表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜列車  作者: マーゼス
2/2

マーゼスとシェリー

私が帰宅したのは午前5時半のことだった。家の鍵を開け、高いヒールを脱ぎ、


「ただいま」


と一声かけると、そこには20代後半の男が立っていた。背丈は175cm程。眠そうに目を擦っている。だぼだぼのTシャツとジャージのズボンから察するに、今日も徹夜だったのだろう。徹夜ではない彼は髭も剃っていてとても恰好いいのだけれど、徹夜明けの髭が伸びた眠そうな顔も可愛くて私は好きだ。


「...おかえり」


「ただいま。寝ててもいいのよ?」


そう言いながらハンガーにコートを掛けると、飼い猫のアランがいつの間にか足元に擦り寄っていた。顎の下を撫でてやれば、ゴロゴロと喉を鳴らす。久し振りの感覚に笑みが漏れた。


「いや、朝飯作ったらねる...なにがいい?」


「そうね...じゃあいつものをお願いするわ」


「りょうかい」



名残惜しさを感じながらアランから手を引くと、ダイニングの椅子へ力を抜いて座り込む。ちらりとキッチンを見れば、眠そうに目を擦りながらゆったりと動いている姿が見えた。

この男の名はシェリーと言って、三年程前からこの家に居候している。急に私の家に押し掛けてきたかと思えば、ドアを開けての第一声が『居候させてくれ』だったものだから、とても驚いたのを覚えている。

元々仕事上よく一緒になったりもしていたのもあって、この家に馴染むのはそう遅くはなかった。今となっては家に誰もいないと寂しいものがあるぐらいだ。

仕事で家を空ける事が多い私より、PCで仕事をするシェリーの方がこの家の主らしくなってきていて、飼い猫のアランもよくシェリーに懐いている。

私はカウンターキッチンの椅子に腰掛けてトポトポと注がれた珈琲に角砂糖を一つ入れる。ブラックは苦すぎて飲めない。少しかき混ぜ、それから熱い珈琲に息を吹きかけた。湯気がゆらりと揺れる。



「はいよ、」と、しばらくして私の目の前には食パンの上にスクランブルエッグを乗せた『いつもの』が置かれた。ちらりと上を見れば眠そうなシェリーがいる。


「無理しなくて良いのよ?」


そう言うと、シェリーは眉間に皺を寄せながら一つ欠伸をした。


「俺は大丈夫。それより報告書まとめないとやばいんじゃないか?明日か明後日には本部まで行かなくちゃいけないんだろ?」


全く本部も鬼だよな、とぶつぶつ呟きながらドカッと椅子に座るシェリーを見る。珈琲を入れたカップを持つ手が怪しい。


「それ、零さないようにね」


シェリーは一瞬ワケがわからないという顔をしたが、珈琲のことを言っているのだとわかると眉を上げ、ズズッと珈琲を飲んで言った。


「それぐらいわかってらぁ」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ