表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

短編小説

美しかったこの世界

作者: 山川 景

 子どものころは、この世界は美しかった。


 青い空に、白い雲。きれいな街並み、きれいな景色。道行く大人はかっこよく、友だちとは最高に楽しい仲。


 愛しかった。自分も、皆も、この世界も。


 俺の目には「未来」が見えていた。それは可能性に満ち溢れた、輝く「未来」。




 でも俺には、「力」がなかった。俺にはそれが嫌だった。


 だから俺は努力した。それなりにだけど、俺らしく。


 仕方のないことだけれど、人を蹴落として、利用したりもしてしまった。そうしないと、それをされるのは俺の方なんだから。




 時が流れて。


 やがて、俺は「力」を身につけた。


 出来ないことも、出来るようになった。望んだものを、手に入れたんだ。




 あるとき気付いた。


 この世界は醜かった。


 よどんだ空。無機質な街並み、窮屈な景色。道行く人々は疲れた顔で、人付き合いは最悪なほど難しい。


 失望してしまった。自分に、皆に、この世界に。


 そのときにはもう、俺の目には何も見えてはいなかった。




 この世界は、最初から醜かったんだ。

















 ……あれ……?




 いいや。


 いいや、違うだろ。




 醜くなってしまったのは、俺の方だ。




 俺自身が、黒く染まってしまった。


 真っ黒に染めてしまった、目に見えるものでさえも。




 そう、そうだった。




 俺を――――変えたい。


 変わりたい。




 「力」はもういい。


 今度は人を、愛するために。


 自分を、愛するために。




 また、美しいはずのこの世界が、美しく見えるように。


 また俺のこの目に、いつか「未来」が映るように。




 あのときの自分に、がっかりなんかされないように。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 短い中に、いつの間にか大人になってしまったことの葛藤や心情が上手く描写されていて、言葉の使い方が巧みだなと思いました。 [気になる点] 特にないです。 [一言] あめ猫様の作品、どれも素晴…
[一言] 素敵なお話しですね。 まるで歌のようだと思いました。 変化していく自分、そして、世間や周囲。 それでも前向きに生きていこうとするところが良かったと思います。
2014/10/21 23:27 退会済み
管理
[一言] かっこいいお話だな、と思いました。とくに 最後の一文、心に響きます。 変わってしまったのは自分。それに気がつくことって難しいですね。言葉の言い回しがうまいなぁと感じました!
2014/10/07 22:03 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ