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【5夜目】王子の物語 『永遠の秘薬』

 「まぁ、これはこれは」


 今日洗ってやって良かった。愛馬用の靴を持ってきて良かった。王子は自身の運と抜かり無さに感謝する。城の中に現れた馬を見て、菫姫は驚いたが、すぐに好意を示した。靴を履いた馬を見るのは初めてだったらしい。


 「理様の馬ですの?まぁ、可愛らしい目……優しそうな顔をしていらっしゃるわ」

 「光栄ですお嬢さん」


 嬉しそうに嘶く砦に、流石の菫姫も今度は驚く。


 「理様、これは」

 「ああ。何故か突然私の愛馬が喋るようになってしまった。彼も話がしたいというので連れて来させて貰った」

 「動物の語る話ですか。なるほど、興味深い」


 死神は抵抗なく受け入れる姿勢でいる。それはそうだ。問題があるとすれば城の主である菫姫か、その城を掃除している伝承のどちらか。


 「お美しいお嬢さん、私は四日も費やして目的一つ果たせない主にして友を心配しているのです。是非とも私に彼の手伝いをさせて頂きたい。私もそれなりには面白い話を知っているつもりなので」

 「……そうですわね、元より退屈しのぎで始めた余興。余興が増えるのは喜ばしいことです」


 良いでしょうと菫姫が新たな参加者を受け入れ微笑む。


 「それでは砦、まずは俺が話そう。それを聞いてこんなものかと理解してくれ」

 「なるほど。では」


 伝承が用意したクッションの上に、寝転んで愛馬は寛いだ。以前はこんな馬ではなかったが……王女と出会ったことでこの馬も多少平和呆けしてしまったのだ。


 *


 昔々あるところに馬鹿な王子がいた。彼はある時隣国の姫を花嫁に嫁がせられたが、望まなくとも手に入る者に何の価値があるだろう。愚かな王子は姫を愛さなかった。

 それに苦を唱えた姫は、とうとう自ら命を絶つ。


 失って初めて気付く大切さ。これまでは何とも思わなかった姫の存在を、失ってからそれが自分にとって……こんなにも大きなものであったことを知る。何とか彼女を生き返らせる術はないものか。男は旅に出る。

 けれど行けど探せど、死者を蘇らせる術は見つからない。死者を生き返らせるという噂がする方向へと旅をする……その内に竜を倒す、鬼を倒すなどして様々な国と人を助けるも、噂は宛にならない。


 「おお!旅のお方!化け物共から我が国を助けてくださって真に」

 「そんなことはどうでもいい。礼ならばあのことを教えてくれ」

 「あのこととは?」

 「この国には死者を生き返らせる秘宝があると聞いた」

 「ああ、それですか。正確には死者を美しいまま止めるための秘薬です。国を救っていただいたお礼に貴方に差し上げましょう」


 砂塵の舞う国で、見つかったのは……死者を蘇らせる宝ではなく、亡骸を美しいまま永遠に留まらせるための術だけ。

 それならせめて人形としてでも姫を傍に置いておこう。それは幾分かは心を慰めてくれるだろうと、王子は長い旅を終え……国へと帰った。

 しかし王子が国へ戻る頃には数年の時が過ぎていて、美しかった姫の亡骸も唯白い骨が残るのみ。

 嘆き悲しむ王子を励ますためか、隣国の王からは姫の妹姫が新しい妻へと送られた。姉と妹の年の差は王子が世界を旅したのと同じ年。出会った妹姫は、丁度本物の姫が時を止めたまま甦ったよう。そう比喩しても間違いではないほど妹姫は姉姫にとてもよく似ていて、王子は涙を流し隣国の王へと感謝した。


 「私は今度こそこの姫を幸せにして見せよう」


 新しい妻を迎えて国を継いだ王子はそう思ったのだけれど、この二人性格がまるで異なる。大人しかった前の妻と違ってずけずけとものを言う。我が儘で贅沢好きで、男にちやほやされるのが大好きで、王妃でありながら騎士や兵士に色目を使うことさえ多々あった。

 取り柄と言えばその顔くらいのものだった。これには彼も困ってしまって、妻の墓を訪れて、悩みを相談するようになる。勿論墓の下からは誰の声も聞こえない。それが百度目になろうというある日……王はとうとうこんな言葉を溢した次第。


 「ああ、お前だったならそんなことは言わなかっただろうに」


 あの奔放な姫を見ていると、前の妻が恋しくなった。省みること無かった思い出が今は尊い光のようで、その思い出があの阿婆擦れに汚されている気分になる。そうなって思い出すのは世界を巡って手に入れた、永遠の死体を作り出す秘薬。

 すると王のその言葉を待っていたかのように、墓の下からは亡き妻の声らしきものがする。

 その声は、あの秘薬を妹に使えというものだった。


 《貴方様。それならばあの薬を妹にお使い下さい。そうして人形にしてしまえば……私はあの日のままで貴方の傍へと帰れます》

 「しかし……私は今度こそ彼女を、お前を幸せにすると誓った身」

 《私は貴方と私の思い出が汚されるのがどうしても許せないのです》

 「……それは私同じだが」

 《私はこのような姿で貴方様には会えませぬ。あの身体が手に入ったなら、魂をそこに入れて夜毎貴方様の前に必ず現れましょう》


 姉と妹。どちらが好きか、渋る王は最終的にそこまで迫られて、姉姫の言葉に従って政敵の仕業を装い妻を殺した。そうして秘薬を飲ませ……彼女の葬儀が終わる頃、棺の中の妻が動き出して微笑んだ。死んでいるからか声は出せない。それでも微笑む姿は、紛うことなく失った愛しい人だ。王は涙して厚い抱擁をした。

 こうして王は王妃の墓所に籠もりがちの生活を送るようになる。昼間は彼女の顔を眺め、目覚めの時を待つ。それから一晩中寄り添い過ごし、朝焼けと共に二人眠る。先に目覚めての繰り返し。

 こうなれば政務も滞る。しかし二度も妻を失った王を哀れむ家臣達はそれも仕方ないと見守った。


 「王が塞ぎ込むのも無理はない」

 「しばらくはそっとしておいて差し上げよう」

 「しかし世継ぎもないまま亡くなられた王妃につきっきりというのも問題だ」

 「あっちこっちから贈られてくる新しい花嫁達には見向きもしないじゃないか」

 「よし、俺が一言進言して来よう!」


 酒の勢いから一人の兵士が王妃の墓所へと赴いたのは、夜も丁度更けた頃。彼は心底恐ろしいと思いながら、灯りを手に墓を進んだ。

 奥へと進めば進むほど人の話し声が聞こえる。兵士が隠れ様子を見ると、王妃の亡骸を王が抱き、睦言を語っている最中だ。その亡骸は微動だにせずそこにあるのに、王はまるでそれが生きているかのように振る舞っていた。


(これは、恐ろしいものを見てしまった!)


 兵士はガタガタ震え出す。王は錯乱してしまったのだ。見つかれば唯では済まないと、大急ぎで逃げ出して酒場の仲間達に訴えた。


 「王が死んだ王妃様をっ!」

 「な、なんだって!?それは悪趣味だ!」

 「王は完全に狂ってしまわれたんだ!」


 この噂は隣国まで届き、死んだ娘を眠らせずその死を冒涜する悪しき行為だと、隣国の王も怒り狂い国を攻めた。が、此方側は肝心の王が墓所に入り浸りだったため兵達の指揮が執れず簡単に負けてしまって、墓所まで踏み込まれてしまう。


 「可哀想に、今すぐ天に帰してやろう」


 隣国の風習通り、隣国の王は娘を火葬にしようと火を付けた。それに気付いた王は同じ日の中に飛び込んで焼け死んでしまった。しかし王は悲鳴も上げず、二人が燃え尽きるまで兵達が水を掛けても火が消えなかったことから、これは王の意思だったのだろうと人々は語り合った。

 二人が白い骨になるとみるみる火の勢いは落ち弱くなったが……二人を焼いた火は僅かながら残り、その火はどんな風が吹いても水に触れても消えない不思議な火。まるでそれが二人の強い愛のようだと、神殿に飾られて人々を明るく照らした。その火を分けて貰って家に飾れば、火の持ち主が死ぬまでその火は消えずに留まるという。戦場に出る前にその火を愛しい人に渡せば、今生で結ばれない二人が来世では結ばれるとして、憂き世の人の慰みの光になったと伝えられる。


 *


 「…………理様」

 「何だ菫姫」

 「理様は、私を笑わせる気がお有りなのですか?」

 「菫姫、そういうことは最終日にやってのける方が味があるだろう?」


 何処で笑えばいいのか解らないと不満がる菫姫を、王子は苦笑して見つめる。


 「いやはや、死体愛好ですか。人間とはなかなか罪深い生き物で」


 死神には評判が良く、彼は大口を開けて笑っていた。そう見るに死神と菫姫の嗜好は離れている。菫姫は捻くれた話ばかりをするが……彼女が笑いそうになったのはどれも変わったところでだ。

 一度目は伝承が話した話。これは伝承の認識不足が面白かったから。二度目は王子の作ったケーキを前に。それはとても女の子らしくて可愛らしいと王子は思った。菫姫は大人びた子供。そう形容するのが正解か。話は畏まっているが、中身は恐らく伝承と大差ない位の年齢。ここに気付けたのは大きい。


 「で、でも理様!王子……いえ王様以外には亡骸が動いているようには見えなかったんですよね?それはどういうことでしょう?」


 場の空気を変えるため此方に話題を振る伝承。ああ、確かに。そこの説明をまだしていなかったことを思い出す。


 「秘薬には副作用があった。飲ませた死体の口からは、幻覚を生じる霧が出る。彼女の傍にいた王は、それを強く吸ってしまったんだ」

 「ああ、そういうことでしたのね。私はてっきり愛故に生み出した幻なのかと思いましたわ」


 王子の補足に菫姫と伝承が頷いた。砦は何も言わずに王子の方を見つめている。笑わせなければならない話で、これを話したこと……その真意を理解するように。

 その目は自分を信じろと言わんばかりの自信に満ちた顔。それに後押しされた王子は、伝承を見て言葉を紡ぐ。


 「私は……この話を聞いた時、羨ましいと思ったよ」

 「何故ですか?」

 「私の妻は死体さえ残らなかった」

 「ど、どうして……ですか?」


 どうして自分を見て話すのか。どうしてそんなことを言うのか。別の問いかけにも聞こえる声。王子には少年の仮面の下まで見えるように、在りし日の王女の顔が浮かんだ。


 「私の妻は海に身を投げて、死体さえ上がらなかった」


 目の前の人に言い聞かせるように王子は一言一言をはっきりと、彼に伝えてやる。

 その言葉に伝承が、菫姫が息を呑む。


 「もしも傍に妻の死体が美しいまま残ったのならば、私とて解らない。相手が死人であったとしても求めてしまう心を果たして止められただろうか?今となっては解らない……」

 「理様……」


 此方を見上げる伝承は、何か言いかけて……その言葉を無に帰した。代わりに続けたのは、菫姫だった。


 「理様は、奥様を愛しておられたのですね」

 「いいや。この話の男と同じだ。愛そうとしなかったからこそ、深く後悔している。もしももう一度彼女に、再び会えるなら……一言謝りたい。そのためこうして旅をしている」

 「いや、愛そうとしなかったというよりは、うちの王子は愛していたのに愛していないと言い張ったようなもので」

 「砦っ!」


 口を滑らせた愛馬を睨むが、愛馬は呆れたように笑っている。


 「なるほど、話の流れは把握しました。それでは空気の読めない主に代わり、私が今宵一番の笑い話をしてご覧にいれましょう」


 寝転んでいた砦は、すっくと四本足で立ち上がり、辺りを見回した。

五日目は禁忌ってテーマだったけど、伯爵の話書いた時点で……

「同性愛、近親相姦、獣姦、ペド、SMって粗方出そろった。残りって、屍姦と糞尿ネタくらいしか無くね?」って行き詰まりました。


そこで脳みそ沸騰して結局六日間で終わらせられませんでした。

こうなったら後はじっくり終わらせる。

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