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【5夜目】伝承の物語 『フレーメンの犠牲(ひつじ)』

※胸くそ悪い話です注意報。獣×というか×姦というか。

 昔々フレーメンという村にフレインという名の娘がいました。

 彼女はとても美しく、村中の男の憧れの的。けれどそんな高嶺の花に思いを告げられない一人の男。彼は特別素敵でもなく、お金持ちでもなく……誇るものが何もない、しがない羊飼い。

 告白したところで、想いが実るはずもない。意気地のない羊飼いの所に、ある日とても愛らしい子羊が生まれたので、彼は彼女の名を憧れの人と同じ名前……フレインと名前を付けて可愛がることにしました。


 「おいおい、この羊の名前がフレインだって?」

 「だってこの子は美人じゃないか」


 親馬鹿の羊飼いが子羊を撫でているのを見ると、村の男達もその羊に愛着が湧いてきました。村の男達は美しい娘に振られてしまった者ばかり。代わりに羊飼いの羊をフレインと呼び可愛がりました。しかし愛情込めて彼女の名を呼べば呼ぶほど羊のフレインが愛おしくなって来ます。名前の作り出す幻覚か、村の男達には羊のフレインが本物の娘と同じような汚れない乙女に見えていました。


 「僕のフレインを貸して欲しいだって?」

 「ああ、今晩羊飼いの仕事を引き受けるからさ」


 そんなある夜のこと、本物に振られた男が羊飼いに頼み込んで来ました。


 「頼むよ!あのふわふわの毛を撫でて、失恋の痛手を癒して貰いたいんだ」


 必死な頼みに羊飼いは断れず、その日は羊の番を男に任せてしまいました。翌朝羊飼いが羊の所へ向かってみると、フレインが笑っています。こんなことは初めてだったので羊飼いも驚きました。


 「どうしたんだいフレイン?」


 それでも羊は笑い続けます。


 「そんなに昨日は楽しかったのかい?君は本当に癒し羊だなぁ。美羊だし。君は唯でさえ可愛いんだから、そんなに笑ったらますます人気が出るよ」


 親馬鹿の羊飼いはよくわからないまま羊を撫でてやりました。

 しかし妙なことは続くもので、人間のフレインに振られた男達が次々に羊の番をさせてくれと言ってくるようになりました。羊飼いはこれはどうしたことだろうと疑問に思いますが、真剣で必死な彼らの目を見る内に、段々心が揺らぎます。


(彼らは勇気を出して敗れたのだ。勇気も出せない僕が彼らを詰る資格はない)


 もし自分も娘に告白して、振られてしまったのなら……同じ名前のあの羊の毛を撫でて語り明かしたくなるかもしれない。

 納得した羊飼いは、その申し出を受けることにしました。その度にやはり羊のフレインは笑って羊飼いを迎えるのです。


 「君はそうやってみんなに微笑んで、幸せにしてあげてたんだね。それで顔が引き攣って、一日中そんな顔が治らないのか」


 訳が分からないまま好意的に解釈する羊飼い。そんなことが続いたある日、可愛いフレインのお腹が大きくなっていることに羊飼いは気が付きました。


 「これはどうしたことだろう。今の季節は雌は雌の群れだけで飼っていたはずなのに」


 何にせよ可愛い娘のおめでただ。どんな可愛い子が生まれてくる事やら。羊飼いは自分に孫が生まれる様な気分で毎日わくわくしていました。


 「どこの雄羊がやらかしたんだか知らないけど、内の娘に子供が出来てね」


 嬉しそうに語る羊飼いから村の男達は目を逸らして適当な相づち。


 「そう言えば最近は、振られたと来る人も減ったなぁ」


 羊飼いは奇妙だと思いました。うちの娘は今日も可愛いのに。この間まで村の人気者だったのに。それが子供が出来たからってそんないきなり掌返さなくてもと、少し寂しい思いになりました。

 そうして季節は過ぎて……とうとう出産という日が来て、羊飼いは悲鳴を上げてしまいます。


 「な、なんだ……この顔はっ!」


 生まれてきた子羊は、人間そっくりの顔をした不気味な化け物で、……ここで遅れてようやく全てを理解した羊飼いは大粒の涙を流して愛しい娘を抱き締めました。


 「君は、笑っていたんじゃなかったんだね……」


 *


 「……ということで、獣姦は駄目ですよというお話でした」


 ぺこりと頭を下げる伝承に、その場はすっかり静まり返る。顔を上げた少年も、やらかしたかと気付いて顔を右へ左へ向けていた。

 王子もすっかり驚いて、開いた口がふさがらなかったが、フォローを求めるような彼の視線に気付いて、咳払いを一つ。


 「え、ええとな伝承」

 「はい」

 「あの話の流れだと、明るい話をしそうな雰囲気じゃなかったか?」

 「暗い気分の時に明るい話をするのは、とても才能が要ることです。僕にその才能はありません」


 嘘吐けと王子は内心思ったが、好意的に解釈するならば……伝承はそこまで先の死神の話で追い詰められていたと言うこと。それだけあの話に嫌悪感を感じていたと言うこと。これは大きな手掛かりだ。


(そして、図らずも次は菫姫の番)


 二度も後味悪い話をされたのだ。この重い空気は彼女にも伝わっている。彼女の選んだ話で、彼女の正体の推測を深められるかもしれない。


 「なるほど……つまりは獣姦をする際は雄を狙えと」

 「な、何でそうなるんですか!?」


 言葉を取り戻した死神の言葉に、伝承は狼狽える。今の話を聞いてどうしてそんな発想が出るのかと聞きたくもないですと両耳を彼は塞いで震える。


 「それでは次は私の話ですね……」


 菫姫は自分の心を落ち着けるよう、何度も深呼吸をする。それを可哀想に思った王子は伝承を見て……


 「伝承、昨日のケーキの残りはあるか?」

 「はい」

 「なら、ここらで一服としよう」

 「……いいんですか?」


 尋ねてきたのは菫姫。精神的な動揺を理解している。それでも自分が振りだと知っていても、自分から勝負を投げ出すような真似は出来ない。仮面の下の彼女が今自分を見ていることを自覚して、王子はじっと彼女を見返した。


 「この流れでは貴女は凄い話をしなければならなくなる。けれどそれは最終日にとって置いて貰いたい」


 どんどん話の内容の禁忌が増して来ている。ハードルが上がっている。自分の知る話を話すと言うことがどういう意味を持つのかを王子は理解し始めていた。


 「五日目などと中途半端なところで、私を泣かせるような話をしてしまわれたら宴も興醒めだろう?」

 「理様……」


 いっそ笑って差し上げたいわと、菫姫は小さく微笑んで……王子の提案に乗った。


 「伝承、お茶とケーキをお願いします」

 「はい、菫姫様!」

フレーメン反応のフレーメンってブレーメンに語感似てるよね。

そんな思い付きで生まれた話。


でもリアルで外国ではあるそうですね。人面羊生まれたニュース。ひ、羊さんだからって無理矢理やっちゃ駄目なんだよ?訴える言葉もない羊が可哀想だな。


それはさておきフレーメン反応。馬とかがフェロモンを嗅ぐために笑ったような顔をすること。羊はこれを痛みで見せることがあるそうです。

実際の所、どうなんでしょうね。



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