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【5夜目】訪問者の物語 『宿命のアパティリカ』

※話の都合上、今回の話は近親相姦、同性愛というカオス。

エロシーンなど勿論カット。


男版千匹皮を妄想して大丈夫そうなら、どうぞ。

 「(フルーリオ)!」


 二日目に伝承に案内された馬小屋へ赴けば、嬉しそうに寄ってくる愛馬の姿に癒される。

 王子は少しばかり焦っていた。

 王女にはまったく酷いことばかり言ってしまったが、今にして思うと……自分にも友と呼べる相手など、そんなにそんなにいなかった。


 「お前が一番最初で一番大切な、一番最後の俺の友だな」


 そう言って鼻を撫でてやると愛馬は嬉しそうに嘶いた。


 「まったく……俺はどうして人間なんかに生まれてしまったんだろうな。お前だったら目ではなく耳や鼻でも真実に気付くことが出来ように」


 視覚情報に踊らされ騙されてばかりの自分は、時にこの愛馬が羨ましくなるのだと、王子は俯いた。


 「それならせめてお前の言葉が分かるならお前に教えて貰えるのにな」


 王子が溜息を吐けば、後ろから声が掛かる。振り向けば餌を持った使用人の少年。


 「こんにちは、理様。ええとそれから」

 「伝承、こいつは砦だ」

 「こんにちは砦」


 愛馬はじっと少年を見つめ鼻をひくひくさせている。それによしよしとその鼻を撫で、伝承は野菜と果物渡す。


 「でも砦だなんて凄い名前ですね」

 「俺にとっての最後の砦だからな。そう間違いでもない」

 「ははは、理様って面白い方ですね」

 「俺が面白いだと?」

 「はい。でも砦も変わっていますね。王子様の馬なのに白馬じゃないんですね」

 「伝承、君は何処の世間知らずだ?」

 「え?」

 「砦と俺は戦場を共に駆け抜けた仲だ。白馬など、目立ってすぐに殺されてしまう。君は武人にとって馬が何たるかを知らないのだな」

 「え、ええ……はい。僕は……そうですね」

 「馬とは友だ。世話をする分愛着も増す。戦場で傷つき倒れた馬がその後どうなるかを知っているか?」

 「いいえ」

 「ならばそれを今夜話そう。……まぁ、つまるところ、愛着がある分、死なせたくないのだ」

 「死なせたくない、ですか」

 「そう目立たぬ色の今ならば、狙われ傷付けられることも減るだろう。だから俺はこのありふれた色の砦の毛色を気に入っている」

 「そうですか……貴重なお話をありがとうございます」


 馬小屋の掃除を粗方終えると伝承は再び城に戻っていく。それを見送り王子は最後の砦を見る。


 「砦、あれが伝承。この城の使用人だ」

 「ヒヒーン」

 「それでこの城にはもう一人、菫姫という……背徳によく似た女性がいる。お前にも会わせたいのだが、彼女は夕方夜しか現れない」

 「ヒーン……」


 馬は人の1000倍優れた嗅覚を持つ。もしも愛馬の力を借りることが出来たなら、何か解るかも知れないのだが……


 「まぁ、無理な話か。話を聞いてくれてありがとう砦」


 礼にと愛馬に丁寧にブラッシングを始めると、馬は嬉しそうに目を閉じた。思えば最近西へ急ぐばかりでじっくり手入れもさせてやれなかった。


 「晩餐までまだ時間があるな」


 水浴びでもさせてやるかと、王子は伝承に水辺の位置を聞きに行く。


 「それなら城の裏庭に、小さな泉がありますのでそこを使ってください。案内します」

 「ああ、助かる。だが食事の仕度はいいのか?」

 「もう終わりました」

 「そうか、なら頼む」

 「はい」


 終わっていないのなら手伝おうかとも思ったがいらぬ世話だったらしい。王子は伝承と連れだって裏庭へと回る。


 「砦?」


 その間じっと伝承の方ばかり見ている愛馬に疑問を感じて声を掛ける。王子の方を振り向く愛馬は、何か言いたそうな様子だ。それに伝承は笑って……


 「ごめんね、今はご飯持ってないんだ」

 「ヒヒーン……」


 悲しそうな声を出す馬に、単に食意地を張っていただけかと王子は苦笑してしまう。


 「それじゃあ僕はこれで」


 泉の前に来たところで、伝承は先に城へと帰る。料理は終わっているが、まだ掃除が残っているらしい。


 「では、お前も掃除してやるか。……それにしても綺麗な水だな」


 伝承は毎晩ここから水を汲んで来てくれたのだろうか。王子が泉を覗き込むと、愛馬も真似してそれを見る。そのままガボガボと水を飲み始めた馬を見て、王子は笑う。


 「なんだ、咽が渇いていたのか?ここの水は美味いか?」

 「はい、冷たくていい喉越しです」

 「そうか。ならば良かった……ん?」


 王子は辺りを見回して、自分と愛馬しかいないことを確かめる。


(空耳か?)


 昨日の話と夜のことを思い出し、悪魔の悪戯だろうかと考える。それでも馬と目が合ったので一応聞くだけ聞いてみた。


 「砦、お前今喋ったか?」

 「ヒヒーン」

 「そうか。やはり気の所為だな」


 二度寝をしたのに寝不足とは情けない。王子は自分に呆れてしまった。


 *


 やはり昨日よりも、初日と比べるともうかなり狭い食卓での晩餐を終えた頃……昨日の訪問者がようやく起き出した。


 「雨は上がったぞ。帰ったら如何か?」


 敗者は潔く去れと王子が死神を睨み付けるも、死神は食卓に着く。


 「そうしたいのは山々なんですがねぇ、昨日人間なんかが作った菓子を口に入れてしまった所為で、その臭いが抜けるまで此方に留まらないといけないんでさぁ。そうですなぁ……あと二日。その間は冥界の扉も開くことが出来やしません」


 冥界に連れて行かれた花嫁が口にした柘榴の話。それに例えた逆説で、死神が屁理屈を捏ねた。あと二日経たないと、勝負に勝った王子に冥界見学をさせてやれない。そんな出来るのか怪しいことを口にして居座ろうとする死神。この際見学などどうでも良いからさっさと消えてくれと、王子は死神を睨んだ。


 「どうせ嘘だろう」

 「まぁ、信じる信じないかは自由ですがね」


 人を馬鹿にするような笑みを浮かべる死神。


 「まぁ、ここだけの話……城主様。貴女の美しさにすっかりあっしは参ってしまってね。是非とも帰る前に貴女の名前を知りたいんですよ」

 「まぁ、デストルド様ったらお上手ですわね。ですがそう簡単には教えられませんわ。掟ですもの」

 「そこをなんとか」

 「それではデストルド様があと二日の間にお話で、私を泣かせることが出来たのなら、本当の名前をお教えしますわ」

 「いやぁ、流石は城主様!そうなったら何が何でもあと二日、粘らないといけませんなぁ!」

 「菫姫……」

 「良いじゃありませんの理様。賑やかな方が楽しいですもの」


 菫姫にそう微笑まれれば、それ以上強くは言えない。王子は渋々引き下がる。


 「ならば順番的に死神。お前が一番手だ」


 前日の最後に離した人間が翌日の最初に来る仕組みだと教えてやり、王子は死神を鼻で笑う。


 「菫姫を泣かせられるような話を是非とも聞かせてくれ」

 「ひっひっひ。それは貴方の条件より簡単そうだ。菫姫を笑わせるのは難しそうですが、泣かせるのはまだ楽そうで」


 自称死神は、室内の灯りを伝承に落とさせて、雰囲気作りですと蝋燭一本の灯りだけにしてしまう。そうしにたりと闇に微笑んだ。


 *


 では私がお話しさせていただく話はですね、良くあるお伽話のようで、とんでもない禁忌の話でございます。

 昔々あるところにそれはそれは綺麗な花嫁を貰った王様がいました。彼は本当にその美しい女を愛していました。ですからその結婚式はとてもとても華やかなものになりました。

 その国には13人の魔女がいましたが、魔女を招くためには食器が一つ足りない。

 一人だけ招かないのは失礼に当たる。考えに考えた王が導き出した答えは、魔女は一人も呼ばないという結論でした。人間達だけを呼んでその結婚式は行われました。

 気の良い魔女達は、それは仕方ないと頷いて、子供が生まれたときにきっと招いてくれるだろうと微笑ましく二人を見守りました。けれど一人の魔女は、これに腹を立てました。


 「結婚して自分たちは幸せになると言うのに、その幸せのお裾分けに呼ぶこともしないのかい!」


 勿論呼ばれたなら呼ばれたで、魔法の力を守るため独り身でいなければならない魔女は「忌々しい人間め」と腹を立てたことでしょう。しかしそれは仮定であって今は問題ではありません。怒り狂った魔女は、王と王妃に呪いの言葉を送り付けました。


 「妻との間に子が出来れば、その子は王と禁忌を犯すだろう!」

 「な、なんてことをっ!」


 妻を深く愛していた王は、妻との間に子供を設けることが出来ないのが残念で堪りませんでした。いつまで経っても跡継ぎが生まれない。そうなれば城で王妃の肩身が狭くなります。

 王は毎日泣き暮らし、国政もおぼつかなくなりました。これを見た12人の魔女は「全員呼ばれなかったというのにこれはやり過ぎだ」と、王の下へ向かいました。


 「元気出してください王様!そうだ!では私が祝いの言葉をあげましょう!お生まれになるのは元気な男の子!跡継ぎの王子様です!」


 生まれるのが王子ならば、魔女の呪いなど関係ないと良い魔女は笑いました。それに賛同した魔女達は、これから生まれる命へ祝いの言葉を捧げます。


 「王子様は優しくて」

 「けれど気高く凛々しくて」

 「それでいて身も心も美しくて」

 「正義感に満ちていて」

 「常識と倫理を弁えていて」

 「礼儀正しく道を説き」

 「彼の言葉は多くの人の心を動かす力のある言葉」

 「剣だってとても強くて」

 「他の誰より聡明それでも純真で」

 「重い病気に掛かることもなく」

 「戦争をすれば誰にも負けない歴戦の勇士になるでしょう」


 ここまで良い言葉を贈られればきっと大丈夫と、魔女達は王を励まし帰って行きました。それに深く感謝した王は、王子が生まれた時は結婚式以上の宴を催し、十二人の魔女達だけをその祝いの席に招きました。


 「きぃいいい!あれだけ呪ってやったのに、身の程を知らない屑だね!この私を二度も宴に招かないだなんてっ!」


 激昂した魔女は恐ろしい形相で宴の場に現れました。そうして生まれた赤子を睨み付けると……


 「王妃は王子が幼い内に命を落とすっ!美しく成長する王子は、あろう事か王妃そっくりに成長してしまうだろうっ!」


 最初の呪いは果たされる。それを念押しする呪いの言葉を吐き捨てて、魔女は消えていきました。


 「おお!神よっ!なんと恐ろしい呪いだっ!折角生まれた我が子をこの手で殺さねば、この不吉な呪いは果たされてしまうっ!」


 流石に王の手前、「それじゃあ王様、貴方が自害なされば何も問題ありませんじゃないですか。跡継ぎ様も残りますし」などと、良い魔女達は言えません。


 「お、王様。何も貴方が手を下さなくとも、兵士達に任せておしまいなさい」

 「駄目じゃ!そういうのは古今東西、結局死なず最終的に儂の元へ戻ってきてしまう呪いの人形人生じゃっ!この手で、確かに死んだことを見届けなければ安心できぬっ!」


 呪いを逃れるために自分が死ぬという発想がない王は、どうしても王子を殺そうとします。それに怒ったのは王妃です。


 「巫山戯ないで貴方!これは私がお腹を痛めて生んだ子なのですよ!貴方も人の親ならば、気をしっかりお持ち下さい!呪いなど貴方が生涯私だけを愛してくだされば起こり得ない事です!不貞を働く予定があるようでしたら私はこの子を連れてこの城を出て行きます。この子を貴方の傍には置いてはいられません」

 「ま、待て奥よ!この儂に限ってそんなことはあり得ぬ!断じてあり得ぬっ!」


 折角生まれた王子のためにも、魔女達はそれが一番だとこっそりと王妃を逃がす手伝いをして、王妃が王に見つけられないよう祝福の言葉を贈りました。

 王妃と王子は人里離れた山奥でひっそりと暮らしていましたが、王妃は幼い王子を残して呪いで命を落とし……食事に困った王子は森の中をさまよい歩く内、この日を待ち侘びていた悪い魔女に拾われました。


 「どうしたんだい?可哀想に、迷子かい?」

 「うん……お母さんが、起きなくなったの」

 「そうかいそうかい。それじゃあ私の家へおいで。あんたの母さんとは友達だったんだよ。今日から私があんたの母さんになってあげよう」


 魔女は世間知らずの王子に嘘ばかりを吹き込んで、教育を施しました。


 「いいかい。お前は女の子なんだよ。だからそんな汚い言葉遣いをしては駄目さね。僕じゃなくて私。さぁ、言ってご覧?」

 「わ……私?」

 「ああ、そうだ。それで良い。ほら、あんたのために作ってあげた服だよ。着てみなさい」

 「うわぁ!可愛い!」

 「そうだねぇ。お前に名前をあげよう。女の子らしい可愛い名前が良いねぇ、……アパティリカ。お前は今日からアパティリカだよ!」


 如何に聡明の祝福を受けていても、幼少時の教育から別方向だったのなら、もはやどうしようもありません。

 こうして祝いの言葉通り、アパティリカはすくすくと母親似で美しく成長しました……が、自分が男であるにも関わらず、純真さからすっかり魔女に騙され自分が女であると信じ、女装して暮らしていました。

 王子が年頃に育つと魔女は、自分が溺れて死ぬまやかしを見せ、行方をくらましました。そしてあとはどうなることかと様子を観察することに。


 王妃がいた頃は王は王子を見つけられない。魔女に拾われた頃は、魔女の魔法で見つけられない。一人ぼっちになったアパティリカが王に見つけられてしまうのは、それからまもなくのことでした。


 「おお!なんと美しい娘か!」


 森の奥で出会った娘は在りし日の妻の面影。王はすぐさま連れ帰りたい気持ちで一杯でしたが呪いのことを思い出し、娘の身の上を探ります。


 「娘よ、お前の母はどうした?」

 「先日泉に溺れて……それっきり」


 悲しいことを思い出した娘が泣き出すと、王は早速口説く作業に取りかかりました。


 「おお、おお!可哀想な娘だ。儂の城に来なさい。面倒を見てやろう」


 そう言うや否や、娘が頷く前に娘を馬に乗せて王は城へと戻りました。


 *


 「こうして愚かな王は呪い通り我が子を嫁に迎えてしまいましたとさ。めでたしめでた……」

 「めでたくないっ!」


 なんてところで終わらせるのだ。王子は、話中から沸いていた苛立ちがとうとう爆発。


 「倫理的にどうなのだその話はっ!普通はここからどんでん返しがあるものだろうっ!」


 あまりの幕切れに、王子は席を立ち怒鳴ってしまう。死神はにたついた笑みを湛えたまま王子を鼻で笑う。


 「めでたしではいけませんかねぇ?」

 「なぜそうなる!根本的な解決はどうしたっ!」

 「脱がせてみて正体に気付いた王も、境遇が違うし他人の空似なら儲けもんだと思ったのでしょう。相手が女じゃなければ不貞にもなりませんしねぇ」

 「ふ、不貞以前の問題だっ!貴様の語る話はどれも不快で堪らんっ!」

 「おやおや王子様。あっしの目的は城主様を泣かせることにございます」

 「巫山戯るな!こんな物で泣く奴がある、か……」


 恐る恐る王子が菫姫と伝承を見てみれば、二人は気分悪そうに俯いていた。それはこの話自体に嫌悪感があるのではなく、何か思い出したくないことを……思い出してしまったような、そういう気分の悪さ。ほら見ろと王子は死神を見る。


 「おやおや、一押し足りやせんでしたか。では明日までにもう少し勉強し直しますかねぇ、ひっひっひ」

 「伝承、大丈夫か?」


 次は伝承の番なのだが、彼の身体は震えている。余程今の話が応えたらしい。なんなら順番を変わるか?王子が気遣うも、彼はふるふると首を振り、やれますと小さく呟いた。


 「そ、それじゃあ……次は、僕がお話しします」


 明るく楽しい話を。今聞いたことを忘れるため、そのためにも話したいのだと、少年の声は訴えていた。

アパティリカは、ギリシャ語の詐欺って意味を調べて出て来たαπάτηと、女性名詞に成りそうな響きを調べて出て来たスペイン語のricaを合わせた造語の名前。


眠り姫と千匹皮とラプンツェルと創作の複合童話のイメージ。

ヒロインを男にするだけでこのカオス臭は何なんだろう。


本筋の流れのためにどうしても組み込まにゃならなかった話です。


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