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【1夜目】菫姫の物語 『三番目の男』

※微妙に残酷描写あり?

 よく聞く物語。

 最初に行った兄が失敗し、最後に行った弟が成功する。こういう話はよくありますが、私が存じております話はその逆です。

 先を進む兄は成功し、遅れて着いていく弟はいつも損をしてしまう。時に理様、貴方様にはご兄弟がお有りですか?それは兄様ですか?弟様ですか?

 そうですか。ならばこの物語、どんな風に聞いていただけるか私少々楽しみでございます。


 *


 昔々のお話です。ある国に親を亡くした三人の兄弟が居りまして……上からジャン、ジュン、ジョンと申します。三人はとても仲の良い兄弟で、何時も何をするにも一緒でした。

 二人分の食事しか手に入らない日は、二人の食事を三等分。一人分の服しか買えない年は、みんなで去年の服で我慢します。三人分のお金が貯まったら、その時やっと三着買います。

 三人の兄弟はこつこつ真面目に働いて、何をするにも一生懸命。その真面目な仕事ぶりが評判で……三人ともお城で働けることになりました。


 一番上の兄さんは、誰よりも力持ち。二番目の兄さんは、誰よりも賢い頭脳。三番目の弟は、誰よりも愛らしい顔立ち。三人ともが素敵だけれど、誰か一人を選ぶのは……城住まいの娘達にも難しいことでした。

 三人はお城に来ても、コツコツコツと働いて……この者ならば信頼できると王様から兵士に召し上げられるほど毎日立派に働きました。


 「ねぇねぇ兄さん。僕たち頑張って働いた甲斐があったね。頑張ればいいことはあるんだね」と末の弟。

 「ああ、そうだな。神様が我々を哀れんでくださったのだ」と真ん中のお兄さん。

 「それにしてもこのお城のお姫様は美しい人だ。あんな綺麗なお姫様の居る城で、働けるなんて俺達は幸せ者だ」と一番上のお兄さん。


 けれどある時そんな幸せを、邪魔する者が現れました。凶暴な双頭の竜が現れ、街を焼き、人を食い殺し……国に悪さをするようになったのです。王様はすぐさま歴戦の勇者達を送り込みますが、皆竜に敗れ殺されてしまいました。

 王様はこれにほとほと困り果て、とうとうこんなお触れを出しました。“あの凶悪な竜の首を持って来た者に、私の娘を妻に与えよう。”


 「あんな別嬪な王女様と結婚できたらどんなにか幸せだろう」と一番上のお兄さん。

 「力に頼るから駄目なんだ。頭を使えばきっとなんとかなるだろう」と二番目のお兄さん。

 「竜なんておっかないけど、これ以上人が死ぬのは見ていられない」と一番下の弟。


 ここまで三人力を合わせてやって来たんだ。今回だって三人で頑張ればなんとかなるだろう。竜の頭は二つしかない。三人一緒に戦えば、倒せるはずだと兄弟は意気込みました。


 真ん中のお兄さんの考えで、三人は夜中に山を登りました。二人の兄は女性の格好をして、香水を振りかけ、野花を髪や身体に飾り竜の住処へ。竜の巣の側まで来た所で、二人の兄は弟を岩の傍に隠しました。


 「お前はここで待っていろ。俺達が竜の頭をそれぞれ引き付けてくる」

 「だからお前は隙を見て、竜の心臓をこの槍で突け」

 「うん、解った。僕がんばるよ」


 二人の兄が勇気を出すのです。弟だって負けていられません。弟は兄から託された槍をしっかり握り、今か今かと岩の後ろで待ちました。

 兄さん達がジリジリと竜の傍まで近付いて、その距離があと僅かとなったところで眠っていた竜が目を覚ます。

 けれど、人の来る気配で目が覚めましたがまだ寝惚け眼。よく見えません。それでも近付いてくるのは匂いもぼんやり映る姿も女のようです。女の肉は軟らかい。ご馳走が飛び込んできてくれた!竜は喜んで目の前のご馳走を丸呑み。


 目の前で兄さん二人がそれぞれ竜の頭に食べられた。それを目にした弟は、もういてもたってもいられなくなり飛び出して、やぁああと叫んで槍を竜へと突きだそうとしました……けれど弟は、突然の大きな音に驚いて手を止めてしまったのです。

 その音の正体は、竜が上げた断末魔の声。左右を見回す弟は、椿の花のように竜の首が転げ落ちるのを見ました。見れば飲み込まれた兄さん二人が内側から暴れて竜の首を切り落としたのです。


 「いやぁ、良かった兄さん!僕、とっても心配したよ」


 弟は兄さん達の無事を心から喜び、涙を流しました。弟の清らかな涙を見て、兄さん二人ははっとします。この弟は顔だけでなく心までも優しい。それに比べて自分たちはどうだ?二人は我が身を省みます。

 一番上の兄さんは、綺麗なお嫁さんが欲しかった。真ん中のお兄さんは、王様に褒められて……もっと出世したかった。けれど一番下の弟は何も望まずここまで来た。

 王女は一人しか居ない。このまま三人仲良く帰ったら、王女は誰を選ぶだろう?

 弟は何もしていない。それに力もない。竜の首を持って帰るのは上の兄二人になるでしょう。それでも王の前に帰った時に、いつもの自分たちならこう言うはず……「これは私達、兄弟三人力を合わせた結果です」と。

 弟の涙を見るまでは、二人ともそう語るつもりでした。けれど弟の涙に、劣等感を刺激された兄さん達は、急に弟が煩わしくて堪らなくなったのです。三人の勝利だと王に伝えたなら、王は伴侶を王女に選ばせてしまう。そうなれば一番顔の良い弟が選ばれる。そうあってはこれは三人の勝利にしてはならない。


 「ああ、今日は疲れたな。あの山小屋で身体を休めてから帰るとしよう。夜道は危険だからなぁ」

 真ん中の兄さんの提案で、三人は山小屋で一夜を過ごすことになりました。末の弟が眠りに就いたのを見計らい、真ん中の兄さんは一番上の兄さんを連れて外へ出ました。


 「兄さん、俺達がこんなにあっさり竜を倒したとなれば……俺達は竜のように恐れられるようになると思わないか?」


 真ん中の兄さんの言葉は、確かに説得力がありました。それに王女様の結婚相手のこともあると、上のお兄さんも悩みます。


 「俺達三人揃っていれば………いや、本当は倒したのは俺とお前なんだから、俺達二人はあの竜より強い」

 「ああ、そうだ。それを知られれば、俺達を快く思わない連中が、適当な理由を付けて俺達を処刑台に引っ張るぞ。なんてこった。どうすればいいんだ」


 「俺に考えがある」

 「考えだって?」

 「ああ。俺達二人で勝てたとばれなければいい。俺達三人揃えば何でも出来る。俺達三人だったなら、竜も倒せたとみんなは納得するだろう」

 「なら三人で倒したと弟に言うように頼むか?でもそれじゃあ……王女様が」

 「違うよ兄さん。竜は俺達三人揃っても強敵だった。だから、犠牲が出てしまった。そう言うことにしよう。そうすれば王女様は兄さんのお嫁さん。兄さんが王様になれば俺ももっと偉くなれる。そういうことで、どうだろう?」

 「だがな弟。それはあいつを殺すって事かい?それはいくら何でも」

 「違うよ兄さん。あいつを殺したのは、憎き竜さ。あれだけ馬鹿でかい図体して居るんだ。まだ内臓は死んじゃいないだろう。胃の中に放り込めばあんな小さな子供、すぐに溶けてなくなるよ」


 万が一見つかっても、竜に食べられたんだってそれでお終い。真ん中の兄さんが笑うと、一番上の兄さんも「竜がやったんじゃ仕方ないな」そう言って頷きました。


 二人は弟が眠っている小屋へと戻るや否や、弟の手足を縛り竜の巣へ。首を切り落とされた竜の亡骸の、その切り口から弟を押し込んで竜の腹の中まで落としました。

 そして二つの竜の長い首を結んで、弟が逃げて来られないようにしてしまうと、二人は竜の首を担いで山を下りて行ったのです。

 これに驚いたのは弟です。身体が溶けていく痛みで目を覚まし、逃げようにも縛られていて動けない。痛みに耐えながら、縄が解けていくのを待ちましたが、その頃には身体も大分溶かされていました。


(ここは何処かしら?僕は竜を倒した夢でも見ていたんだろうか?)


 そうだったのかもしれない。死ぬ前にきっと夢を見たんだ。それなら兄さん達はどうしているだろう?確かに最初に二人は飲み込まれていた。もしかしたら同じ場所にいるのかもしれない。まだ生きているのかもしれない。苦しんでいるかもしれない。

 三人揃えば何でも出来た。きっとまだ助かる。ここからみんなで逃げ出せる。最後の力を振り絞り、弟は竜の胃液の海を泳ぎます。

 兄さん達は僕より重いから、深くに沈んでしまったのかもしれない。

 結局弟は死の間際まで二人を捜しましたが見つからず、縛られていた意味を思い出し……最期には、自分は裏切られたのだと気付き……悲しみの涙を流すのでした。


 国へ帰った兄さん達を、王様は大喜びで迎えました。王様は一番上の兄さんに王女を与え、二番目の兄さんには大臣の地位を与えました。

 しかし何時も一緒だった弟を失った二人の悲しみを察してか、結婚式は一年先に延ばそうと言うことになりました。

 一年後、結婚した兄さんと王女様の間には……三つ子の女の子が生まれました。これはきっとお前達兄弟を哀れんだ神様からの贈り物だろうと、王様は大喜びしましたが、兄さん達は気が気でなりません。そんな兄弟の焦りも知らず、王様は三兄弟の名前から孫達にジャクリーン、ジュリア、ジョゼフィーヌ名前を付けました。

 けれどそんな不安も忘れるほどに、十数年の平和な時が流れ……一番上の兄さんは玉座を次、三人の娘は美しく成長しました。大臣は未だに未婚でしたが、この三姉妹……何故か全員叔父である彼に夢中になってしまいます。


 「ジュン叔父様って知的で素敵!」

 「父様のような筋肉男よりよっぽど紳士だわ」

 「叔父さんは優しいから好き!」


 それでも喧嘩ばかりの三姉妹が、それぞれ美しく成長したある日……

 また国に双頭の竜が現れました。十数年前の竜の子供だというその竜は再び国を荒らして大暴れ。以前は三兄弟が倒したけれど、今は一人欠けている。おまけに残りの二人も年を取り、以前のようには動けない。そうでなくとも過去の記憶が甦り、山にも竜にも二人は近付きたくありませんでした。他に何か方法はないかと、竜との対話を望みました。

 すると竜は、「生きたままでも死んだままでも構わない。だが、街を焼かれたくなければ王女を二人生贄に捧げろ」と言います。

 過去の罪悪感から、王と大臣は三姉妹の一番下の妹だけを助けようとくじに細工をしました。その上で三姉妹を呼びに行こうとしたところ、姉妹の居る部屋が何故かとても静かです。二人が部屋を覗いてみると、末の妹が冷たくなって居りました。二人の姉は後一人で決着が付くと、間合いを測り殺し合いの真っ最中。

 王と大臣はそこに自分たちの罪を見て、まだ生きている二人の娘を殺し、竜への生贄に捧げました。竜は二人の死体を受け取ると、悲しそうに一鳴きし……山の向こうへと消えて、二度と現れることはなかったといいます。


 *


 「……三本の矢という話は聞いたことがあったが、これは」


 話が終わった後、王子はしばらく何の言葉も浮かばずに、感想を尋ねられても困っていた。

 菫姫の語った物語は、泣けるようなものではない。なんとも後味の悪い、カタルシスに欠く物語。初日から泣かせに来ているのではなく、何かを探るように話をしている印象だった。


 「三人はいつも同じ。分けられる物を分けていました。けれど王女という一人しか居ない人間に出会ったことで、三人の兄弟の関係は変わっていってしまったのです」


 数の違いは時に不幸を生む。遅れたら、信じたら、それだけで救いを遠ざけることになる。


 「純真な弟が望んだのは……三人一緒の幸せ。彼だけが変われなかったことが、この結果を招いたのでしょうね」

 「菫姫。貴女は変わった者を責めておいでか?それとも……変われなかった者を哀れんで?」

 「いえ……何と申しましょうか。……唯最初から王女が三人いて、国が3つに分かれていれば良かったのに。そう思っただけです」


 争いを悼むように、菫姫が悲しげに呟いた。仮面の内側に潜む目は……多くの争いを見て来たような、そんな痛みあった。


 「さて、理様。菫姫様が盛り下げた空気、ここからならば上げることも容易でしょうね?話して頂ける物語はお決めですか?」


 召使いの言葉に、王子はああと頷いた。一日目から笑わせられるとは思わない。此方も手探りを入れながら話をするべきだろう。


 「今夜私が話すのは……予言に纏わる物語だ」

姫→王子、王子→姫、の順で話が進んでいきます。

最終話までの伏線ばらまき大会。


身内殺しに近親相姦(生贄にならなかった娘は大臣に嫁ぐ予定だった)に、初っぱなからろくでもない話ですね。

あと諸悪の根源の兄二人に何の罰もないあたり、腹立たしい物語ですね。

基本菫姫が話す話はそう言う話。

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