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とりあえず筋肉増強プログラム

第一話は異世界に行くまでとなってます。

勢いまかせで書いてるので誤字脱字やおかしな展開あると思いますがご容赦ください。

春爛漫。健康診断の時期がやってきた。

俺の大学は入学式の後に健康診断をぶつけてくる。まじめに入学式に出席した1年生のときはいいが、2年生以降は入学式なんて他人のイベントだ。

午後からの中途半端な時間を潰されたことで、俺は暇人のくせにむしょうに腹が立っていた。暇人だって、春のうららかな午後には家の布団で丸くなるという大事な予定があるのだ。

サークル勧誘の波を迷惑そうにかわしながら、健康診断の会場となった校舎へと向かう。

桜並木にはひしめくようにして、学生たちが新入生向けのチラシを配っていた。


大学のサークルはたいてい3パターンに分かれる。

1つ目は、高校の部活の延長のような真面目なサークルだ。スポーツや音楽系と様々だが、低予算で真面目にやってるのはもっぱら文芸部という噂だった。ただし地味。

2つ目は、完全なる飲みサー。軽い男と軽い女同士が合コンのノリで部活動なんぞせずに花見だ新歓だと飲みまくり、ただれた学生生活を送る。大抵はスポーツ絡みのサークルで、テニサーとスノースポーツ系が1番チャラい。テニサーに入っている女子というだけで、何人と寝たか分かったもんじゃない。

3つ目は、就職活動を目前にして大学生活でアピールできる活動をなにもしてこなかった奴らの駆け込み寺とかしたボランティア系のサークル。内定をとるために必死の、要するに見た目がパッとしないやつが入る。就職活動って結局顔と要領だからな。


俺はというと、どこにも属していない。いわゆる孤高の一匹狼……という、いや、カッコつけるのはやめよう。ぼっち……というか、まあそんなかんじだ。平たく言ってしまえば俺は大学生活の出だしをすっ転び、彼女はおろか友達の一人もいやしない。飲みサーはもちろんまともなサークルにだって単身乗り込む勇気もなかった。

チラシを配っていた茶髪の女子とぶつかった。スカートのしたからむきだしになった素足は、若干太めでむっちりとしている。

彼女は俺を見た途端あからさまに嫌な顔をして、すぐそばにいた同じような格好の女子のところへ逃げて行ってしまった。やだー、とか大丈夫?とかいう耳障りな高い声がいやでも入ってくる。

俺は心の中で舌打ちをする。

くそっ…俺がもし筋肉ムキムキの黒人だったら、お前絶対そんな態度とらねえだろ。グラサン越しに睨まれたくなくて道譲るだろ。

俺は着古したシャツの裾をちらりと見やって、ため息をついた。

俺はマッチョなんて程遠い、ガリガリのもやしみたいな体型だった。太ってないだけまだいいじゃないなんて中年太りの母親はいうけど、鍛えてない男の痩せた体というのはデブに匹敵するほど見苦しいのだ。しかも清潔感がない。顔はなぜか吹き出物だらけだし、額はいつも脂ぎっている。痩せているのにこんなに脂がのるなんておかしいだろ。どういう理屈だよ。




やはり俺の体重は今年も55キロだった。背も低いし致し方ない。

健康診断は体重測定を終え、次は内科検診を残すばかりとなった。俺はこれがひそかな楽しみだったのだ。

仕切られたカーテンの向こうには白衣を着た女医さんがいた。女性でよかった。心の中で歓喜しておく。

年齢は30代後半ってところだ。特別美人ってわけじゃないけど、黒髪を束ねて細い首筋があらわになっている。落ち着いた雰囲気で…黒いパンストがいい。うん、かなり好みだ。

俺は、年上の女性にめっぽう弱い。


同い年の女子からキモがられていたせいもあって、高校のころ、俺はちょくちょく保健室やらカウンセラールームやらに世話になっていた。男友達というか、クラスであぶれないようにするために友達のふりをした顔見知りのようなやつもいたけど、なにしろ俺は無趣味なもんで話もはずまない。

ゲームや漫画なんかはその頃の知り合いに借りたことはあるけど、暇つぶし程度でガッツリハマる方じゃなかった。少なくとも貸し主ほどの情熱はなかったな。


教室へ行くのがおっくうな気分になった時、癒してくれたのはいつも年上の女性たちだった。

彼女たちだって俺のことをキモいと思っているかもしれないが、そんな態度をおくびにも出さない。

こんな俺の話も真摯に聞いてくれる。いや、もちろん仕事だからってわかってるけどさ。


女医さんはひやりとした指を俺の首筋にあてた。甲状腺かなにかみてんのか?なんか変な汗かいてかた。

それから聴診器で胸の音をきかれる。年上の女性とカーテンで仕切られた個室でふたりきりか…動機がおかしくなるな。

「運動はしないの?」

女医さんにぽうっとしていたので、彼女の質問を聞き逃した。

「えっ、うう?」

おいおい、我ながらキモいな。パードゥン?って意味にとても聞こえないんだが。

「アンケートの「週に何回かの運動をする予定はありますか」って質問に、峯岸くんはありますって答えてるわね。去年も同じ回答だったようだけど、その後いかが?」

「えーと、それは…」

峯岸くんとは俺のことだ。そして運動するつもりがあると答えたのも、俺。去年も同回答で結果なわとびのひとつもやりゃしなかった。

なんとなく、運動する気は一向にありませんって書くのは気が引けたんだよな。まぎれもなく本心なんだけど。

「体を鍛えるっていいことよ。特にパソコン作業されたりする場合は、慢性的な肩こりになりやすいし。まあ、男の人は少ないけどね」

「は、はい」

「それに、男の子なら筋肉質な体型にも憧れたりするんじゃない?」

 自分のもやし具合を指摘されているようで、俺は言葉に詰まった。この女医さん、俺のコンプレックスをがつんと狙い撃ちしてきやがった。

「もし希望されるなら、運動のカリキュラムを組んで上げられるわよ。練習通りのメニューをこなすだけなの。自宅でもできるから」

 彼女は机に乗っていたパンフレットを、俺に手渡した。

 パンフレットには、おすすめの食事メニューや体操のほかに、CD-ROMがついている。これ、なんとかブートキャンプみたいなやつかい?

自分に自信の持てる体になる、というキャッチフレーズでプロレス選手のような体型の黒人が笑顔を決めている。

「体力作りを視野に入れている学生さんに配布しているのよ。このプログラムに、市の病院も協力しているの。体操をはじめてきつかったとか、なにか変化があったとかそういうことがあったら、私に連絡をくれる?」

 体操かあ、やる気ねえな…これ絶対やらんわ…と思いながら聞き流していた俺は、顔をあげた。

「れ、連絡ですか?」

「そう、私に。なんでも相談に乗るわよ」

女医さんは名刺を取り出して、俺に手渡してくれる。かがみこんだとかに、ふわりといい匂いがした。



第三病院 0×-××××-××××

内科医師 遠藤涼子



 なんだ…個人番号じゃないのか。

 というか当たり前か。

 遠藤さんは俺の手をぎゅっと握って、笑顔になった。

「一緒に健康な体づくりを目指しましょうね」

 俺は単純なので、その笑顔ひとつで遠藤さんと一線を越えるところまで容易に想像できました。




 自宅に帰ってから、俺はCD-ROMをパソコンに入れてみた。

 本気で運動する気はなかったけど、まあもらったのにそのまま捨てるのもな。遠藤さんに連絡とかはさすがに勇気なかったけど、一応妄想の中で俺と遠藤さんはすでに抜き差しならない関係性だし、彼女のくれたものくらいは見ておかないと。


 ギュギュ…ギュキュ…キュイィーー…ブゴッ…ジュ…


 パソコンが変な音をたてはじめたので、俺はあわてた。

 なんだこれ。もしかしてCD-ROMじゃなくてブルーレイディスクだった系?

 俺のパソコンブルーレイは非対応なんだけど……。

 ディスクを取り出そうとした瞬間、俺の指先にバチンと火花みたいなものが散った。目がチカチカする。体が熱い。なんだかわからん、これ感電したのか?




 視界がすっきりと晴れると、俺は自分を取り巻く状況がまったくわからずに、あぜんとした。

 酒場のような場所だった。カウンターの向こうにやたらとボトルがキープしてある。でも全国チェーン店よくある居酒屋じゃない。木造の建物のようで、どこかの西部劇のセットみたいだ。こういうところで、旅の仲間を探したりするんだよな。借りたゲームでそんな展開何度もあった。

 なぜか俺は椅子に座っていて、目の前には茶色っぽい変な色の炭酸系の飲み物がひとつ。シュワーと音を立てている。

 そんな俺を取り囲むように、外国人たちがたくさんいる。なんかよくわかんない威圧感。しかもどいつもこいつもガタイがいい。俺くらい片手でへし折れそうだ。

 で、俺の自室じゃありませんよと。

 ……てゆうか、指熱かったけど、火傷したっけ?

 俺は手元を見て驚愕した。

 ごつごつと節くれだった太い指。ちょっと前これくらいのソーセージ食ったぞ。たしかポトフに入っていて…まて、落ち着こう。これは明らかに俺の指じゃない。

 指先を動かしてみると、極太のソーセージが遠慮がちに反応した。




まあ、とりあえず

――絶叫しました。

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