否定されると、ユウもバツが悪そうな表情を浮かべるしかなかった。


「……別の人、と言ったか? 誰か君以上に合致するパートナーが居るのかな?」

「城山春歌、彼女ならば『力』を見ることができます。だから、魔術師の不意打ちにも対抗できるのではないでしょうか。もちろん、魔術師の根幹的な力を考えると私をパートナーにしたほうがいいのかもしれません。しかし、彼女の、春歌さんの特異的体質のことを考慮に入れると――」

「成る程、彼女か。確かにその体質があったな」


 城山春歌は、一般人なら――場合によっては魔術師すら見ることの出来ない『力』を可視化してしまう力を持つ。もちろん、それは別の人に伝播するわけではなく、彼女自身しか見ることができない。だから、彼女がその力に対して知識を持っていないと、まったくの無駄、宝の持ち腐れになるというわけだ。

 香月と出会った当初はまさに宝の持ち腐れとなっていたが、それからヘテロダインに所属して魔術師としての修業を積むようになって、魔術師としての力とともに体質に対しての知識も蓄えるようになった。だから、ユウは彼女をそろそろ実戦に連れて行ってもいいだろう――そう思った。

 だから、ユウは頷いた。


「解った。では、彼女には私から話しておこう。香月、春歌がパートナーになったとしても、何の不都合も無いな?」


 その言葉に、香月はしっかりと頷いた。


第二章に続く。

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