美しかったこの世界
子どものころは、この世界は美しかった。
青い空に、白い雲。きれいな街並み、きれいな景色。道行く大人はかっこよく、友だちとは最高に楽しい仲。
愛しかった。自分も、皆も、この世界も。
俺の目には「未来」が見えていた。それは可能性に満ち溢れた、輝く「未来」。
でも俺には、「力」がなかった。俺にはそれが嫌だった。
だから俺は努力した。それなりにだけど、俺らしく。
仕方のないことだけれど、人を蹴落として、利用したりもしてしまった。そうしないと、それをされるのは俺の方なんだから。
時が流れて。
やがて、俺は「力」を身につけた。
出来ないことも、出来るようになった。望んだものを、手に入れたんだ。
あるとき気付いた。
この世界は醜かった。
よどんだ空。無機質な街並み、窮屈な景色。道行く人々は疲れた顔で、人付き合いは最悪なほど難しい。
失望してしまった。自分に、皆に、この世界に。
そのときにはもう、俺の目には何も見えてはいなかった。
この世界は、最初から醜かったんだ。
……あれ……?
いいや。
いいや、違うだろ。
醜くなってしまったのは、俺の方だ。
俺自身が、黒く染まってしまった。
真っ黒に染めてしまった、目に見えるものでさえも。
そう、そうだった。
俺を――――変えたい。
変わりたい。
「力」はもういい。
今度は人を、愛するために。
自分を、愛するために。
また、美しいはずのこの世界が、美しく見えるように。
また俺のこの目に、いつか「未来」が映るように。
あのときの自分に、がっかりなんかされないように。