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第三章 少年魔術師と魔術の卵(4)

「本当はね、あなたを魔術師から解任しようかとも思ったのよ」


 通された会議室にて、ユウは開口一番そう告げた。

 何故か、と質問する気にはなれなかった。


「彼女が死んでから、あなたの精神は創造を上回る疲弊を負ってしまった。それは、魔術師の任務を熟すことが出来ないぐらいに、ね。だから、私はあなたを解任する形にして、休暇を与えようとしたの。……けれど、その様子だと、それをしちゃあ、どこへ消えてしまうか分かったものでは無い。この世から居なくなる可能性だって充分に考えられる。後追い、とは言わないけれど、まさにその通りのことをしようたって、可能性は充分に有り得るの」

「そんなことは……」


 しない、とは言い切れなかった。

 やらない、と言える訳が無かった。

 何せ今の状態を見て、『消えてしまいそうだ』と客観的に見てその通りの判断をされてしまったのだから。


「だから、私としては、行えることはただ一つ。……元々あなたに課していた任務を覚えていますね?」

「式山カノンの……確保、でしたね?」

「そう。それを成し遂げて貰いたいのです。あなたがどうであろうと、それは絶対にやらなくてはならない。式山カノンは今や魔術師界と、人間界にある平穏を破壊しようとしているのですから」

「それを、引き続き僕にやらせて問題無いんですか?」

「……どうして?」


 ユウは不敵な笑みを浮かべる。

 ほんとうに、この人の考えは『読めない』と彼は思った。


「僕は、彼女を殺されたんですよ。式山カノンに。復讐をするという判断は思わないのですか」

「そうね。確かにそういう判断を下すことだって充分に有り得る。それに、それは私以外の人間もそう思っていたこと。本当に彼に任務を継続させて良いものか、そう言った人間だって居たわ」


 一息。


「けれど、最終的に判断を下したのは私です。任務を受け渡したのは、私であり、あなたにその任務を下すことが正しいと判断したから。だから、仮に別の魔術師にそれを受け渡したところできっとあなたは納得しない。そう判断したのですよ。おわかりになりますか、柊木香月」

「それは……!」


 何も言えなかった。何も言い出せなかった。

 いずれにせよ、ユウ・ルーチンハーグはまだ香月のことを信頼している。だからこそそのような発言が出来るのだ。香月はそう思っていた。

 香月はそれに感謝しつつ、告げる。


「分かりました。……どこまでやれるかは分かりません。けれど、絶対にその任務を達成してみせます」

「そう言って貰えて助かりますよ。それと、もう一つ任務を追加したいのですが、宜しいですか」

「もう一つ?」

「そう。『リバース・アルカナ』はあるものを欲している。そしてそれもまた、この街にあると言われている」

「それは、いったい」

「魔神の卵」


 ユウは、一言だけ呟いた。


「アルカナ・ユニオンはそう言っていたわ」

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