神様からの異世界召喚陣から逃げる俺の一日。
神様(笑)vs平凡な少年
「ふむ。これが今回の異世界召喚に選ばれた人間か。案外パッとしない人間だな。だが、こういう人間ほど環境が変わると激変するものか」
とある空間の中。一人の女性が宙に浮くように佇んでいた。長く広がる煌びやかな金髪に黄金比率と言われるような身体と顔。
それは人間で言うところの神と呼ばれる存在だった。世界と世界を繋ぐ神。世界から異世界へと人を転移させる神。所謂異世界召喚を司る神だった。
「さて、始めるとするか。あー、ぶっちゃけめんどくさい。ちゃっちゃと終わらせてゲームしちゃおー」
「エル様。随分ぶっちゃけてますが、貴方様のお仕事はそれだけではありませんよ。ゲームをする暇なんてありません。こちらに山ほどありますので、ちゃっちゃっと済ませた後も仕事です」
「……メルダ。君は私に死ねというのか」
「神様はそう簡単に死ぬような体ではございませんので、安心して仕事できますよ」
「体は大丈夫でも心が死んじゃう!癒しのない生活なんて嫌だ!」
エルはメルダへ涙目でそう訴えるが、神様なので大丈夫です。それにもう充分にゲームをしたじゃないですか、とメリダは無視した。
「それに三百年も仕事ほったらかして部屋に籠ってたのは誰ですか。よかったですよ、異世界召喚の依頼が来て。このまま一生出て来なかったら最終手段しかありませんでしたよ」
「……ちなみに最終手段って?」
「……アマリリス様」
「ぎゃああぁぁああ、嫌だぁぁぁあぁあ!! それだけは嫌だ! 絶対ヤダ!!」
「私だって嫌ですよ、巻き込まれますし。けどもうエル様が部屋から出てきたのでその必要はなくなりましたから私も一安心です。次に部屋に篭ったら呼びますから」
アマリリス様というのが誰なのか分からないが二人の様子からしてかなりぶっ飛んだ神様であることは分かる。首が取れるのではないかと思うほどにコクコクと頭をふるエルの様子がそれを物語っていた。
▼▽▼▽▼▽
「ふぁあ……」
とある部屋のベッドの上で一人の少年が起床すると見せかけて寝た。いわゆる二度寝である。
__バタバタバタガチャン!!
「おらっ、起きろ。朝だ、朝食だ、学校だぁ!!」
「うぅ、……ぐえっ!?」
部屋から入ってきた女は少年を叩き起こした後、問答無用とばかりに襟を掴み引きずる。部屋を出る際、引きずられながらベッドの上で何かが光っているのが見えた。
「……母さん、ベッドが光ってる」
「何言ってんの。まだ寝ぼけてんのなら一階まで引きずって目を覚まさせてやるよ」
ベッドが光るなんてあり得ないし、母の言う通り寝ぼけていたんだろう、ということで納得したと同時にお尻から落ちた。
「あぅ、あぅ、あぅ、あぅ、あぅ」
階段であった。お尻がすごく痛い。
△▲△▲△▲
「あぁ!? 外れたよ!!」
「何やってるんですか、ちゃんと狙わないから」
「しょうがないじゃん、私こういうの苦手なんだもん」
「なにが、もん、ですか。日頃ゲームばっかりしてるからですよ。だいたい神様なのになんで発動に二時間かかってるんですか。前任の神様は瞬時発動で捕獲率百パーセントでしたよ」
「じゃあ、代わりにメルダやってよ」
「私は担当ではないので使えません。それにエル様自身の力でないとアマリリス様も黙ってはいないと思うのですが」
「それもそうか。むぅ、次は当てる」
「今日しかチャンスはないんですから、しっかり狙ってくださいね、ただでさえ発動に時間かかるのに」
その言葉を背にエルは再び何かを呟き始める。きっと異世界召喚陣の生成の詠唱であろう。
二時間後、完成間際に
「あ、あと一般人は巻き込まないでくださいね」
「え」
▼▽▼▽▼▽
「また、居眠りか!廊下に立ってろ!!」
授業中、あまりの眠さにバレないように黒板にノートを書き写してるフリをして寝たのに何故バレたし。
顔に出ていたのか、「そりゃ、授業で当てたのに微動だにせずにいたら、寝てることなんてバレるに決まっているわ」と隣の友達に言われた。
というか廊下に立ってろ、って今の時代は体罰になるんじゃなかったっけ?まぁ、廊下で立ってればいいんだから、寝てもいいよな。
そんなくだらない思考をしながら廊下へと出る。
「先生!教室の床いっぱいになんか幾何学模様が広がっています!」
「魔法陣キタ!異世界召喚キタ!」
「誰だ!こんなイタズラいつの間に仕掛けたのは!とりあえずみんなこういう時は机の下に隠れて!」
「先生、原因が床なのだから逆に危ないかと!」
「じゃあ上だ!机の上に乗れ!」
「ふははははは、俺は異世界の王となる!」
「何やってんだ、早く乗れ」
「ちょ、やめろ!?俺は異世界の王になるんだ!」
「無駄なことはするな。大人しくしろ」
「アーーーーーッ!!!」
ガチャガチャガチャン!
なにやら教室の中が光ったりして騒がしかったので、立ち寝を止めて教室の扉を開けて中の様子を見る。
「…………なにこれ」
教室の中にいる生徒と教師の全員が机の上に器用に乗っていた。
△▲△▲△▲
「何やってるんですか!?」
「え、いやだってメリダが言うの遅かったじゃん」
「確かに私も遅かった自覚はありましたけど、少し考えればわかることです。ていうか、バカなのかアホなのか賢いのか分かりませんけど、今回はあの教室の生徒たちに救われましたね、もし巻き込んでたらアマリリス様に……ガクブルガクブル」
「確かに危なかった……ガクブルガクブル」
「というか机で召喚陣から避けられるもんなんですね」
「それ、私も今初めて知った」
「あの少年に関しては範囲内に一度も入ってないですけど」
「次は当てる!! 次こそは!」
「なんかフラグ建ってそうですね。ちゃんと範囲絞ってくださいね」
「任せろ!大きさを数でカバーする!」
そしてまた二時間。
▼▽▼▽▼▽
「いただきます」
昼食。中庭の木陰の中で心地いい風に吹かれながら購買で買ったカツとキャベツ、それにからしマヨを挟んだサンドイッチを食べる。このピリ辛にハマる!
ちなみに母は弁当を作らない派なので、ほぼ毎日購買で買っている。
昼休みは当然生徒たちの行列ができるため、なかなかに食べたいものが食べられない時が多い。特に四時間目が体育だったりすると、位置的にも着替える時間的にも遠いためほとんどの確率でコッペパンとなる。というか俺のほぼ毎日の昼飯はコッペパンとカフェオレだ。
しかし、今日はいつもの体育教師が体調不良で欠席したために、自習となり担当しためんどくさがりな先生が早めに終わってくれたのだ。おお、あなたが神か。
そのお陰で俺は昼休みで比較的早めに並ぶことができ、このからしマヨ入りカツサンドをゲットすることができたのだった。
ふははは、今日の俺は負け組とは違うのだ!!
そんなことを考えていただからだろうか。二つ目のからしマヨ入りカツサンドを口に入れようとする瞬間に俺のからしマヨ入りカツサンドが手から離れた。
「にゃー」
「っ!?」
消えたからしマヨ入りカツサンドの行方を追えば、少し離れたところにデフ猫がいた。まるで猫のガキ大将のようなクソ生意気な雰囲気を感じる。そしてその口元にはマヨ入りカツサンド。
猫なら黙って魚食えよ、という突っ込みたい気持ちをなんとか抑えて、俺の大事な大事な食料であるからしマヨ入りカツサンドを取り戻す為、ゆっくりとデブ猫に近づく。
「にゃあ」
「ぎゃふ」
そしてあと少しで手が届くというところでデブ猫は俺の顔を踏み台にして木の上の枝へと登る。
そして俺を嘲笑うかのようにからしマヨ入りカツサンドを食べきって丸くなった。
「にゃぁ……げぷっ」
あ、げっぷしやがった。
「このクソデブ猫。俺のからしマヨ入りカツサンド奪ったことを後悔させてやる」
ガンっと、俺の渾身の怒りを込めて木を蹴りつけると油断していたのかデブ猫が落っこちた。
「にゃにゃ!?」
「ぎゃふ」
しかし、流石は猫と言ったところか。太っていようとも身軽に着地した。それも、ご丁寧に俺の顔の上を踏み台にしてから。
「……もう許さんぞデブ猫。猫だからって容赦はしない!!」
「にゃ」
小馬鹿にしたかのようなデフ猫の返しを受けて俺は飛びかかる。しかし、鮮やかに回避されてなかなか捕まえるどころか触れることすらままならなかった。こいつ、速い!
なんか地面がピカピカ光っているような気がするがそんなものは知らん。俺はデブ猫を捕まえることに専念した。
△▲△▲△▲
「なんで!? なんで当たらないの!?」
「失礼ながら、エル様の腕がヘボいのかと」
「ホントに失礼だね!?」
「事実ですので」
「ぬぅぅー」
「悔しかったら当てればいいのです」
「なんか気に触る言い方だね」
「事実ですので」
「ぬあーーー!!」
そしてまた二時間。
▼▽▼▽▼▽
「あー……掃除だりぃ……」
校庭に散らばる落ち葉を箒でかき集め、ゴミ袋へと突っ込む。
「てか、毎日毎日どっからこんなに落ち葉出てくるんだよ」
俺の掃除する校庭は掃除をすると、どこからともなく落ち葉が出てくる出てくる。そして、俺の横にはゴミ袋十数個が積み上げられていた。もちろん一人で掃除をしているわけではない。
「はい、集めてきたよー」
「だから、どっからこの落ち葉は湧き出てくんだよ。持っていくやつの気持ち考えろよ……」
近くにいた男子数名が俺の言葉に賛同するかのように頷く。女子が落ち葉をかき集め、男子が纏めてゴミ捨てに持っていく。そんな流れが俺たちのグループにはできていた。
「男なんだから文句を言わない! ほら、持ってった、持ってった!!」
「「「へーい」」」
愚痴愚痴言いながらもやるのが、日本人たる男子の健全たる姿である。所詮男は女の尻に敷かれるのだ。それでいいのか日本男児よ。
詰めすぎて見た目軽そうなのに実はすごく重いゴミ袋を両手に持って運ぶ。それだけで腕がプルプルしてる。他の男子も同様だ。たまに豪快に笑いながら走っていくやつがいるがそいつは俺たちとは別のカテゴリだ。
「「「ふぃーーー……はぁ」」」
なんとごみ捨て場まで運び切って、一安心。乳酸が溜まったであろう腕をふるふる振ってほぐす。そしてため息。まだ、あと二往復ほどしなければならないからだ。
「ぬぬぬぬぬ!!!」
「………おいおい」
そして、戻ると大量のゴミ袋を乗せたねこ車がこっちに向かって来ていた。積み上げられたゴミ袋は不安定に揺れている。今にも崩れてしまいそうだ。
「おわわわわわわわわ!!??」
そして、案の定崩れて大量のゴミ袋が俺たちに向かって雪崩れ込んできた。結び目が解けたのかゴミ袋から落ち葉が出てくる。まさに落ち葉の雪崩が起きた。
「「「ぎゃああああああああああ!?!!?」」」
で、もちろん成す術もなく大量の落ち葉の中に埋もれてしまった。
ぺかー。
「あれ? 今なんか光らなかった?」
「んー別に光ってないけど?」
「えー、絶対光ったってこうピカーッ!!と」
「そんなわけないじゃん」
ぺかー。
「……ほんとだ。なんだろあれ」
「おー、光ってるー!」
「なんか今日はよく光るねー」
っておい!
「のんきに会話してないで
「「助けてくれよ」」」
埋もれた中から俺たちは助けを呼ぶ。あぁ、これで女子に借りができてしまった。原因彼女らだけども、こうやって俺たちの尻が敷かれていくんだろう。それでいいのか日本男女。
△▲△▲△▲
「なんで!? なんで私の召喚陣が発動してるのに効いてないの!?」
「おそらく落ち葉が原因かと。先ほども机で防がれましたし」
「え!? 私の召喚陣ってたかだか落ち葉や机で無効化されるの!? 負けたの!?」
「落ち葉に邪魔される神様………ぷっ」
「あっ! メリダ今笑ったよね!!嘲笑ったよね!!」
「失礼ながら、落ち葉に邪魔されるエル様……いえ、神(笑)様が悪いのです」
「あっ、神の後に(笑)をつけるなーーー!!!!」
「プークスクス」
「おっ、おもてでろぉおおおおお!!!!」
そしてまた二時間(笑)。
「ぬぬぬ。次こそは……」
「エル様。お待ちください」
「な、なんだ。急にどうした」
「たとえ今召喚陣を発動したとて、また失敗して二時間後になってしまうでしょう」
「だ、ダリアは私をバカにしているのか」
「二度どころか三度四度と失敗してるじゃないですか」
「……うっ」
「ですので、流石に私も真面目に考えてみました」
「………」
エルはここまで真面目ではなかったというダリアを涙目で睨んだ。自分はここまで真面目に考えていたのに、と。まぁ、ちゃっちゃと終わらせてゲームやらして癒しを得たい、という欲望のためなのだが。ここまでくるといっそ清々しい。
「ですので、彼が寝てから召喚陣を発動させてみてはいかがでしょうか。今のところ何かしらハプニングが起きたからこそ、できなかったわけですし」
「確かにそれはそうだな。確実に成功するであろう」
ダリアの言葉に多少考え込んでエルは顔を上げた。
「だが断る!」
「え」
「ここまで来ればもう意地だ! どうせ失敗しても、もう二時間立てば丁度あの少年も寝る頃になるだろうからな。どうせならやる。為せば成る。為さねば成らぬだ!」
「そこまでいうのなら私は止めませんけどね」
こうして、少年と神の最後の勝負?(寝てる時は成功するだろうから)が始まったのだった。まぁ、少年は召喚陣だと気づいてはいないのだけれども。
▼▽▼▽▼▽
「ぬおぉぉぉおおお!!!なんなんだぁぁあ!!!」
少年は走る走る。それはもうかつての友の為に走ったかのメロスのように走る。
「色々とおかしいだろぉぉぉおおお!」
ぺかー。
近くに飛び出してきた子供を抱えて、安全なところに下ろしてまた走る。
「おにいちゃーん、ありがとー」
小さな子供に答える余裕などない。なぜならあちこちからトラックやらワゴン車やらが突っ込んでくるのだ。俺に向かって。なのに事故は起きてないという不思議仕様。
俺が見る限り、運転手はみんな居眠りをしていたのにも関わらずだ。壁に激突するどころか車同士の接触もない。なにこれ怖い。
ぺかー。
偶然とは思えない出来事の連続に本能が逃げろと警報を鳴らす。
てか、さっきから轢かれそうな瞬間に足元光るのはなに!? なんか怖いから避けてるけども。謎すぎる。
「うわぁぁああ!!?? また来たぁぁああああ!!!???」
もうやだぁぁあああああ!!??
△▲△▲△▲
「ぬあぁぁあ、当たれぇ!当たれえええええ!!」
「エ、エル様流石にこれはやりすぎじゃないのかと…周囲がめちゃくちゃですよ」
「事故は起こってないんだからいいじゃん」
「いくらエル様がコントロールしてるからといっても……」
「え? 私そんなことしてないよ?」
「え」
「え」
「「…………え?」」
固まる二人。
「ふふふ」
そしてその後ろから声が聞こえてきた。絶対零度のように冷たい声が。いや絶対零度なんか比にならないであろう。
「「ア、アマリリス様……」」
「なんか、下が騒がしいからちょっ〜と来てみれば……随分やらかしてくれましたね、ふふふ。ふふふふふふふふ」
二人の後ろには般若を背負った、いやそんなものでは生温い。魑魅魍魎を背負った見るもの全てが阿鼻叫喚となってしまうのではないかと思うほどの恐ろしさを放つアマリリスがいた。
「ちょっと、ナレーター」
はっ、はい!
「ちゃんと、それじゃ私がただ怖いだけの神様みたいじゃない、やり直しなさい。次はないわよ?」
ひ、ひぃっ!?了解であります! で、では気を取り直して……
二人の後ろには般若を背負った、いやそんなものは生温いであろう。魑魅魍魎を背負った見るもの全てが阿鼻叫喚となってしまうのではないかと思うほどの恐ろしさを放つと同時に非常にお美しく、見るものの目を離さない(いろんな意味で)アマリリス様がいた。
「……まぁ、言いたいことはあるけど、それで良しとしてあげましょう」
……ほっ。
「それで?……エル? ダリア? 貴方達覚悟はできているわよね?」
名前を呼ばれ、びくりと身体が震えるエルとダリア。
「あ、あのアマリリス様これには訳が……」
「黙りなさい」
「「ガクブルガクブル」」
そして、エルとダリアは神様や天使にはあるはずのない死を久しぶりに感じたのだった。
▼▽▼▽▼▽
「……はぁ。今日は一体何だったんだ」
乾きかけの頭を水分をタオルで吹きながら、ベッドへとダイブして今日のことを振り返る。
「思えば、なんか一日中光ってたような……」
朝はベッドが。授業中に教室が。デブ猫との逃走中の中庭で。雪崩の起きた落ち葉の下で。帰りの車に轢かれそうになった瞬間の足元で。ぺかぺか光りすぎて鬱陶しいわ。
「もう、ほんと疲れた。マジ疲れた。こういう時は寝よう。それがいい、そうしよう」
考えるのがめんどくさくなって俺は意識をベッドに沈めていく。
そうして沈んでいく意識の中、閉じられていく瞼の隙間からほんの少しベッドが光ったのが見えたような気がした……。
お読みくださり感謝です(・ω・)ノシ
あ、あと評価してくれたりしたら作者が小躍りすると思います( ´ ω ` )ワクワク