【3夜目】菫姫の物語 『人形の国』
※変態注意報。
それ以上何を注意したらいいのか解りません。
閲覧者の自己判断に任せます。
「あら、お早いお目覚めでしたのね理様」
「菫姫は……あまり早いとは言えないな」
「はい、私朝は弱いのでございます。それにこの退屈な場所、起きていても何もありませんわ。昼間にお客様がいらっしゃったことは一度もありませんから」
「……そうか、不思議な森なのだな」
「ふふ、夜になると灯りを付けるでしょう?それによって時折道に迷った旅人様が訪ねて来られることがあるんです」
「確かに私もそうだった」
「それでは理様、また後ほど」
菫姫が起きてきたのは日が暮れかけた頃だった。それを見て王子は、益々菫姫がこの世の者とは思えなくなる。
(彼女と結婚すると言うことは……)
王子が連れて行かれると言うことか。それとも死んだ彼女を冥界から取り戻せると言うことか。本当にここにいるのが背徳の王女ならば、どちらもそう悪くはない。
どちらにせよ、あと四度の対決で結果を出さなければどうにもなるまい。
朝から感じていたが、菫姫が座ると尚更思う。また狭くなったと食卓で王子は三日目の 晩餐を迎えた。
六日間という制限は……そういうことなのかもしれない。六日目までに賭けで彼女を打ち負かすことが出来なければ自分も冥界の住人になる。
食事を作ったはずの伝承は今日も、食事を口に運ぶ王子を心配そうに見る。朝食の時はこんな素振りはなかったがと、王子は少し考え込んだ。
(この森……この城は、夜の間だけ冥界に通じる門が開く。いや、開くのが夕方から。だから菫姫は昼間は起きて来ないのだ)
食事を口に運ぶ菫姫。その動作はそう仕組まれた作り物の人形のように、……精巧なほど。背徳の王女の仕草と重なり過ぎて、少し不気味にも思える。
ここは失った人とそっくりの城主が出迎える城。それは何も自分に限ったことではあるまい。
(ならば菫姫……)
この女性は背徳の王女に似ているのではなく、旅人が望む人を見せ演じている者なのではないか?
「理様?食事が進みませんか?」
「いや、菫姫。貴女に見惚れていた」
「まぁ、お上手ですね」
菫姫はくすくす笑う。
その声は確かに背徳の王女に似ていたが、王子は違和感を覚えていた。夢の中の王女ならば……きっと違う反応をした。
菫姫の正体を暴くためにもやはりこの勝負、勝たねばならん。王子は今宵は後攻であることを良いことに、じっくり戦略を考えようと決意する。こうして、三度目の……物語勝負が始まった。
*
それでは今宵は私からお話しさせていただきましょう。私の語る物語は、人形の話にございます。
昔々あるところに、それはそれは仲睦まじい恋人がおりました。幼い二人は親の定めた婚約で引き合わせられた者でしたが、それを厭う理由もない位……互いが互いを大切に思っておりました。
王子の名前はフェミナドレス、王女の名前はウィルドール。
二人はの愛らしさは数え上げればきりがなく、幸せそうに語らう二人は魂の吹き込まれた人形のようだと人々は言いました。
「ふん、あんな小娘。私の方が余程いい女じゃないか」
これに腹を立てたのは王女の母親である王妃。自分が生んだ娘は美しい自分の一部に過ぎない。元を辿れば美しいのは、王妃以外にあり得ない。彼女は鏡を見て頷きました。
王は決して美しいとは呼べない男。娘が褒め讃えられるその要素は全て、王妃の中から流れ出たもの。
「あんな小娘、顔以外に何もありゃしない!私はこの美貌!そしてこの肉体!大人の色気を合わせれば、あんな小娘私の足下にも及ばないよ」
王妃はまず腹いせに王子誘惑しましたが、幼い王子はその意味が分からず、王妃を袖にしてて……これに腹を立てた王妃は、二人に呪いをかけてしまいました。
王子には触れた者を人形にしてしまう呪い。
王女には触れた物を人間にしてしまう呪い。
王女は椅子に座れは椅子が人間に。歩けば靴が、裸足なら床が大地が。抱きかかえるなら王子の服も。そもそも王女がドレスや下着も身に纏えば人間に。その人間は突然目の前に美しい裸の王女が現れるわけですから、妙な気分になってしまいます。
その度に襲ってくる人間を懲らしめなければならない王子はほとほと困り、彼女に触れて彼女を人形にしてしまいました。人形になっている間彼女は、何に触れても呪いは現れません。これを幸いと王子は召使いに頼んで王女に服を着せてあげました。そうして王女の棺桶を連れ、王子は呪いを解くための旅へ……
王子は数年間世界を巡り……呪いを解く方法を探したのですが、それは結局見つからず……王子は深く深く悲しみました。
「もしこれ以上僕が君の年を追い越したなら、君はどんなに悲しむだろう。このまま旅を続けて……もし呪いが解ける前に僕が死んでしまったら、君はどんなに悲しむだろう」
王子はさめざめと涙した後、「二人の呪いを解いた者に褒美を取らせよう」と言い残し、自らに触れ自らを人形に変えてしまいました。後は家来に任せていたとおり、女の隣に棺を並べて……二人で墓に埋めて貰いました。
それから月日は流れ、国は侵略者により滅ぼされました。その際に二人の墓は暴かれて、埋葬品を奪われました。その際に侵略者達は美しい二体の人形を見つけたのです。
「ひゃあ!こいつは美しい!」
「売り捌いたら良い金になる!」
しかし呪いの力も永遠ではありません。人間に変わった物達が死んでしまうのも百年。……となれば人間が人形に変わるのも百年の間だけ。
やがて百年の月日が流れ、数年先に人形になった王女は王子より先に人形の呪いが解けました。この頃には王女に掛けられた呪いも弱くなって居るのを感じ、利き手の皮膚で触れさえしなければ、それが人間になる事はないとわかりました。
王女は権力者の城の中、飾られている所呪いが解けて動き出し……幸いそれが夜中であったのを良いことに逃げ出すことにしました。
王女はまず旅の仲間が必要だと感じて、地下へ通りました。そこには剣闘士と戦わされているライオンが居りました。
王女はわざと利き手を噛ませ、ライオンの舌に触れました。驚いて口を離したライオンの耳に今度は触れて……人の声を話す力と人の言葉を理解できる耳を彼に与えました。
「ライオンさん、貴方はここから逃げ出したいと思わない?私の旅を助けてくれるなら、貴方をここから出してあげましょう」
王女の言葉にライオンは「命には替えられない」と頷き、王女は檻に触れて檻を人間に変えた。ライオンはそこですぐさま檻人間を噛み殺し……そこで檻は再び檻へと逆戻り。唯一つライオンの歯形が付いただけでした。
そこから王女は階段の上へと上がり、城の壁に手を当てました。するとそこから次々に人間が生まれ壁が無くなります。わけがわからないままの人間達は自分たちが裸であることを恥ずかしがって、そして目の前の獰猛なライオンを見て彼方此方に逃げていきます。
「おお!人間の癖に凄いじゃないかお嬢さん」
自由になったことを喜んだ、上機嫌のライオン。
「だが、どうせなら人間よりも美味そうな牛や馬、兎に変えてくれるか……綺麗な雌ライオンにしてくれればもっと良いんだが」
「雌ライオンなら兎も角、食べ物に変えるのは危ないわ。お腹の中で元に戻ったら大変じゃない」
王女とライオンは笑い合い、国の外へと逃げました。
一人と一匹、数年間世界中を旅する内に……二人は悖徳の国へとたどり着きました。その国ではありとあらゆるモラルが消失し、神への信仰を無くしてしました。
「まぁ、……なんて不気味な国なのかしら」
「人間の考えることはわからん」
王女とライオンはその国を見て、まぁ吃驚!街の至る所には人間と人形が売られているのです。
奴隷は助けてくれと檻の中からこちらを見ています。それを見たライオンはかつての自分を思い出し、彼らを哀れみました。
「なぁ王女。何とか出来ぬものだろうか?」
「なんとかしてあげたいのは山々ですが……」
如何せん、数が多すぎるのです。
「旅のお嬢さん!百獣の王様!どうか助けてください!」
「娘達、何をそんなに嘆くのだ?」
「私達はこのままだと殺されてしまうのです!」
「この国では人形性愛が蔓延って、人を殺して人形にしてしまうのです!」
「まぁ、なんですって!」
あまりの話に一人と一匹は驚きました。
聞けば、元々ある程度狂っていたこの国の王が美しい少年の人形を持ち帰ったのが原因で、この国はますますおかしくなったと言います。
生きた少年が眠っているような美しい人形に心を奪われた王は、彼の傍に置けるような……そう、少年の恋人のように釣り合う美しい少女の人形を作りたいと思いました。そうしてようやくこの人形は完成するのだと彼は思ったのです。その片割れに見せつけながら人形を弄んだなら、どんなに楽しいでしょうかと王は笑ったと言います。
(その人形は私の王子様に違いない。だけどなんて恐ろしい変態がいたものだろう)
王女はぞっとしてしまいます。早く城に行って王子を取り返さなければ、変態に何をされるか解りません。先を急ごうとした王女を見て、彼女の道連れである逞しい百獣の王に檻の中の娘達は次々と懇願します。
「助けてください王様!」
「私達生きたまま殺されて骨になるんです!」
「石膏を取られて骨を中に入れられるんです!ああ、殺されて骨になってまで辱められるなんてっ……」
「助けてくれるなら、ライオン様!私は貴方のお嫁さんになっても構いません!」
私も、私もと続く少女達の声。最初はこれが全員雌ライオンだったらどんなに良いかと思っていたライオンも……王女の呪いを思い出し、そうかと閃いたことがありました。
「王女よ。お前は触れた者を人間の男にするのだったな?」
「ええ」
「ならばこの者達に触れてやれ。物言う道具は人ではない。男であれば少女人形にはなれん!お前達、男になっても構わぬ者だけこの手に触れろ!」
檻に触れ檻を人間にした王女。このまま逃げてもまた女のままでは捕まってしまうと、その手に娘達は群がって、次々に男になりました。
「ありがとう!ありがとう王女様!」
男達は泣きながらお礼を言って、消えました。
こうして街を進む内、城にも噂は流れてきます。
街から次々と娘が消える。街のあちこちで貴族の女達の黄色い悲鳴が上がる。これは一体どうしたことだと王は訝しがりました。
「王様!街で美しい娘を見つけました!」
「おお、これは素晴らしい!この娘ならあの少年とも年が近い。隣に飾ればさぞかし美しく映えるでしょう!」
けれどそんな杞憂も吹っ飛ぶ大ニュース。これまで見たこともないような美しい娘の登場に、王は大変喜びました。
「しかしこれだけ美しい娘。石膏にするのは勿体ない。剥製にでもするか」
それでも王は残念そうに唸ります。少年の人形は生きた人間が眠っているように柔らかな肌をしている。その素足もその頬も生きた人間その物。隣に飾る少女の人形が固い剥製になってしまうのはどうにも惜しい。悩む王に王女は、妖しく笑みかけました。
「王様、ここ最近の騒ぎはご存知ですか?あれは私のしたことです」
「何?」
「私はこの手で触れた人ではないものを、生きた人間の男性にすることが出来ます」
「何と!」
「そうして私の婚約者であった少年は、その手で触れた者を人形にすることが出来ます。王様がお持ちの人形は、自分自身を人形に変えてしまった、私の婚約者かもしれません」
「おお!」
これは素晴らしいと王は喜びを顕わにします。少年と少女の力を借りれば人形にしたり人間にしたり思いのまま遊べるというわけですから、変態である王にとっては大喜びのことでしょう。
「それを確かめるためにも一度この手で彼を人間にして、話を聞いてみても宜しいですか?」
「よかろう!此方に来なさい」
王は王女を連れて、寝室へと向かいました。その先には、男装した少女の人形……女装した少年の人形などなど、悪趣味な人形が沢山並べられています。
王女の最愛の人はと言えば、女物のドレスを着せられて椅子に飾られていました。それに王女は吐き気がしましたが、幸いまだ着せ替え人形遊びをされていた位のようです。
「さぁ、やってみるといい。出来なければお前を剥製に加工してしまうから頑張ってくれ給え」
悪趣味な王に辟易しつつ、王女は九十数年ぶりの愛しい人との再会に涙しました。そうして王子を抱きかかえ、彼を寝台へと寝かせ、自分はその脇から口付けて……彼の身体に触れました。ゆっくりと瞼を震わせる王子に、王女と王は歓喜の涙。
「君は……」
「探したわよ、もう……」
「ごめん」
見つめ合う少年少女に鼻息荒い王が、寝台へと躙り寄ってくるのを見るや、王女のドレスの下に隠れていたライオンが飛び出しました。
これに驚いた王は逃げ出そうとしましたが、すぐに追い着かれて噛み殺されて、それを見た城の兵士達も一斉に逃げ出しました。
その後二人は解放した奴隷達と力を合わせ……悖徳の国を滅ぼして、平和な国を築いたそうです。末永く幸せに暮らしたとは限らないけれど、昔々のお話でした。
*
「…………私の話はここまでです」
「……そうか」
二日連続菫姫がいい話を話すなんて、きっとなにか裏がある。疑う王子に菫姫は勿論ですと微笑んだ。
「理様、貴方ならどうなさいます?」
「どう、とは?」
「自分の恋人が自分の知らないところで、他の者に何かをされていたとしたら。貴方はその恋人を許せますか?愛せますか?」
「それは、どういう意味だ?」
不穏な空気に息を呑む王子。それに王女は少しだけ、意地の悪い笑みを浮かべる。意地の悪い……いや、少しばかり……それは自嘲にも取れた。
「王女の呪いは触れた者を人間の男にする呪い。となれば王子の呪いは……触れた者を人形の女にする呪い。こう解釈できると思いませんか?」
「人形であるときは動けない。拒めない。だから無理矢理何かをされる側になってしまうと?」
「ええ。ですからこの話の王子と王女は、人形の頃に権力者達の手を何度も行き渡り、遊ばれ続けてきたと見てまず間違いないでしょう。悖徳の王が二つ三つばかり新たな趣味に目覚めたのも、普通の夜伽に厭いたからなのでしょうね」
「つまり思い合う二人は……二人が結ばれるよりも先に、変質者共に嬲られたと?」
「はい。その上で添い遂げた二人は本当に幸せになれたのでしょうか?」
「……なれたのではないか?思い合う二人は互いのそれを許し合ったに違いない」
「残念ながら理様、悖徳、退廃という物は時に空気感染するものです」
鋭い指摘に、王子は一瞬言葉を失う。
「く、空気感染?」
「はい。二人の作った国は……何時しか悖徳の国を上回る背徳の病に冒されてしまったそうですよ。やはり人間は解らんと……ライオンが王女を見捨て、一人姿を消す程度には……酷い風潮の国になってしまったのでしょうね」
微笑む菫姫は、やはり話をいい話で終わらせてはくれなかった。
(愛した人が既に、無理矢理誰かに手を出されていたのなら……)
本人はそれを言えない。それでもずっと苦しんでいる。その上で傷ついたその人を変わらず愛してやれますか?菫姫は王子にそう語りかけてくるようだ。
以前の自分ならば、きっとその人を拒絶してしまっただろうと王子は考える。最初に言ってくれるならまだしも、ずるずると嘘を吐かれたことが許せなくなる。変わらず愛せるはずもない。
「愛という物は思えば思うほど、裏切られた時の憎しみは大きくなります」
王子の胸の中を知った風に、菫姫が溢す。
「けれどそれは憎しみも同じ。憎めば憎むほど愛おしくなる。二人は誰かに手を出された愛しい人を深く憎みました。だからこそ憎み合う二人は互いを深く愛し合うことが出来たのです」
「それでは二人は、許せなかったということなのか?」
「ええ。王女は悖徳の王を殺したところで殺したりず、愛しい人を憎むより他になかったのです。けれど憎しみが燃え上がれば燃え上がるほど、想いは募るものですから」
二人は生涯その愛を滾らせ求め合ったことでしょうねと菫姫はクスクス笑う。相手を憎む心がなければ続く愛などあり得ない。二人が添い遂げることが出来たのは、憎しみがそこにあったからだと彼女が教える。
「しかし菫姫、貴女はどこで私を泣かせるつもりだったのだ?」
「あら?通常の殿方なら泣くと思ったのですけれど。愛した女が傷物だと教えられた時の絶望を知れば、真っ赤な血の涙を流すものでしょう?」
精神的に揺さぶりを掛けられているのを王子は知る。王子は背徳の王女に触れたことはない。だから知らないのだ。彼女が誰かの温もりを知っているのかいないのか。
(これは……本格的に仕掛けて来たな、菫姫)
いやはや女は恐ろしい。初日のしおらしさは何処へやら。初日の菫姫は此方を勝たせたがっている風に見えたのに、今の彼女は負かしに来ている。今日の話はそのための下地に過ぎないのだ。
予想できたとしても、聞きたくない話という物はある。菫姫は最終日にそれを聞かせるつもりなのだ。昨日一昨日のは小手調べのお遊びだった。王子はそれを思い知らされていた。
(だが、……そう易々と負けるわけにはいかない)
王子が意気込み、テーブルの先の菫姫を見つめると……その傍に控えていた伝承が曖昧に微笑んでいる。それが遠回しに王子を応援しているようにも見え、王子は微笑み頷いた。
「では次は私が話をさせていただこう。私の話は……精霊の物語だ」
相手を女性(人形)にする呪いだから王子の名前に女が入ってて、相手を男性(人間)にする呪いだから王女の名前に男が入ってる。
魔女の呪いは恐ろしい。実の娘の婿口説いて振られたからって呪う。
呪いが弱まるまで100年。
仮に二人が普通に成長していたら何にも出来ないわけです。何するにも王子が王女を人形にしてしまうっていう、惨いね。
人形成ってるうちに空気嫁みたいに使われまくった王子と王女。
色々あって最終的に王子と王女は寝取られ萌になりました。そんなとんでもない話。いや、基本変態成分入ってないと童話らしくないだろう。そういう独断と偏見。