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【1夜目】王子の物語 『神託の王女』

 それでは次は私から話をさせて貰おうか。この話は私がある国を訪れた時に聞いた話だ。

 菫姫、貴女は神託というものをご存知か?

 神に物事の判断を委ね、言葉を得る。そしてそこから解釈を行い、物事の決定を下す政治の方針だ。

 これは神託による喜劇の物語……だと私は思うが、貴女にとっては如何だろうか?


 *


 始まりあれば、終わりあり。

 何事にも物事は絶対的な終焉を迎え、やがては淘汰されていく。今はもうこの広い海の上、どこにもそれを行う国はないが、まだ世界に神託というものが在った頃……神託が国の中枢に根付いた国があった。その国で神託という概念が最盛期に昇る頃、次第に国は傾いた。神託が絶対であったその国は、何時の頃からか腐敗した。賄賂によって巫女や神官が嘘の神託を告げ、成金共が国の政治を操るようになったのだ。

 中でも一番酷かったのがデマゴゴスという名の政治家。彼は国のことなど考えない。自分の私腹を肥やし、美味い物を食べ、若く美しい女を侍らすだけが望みの、人の上に立つには相応しくない……人間の屑と形容してもしきれないほど醜悪な男であった。その男は自分が神になったかのような気分で日々を送っていたに違いない。

 ある時その男は、神である自分が政治家止まりで、王でないことがおかしいと思い上がった。王になれば神殿に賄賂を渡す手間もなく、国を好き勝手に動かせる。思い上がった男は金の力で、子を望む王と王妃に残酷な神託をもたらした。


 「嗚呼、なんということだ!」

 「おお、神よ!あんまりでございます!」


 王と王妃は嘆き悲しむ。それもそのはず。「生まれた男児は国を滅ぼす」……そんな預言をもたらされ、生まれた子供を何人も殺されてしまった。

 残酷な神託ばかり寄越す神殿を、王は疑う素振りもあったが、国の長が神殿に背くことは慣例上良いことではない。国を疎かにしていると、民の怒りを買いかねない。煽動家達はそのことだけには優秀で、民意を操る才に長けていた。

 兵を取って戦ったところで、勝利は見えない。何か起死回生の手立てがなければ今の立場さえ失う。けれど跡継ぎが生まれなければ国が滅ぶと、嘆く王にデマゴゴスは新たな神託を送る。


 「神殿に王女を生贄に捧げよ。さすれば世界の誰より美しく……しかしながら男のように勇ましく、強い姫が生まれるだろう。その姫はこの国をより発展させる者となる」


 それは勿論嘘の神託で、幼い王女の美しさに魅入られていたデマゴゴスが、彼女を物とするための言い訳に過ぎなかった。

 神殿に捧げられた幼い王女は、死にたくなければ言うことを聞けと彼に乱暴されてしまう。そのことを恥じた王女は神殿で命を絶って、自ら生贄となった。


 「悪しき男よ!神殿でこのような蛮行を働いたお前を神はきっと許さない!私もお前を許さない!嗚呼、神よ!穢れた私に、生贄の価値がまだあるのなら……どうぞこの命を受け取ってくださいませ!そして神託を叶えてください!」


 命を絶つ前に、天高らかに唱えた王女の言葉。そんな哀れな王女の願いを聞き届けたのかその年に、王と王妃の間には……偽りの預言の通りの王女が生まれる。

 王女は大層愛らしく、その美しさは年々磨きが掛かる。やがて年頃に成長した王女は、国を守るため……女の身でありながら先陣切って戦う様に、士気は上がっていった。


 「おお、まさしく預言の通りの姫だ!」

 「この子ならば、この国を引っ張って行ってくれることでしょう!」


 人の世に現れた戦女神の如き勇ましさと美しさ。美しい王女の言葉は多くの民の心に響く。

 これに不味いと思い始めたのはデマゴゴス。


 「女の癖に、男の領分に立ち入るとは目障りな」


 怒り狂う煽動家。しかし王女の美しさは、生贄の王女を遙かに凌ぐ。大人しく妻になるのなら生かしてやろうと、デマゴゴスは新たな神託を送る。


 「王女を国で一番優秀な政治家の妻とせよ。そして彼に玉座を譲れ。さすれば続く戦争に決定的な勝利が約束される」


 デマゴゴスはその神託を国内に響かせて、世論を操った。民は皆王女と結婚するのはデマゴゴス以外にあり得ないと口々に噂した。

 男は謙虚を装いながら、王に招かれ城へ行く。王は悔しそうな顔で、王女との結婚の話を持ち出した。


 「件の神託の件で、お前に姫の伴侶となって貰いたい」

 「ですが王、それは余りに恐れ多い。私など唯の政治屋に過ぎません」


 わざと一度断れば、それも王にとっては屈辱だろう。デマゴゴスはにやついて、悔しがる王を眺めた。そんな王の傍に立つ、王女のなんと美しいことか。

 遠目に見たことはあったが、何時も戦装束ばかりの姫が……今日は女物の装いで、可憐に佇んでいる。これは是非とも物にしたいと男は、その申し出を受け入れた。

 来るべき結婚式の日……城を開放し、喜ばしいこの行事に民を招いた。そして始まる宴会の後、政治家と花嫁衣装の美しい王女に続く行列が神殿まで向かう。


 「結婚する前に私は、貴方に言いたいことが一つあります」

 「それは何のことでしょう?」


 デマゴゴスが王女を見ると、彼女は微笑んでいた。そして王女は息を吸い込み、大きな声で天に問う。


 「神よ!私が生まれる前に貴方が授けてくれました……神託はどのようなものであったでしょうか!?」


 その声に、神殿に集まった民達は顔を見合わせる。花婿も、花嫁の突然の行動に焦りはしたが、落ち着いた様子で神託を教えてやった。


 「姫、それは貴女の姉姫様を生贄とし、その代わりに男児に勝るとも劣らない美しい姫が生まれると……」

 「デマゴゴス様。今何とおっしゃったのです?」


 王女にそう返されて、政治家はそれが痛手だったと知った。


 「私は神に、神官様に尋ねたのです。何故政治家の貴方がそんなことを知っていらっしゃるの?」


 王女の鮮やかな切り口に、民はざわめく。確かにこの男、何か怪しい。

 生贄の姫が居たことは民も知っていた。それでも、生まれる姫の神託まで彼らは知っていなかった。


 「そ、それは……たまたまそんな噂を耳にしたんだ!私も政治のためによく神殿に神託を伺いに来るからね!その時神殿の人間が溢していたんだよ」

 「そうですか。それなら仕方在りませんね。……では神官様、彼の言ったことは確かなのですか?」


 王女は今度は神官を問い詰める。ここを潜り抜けられたなら、王となったデマゴゴスから神殿は手厚い保護と恩恵を受ける。下手なことは言えないと、神官はその言葉に乗ることにした。


 「ああ、その通り。“神殿に王女を生贄に捧げよ。さすれば世界の誰より美しく……しかしながら男のように勇ましく、強い姫が生まれるだろう。その姫はこの国をより発展させる者となる”……これが神託だ」

 「あら。それはおかしいですわ」


 王女が薄ら笑う。その怪しげな笑みはどんな女よりも美しい。民達はすっかり王女に魅了されてしまう。そう、王女は……どんな女よりも美しかった。


 「神の神託は絶対に外れない。何故ならそれは神が下した決断だからだ」


 王女の凛と響く声が、突然少し低くなる。微笑む王女は花嫁衣装を脱ぎ去って、男装した姿を晒す。


 「私は王女などではない。歴とした男だ!」

 「な、何!?」

 「国が滅ぶ預言のため、女装をさせられてはいたが……それならば預言が食い違う。男の私が今日まで生きているのにこの国は滅んでいない!預言の後に生まれたのが王女ではなく王子だというのは、預言としておかしい!」


 美しい声で奏でる、勇ましく美しい王子の演説に、人々は聞き入って騒ぐことも忘れてしまう。


 「神よ!我らは何を信じればいい!?どうか我らに今一度、本当の預言をお教え下さい!」


 そんな王子の切実なる叫びに応えるように、神殿には何者かの声が響いた。

 それは透き通るような女の声。人々が声の方を見ると、淡い光を纏った一人の少女の姿。それは生贄になったはずの姉姫で、王と王妃は感極まって涙を流す。


 《神の神託は、もう数十年も下されておりません。それでも貴方が生まれた時に、神託は下されました。この私を生贄に捧げることで、この国を救ってくれる王子が生まれるでしょう……と》


 王子は姉を見たことなどなかったが、それが自分の姉なのだと気が付いた。その傍には幾人もの小さな子供がいる。それらすべてがこれまで偽りの預言で殺されて来た兄なのだ。それを知り、王子の頬も涙が伝った。


 《そして、今ひとつ。新たに神託が下りました。デマゴゴスと全ての神官、政治家を処刑なさい。でなければこの国は滅ぶことになるでしょう》


 王女の言葉に涙を拭い、王子は高らかに兵を呼ぶ。


 「国を滅ぼす者達を捕らえよ!神託に乗っ取り、神の裁きをもって処断をする!」


 民を惑わす者が消え、国内はまとまった。王子の活躍で長き戦も終わりを迎え、国は平和を取り戻す。

 王子は王となった時、神殿を建て直しそれより先に行ったこと。それは神への感謝を捧げた。しかし……彼は長らく続いた信託制度を廃止した。神の言葉が悪用されないような世の中を作るために、神託はあってはならないのだと説いて。

 神の言葉を理解し示すのは神官ではなく王に違いない。しかし王は神からこの地を任されているに過ぎないのだ。だから聞こえないその言葉を感じ取り、真にすべきことは何かを思い悩む必要がある。


 *


 「なんでも、王女が女装した王子だと判明してから……以前に増して彼の支持率は上がったそうだ」

 「あらあら。それは随分と、愉快な人達ですね」


 王子の語った物語に菫姫は微笑むが、これは笑いにカウントされないものだ。彼女の言う笑いとは、腹の底からあふれ出る……口から零れる笑い声。何があってもしばらくは笑い止まない程の笑いを彼女は求めている。


 「それで理様。今のお話に、理様はどの辺りが愉快だと感じられたのです?」

 「私か?そうだな……私は……国に仇成す悪が、成敗される様に愉悦を覚えた。菫姫が語るなら、恐らくあの王子は嘘の神託通り惨めな人生を送ったことだろうが」

 「そうですね。私なら……王子の美しさに目が眩んだ者達が、内乱を起こして国が滅ぶ。嘘のはずの最初の預言が成立してしまうという話に仕上げたでしょうね」


 それだけ王子の正体に惹かれた人がいたのですもの。そうなってもおかしくはありませんわと菫姫。

 これは菫姫に探りを入れた物語。しかし菫姫はそれに動じることもなく、相づちを打ちながら……何も知らない風を装い聞き手に回っていた。

 やはり別人なのだろうか?それともわけあって自分の正体を忘れているのだろうか?王子は考え込んだ。

 しかし背徳の王女は確かに死んだ。ここが黄泉に繋がっているのでなければ、こんなに姿形の似た少女がいるはずもない。何気ない仕草まで、菫姫は背徳の王女に似ている。生き写しなどと言う話をとうに越えているのだ。

 王子は菫姫が自分がかつて失った王女なのだと、半ば確信している。

 今考えるべきは、どうすれば思い出して貰えるだろうかということ。それかわからぬ振りをしているならば、どんな風に話せば、本当のことを素直に打ち明けて貰えるだろうかという悩み。

 俯く王子に菫姫は微笑んで、大きな柱時計を眺め……もう12時ですわと呟くと、召使いの少年にお開きを告げる。


 「伝承、理様を部屋まで送って差し上げて」

 「畏まりました菫姫様」

 「お休みなさいませ、理様。明日の夜のお話も楽しみにしておりますね。明日は是非理様から話していただきたいと存じます」

 「……なるほど。では明日の夜まで考え抜いて、貴女に楽しんで頂けるよう努力しよう」

 「はい、お待ちしています」


 当然とはいえ当然なのだが……伴侶に瓜二つの少女を前に別の部屋に帰っていくという図が、王子にはとても滑稽に思えた。

 そして、王女を笑わせた日を思い返して……この戯れが本当に困難なことであると王子は知った。もしも菫姫に、彼女の話をされたなら……間違いなく自分は泣いてしまう。そうなった場合、なんとしても彼女を笑わせなければならないのだ。


 「伝承、君は菫姫が笑った所を見たことはあるか?」


 前を行く少年の背に、王子は問いかけてみる。少年は振り返らずに真っ直ぐ前を見つめたまま……「一度だけ」と呟いた。


 「そうか。奇遇だな。私の妻も本心から笑ってくれたのは……唯の一度だけだった」


 嘲笑いか、哀れみか。悲しみを湛えた瞳で笑った背徳の王女。

 けれどその解釈は、王子自身のもの。神託と同じだ。解釈が外れていることはある。人は全てを知ることは出来ないから、心と言葉を求めてしまうのだ。

 言いたいことがあった。しかしそれだけでもない。もしかしたら、その笑みの意味を知りたくて、自分はここへ来たのかも知れないと……王子はそんな風にも考えた。


 「それでは理様。どうぞゆっくりお休み下さい」


 頭を下げた少年に、王子は客室に通されて……その晩過ごした夜は、これまで感じたこともないほどに長く長いものだった。眠れなかったのではない。旅の疲れかすぐに眠りに就いてしまった。しかしその眠りは、長い夢を見るほどに深い深い夜だった。

神託について書いてたら、神託で姉は国滅ぼすってんで、生まれた双子の姉妹の片方ころされることになるんだけど、どっちが先に生まれたか解らなくなって産婆が確立は50パーじゃね?とわからんまま片方選んで姉ちゃん(ということにされた方)海に投げられて、妹は乳母(産婆の娘)に毒盛られて(いっそ二人とも殺しとけば預言回避できんじゃね?計画)盲目なって、てんやわんやでエログロエログロ。産婆と乳母親子は嘘吐いたのばれるまえにさくっと国外に逃亡。

隣国に拾われてこれまた神託で王子として育てられた姉ちゃんと妹がなんか色々あってくっつく。神託で国滅ぼしたのは妹が嫁いだ国の方。


よく考えたら、理の王子が語る話じゃないなこれ。そう思ってボツ。最初から別物語を書き直し。どっちにしろカオスな話になっちまった。

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