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【3夜目】伝承の物語 『海からの花嫁』

 人魚の伝承は色々な土地に伝えられています。その肉を食らえば不老不死になると言う話を聞いたことはありませんか?

 僕は以前海の傍に住んでいて、その時人から聞いた話で……これはその人の住んでいた海の近くに伝わるという物語です。


 *


 昔々あるところに、乱暴者の猟師が居ました。彼は海に網を張って漁をして、小さな魚やお金にならない魚は海に帰すでもなく地面に投げ捨てて帰るようなとんでもない男でした。

 ある夜男の家を訪ねる若い娘がいて……一晩の宿を貸して欲しいと彼に言いました。その旅の女は、村では見たこともないような美人だったので男は大喜びで女を招き、良いところを見せてやろうと漁を見せてやりました。


 「どうだ!凄いだろう!俺の嫁に来れば毎日好きな魚をたらふく食べさせてやるぞ」


 けれど男の言葉など女は見向きもしません。心優しい女は魚たちを哀れんで、男が捨てた魚を一匹一匹海へ帰してやりました。


 「どうしてこんなことをするんですか?食べるためなら仕方ないけれど、食べない魚を殺すなんて魚が可哀想です」

 「馬鹿言うな。ほら見ろ俺はこの辺の鳥には懐かれてる。魚より鳥のが身体が大きいんだ。食べさせてやってる俺は優しいだろ?」


 勿論嘘です。それでもこうして魚を辺りにばらまくので、海鳥に懐かれているのは確かでした。


 「自然は厳しいところです。自分で食べられない鳥は、自分で生きてはいけない。それを人が手出しするのは良くないことです。魚だって鳥だって、そうやって生きるか死ぬかの勝負をして生きているのですよ」

 「生きるか死ぬかね……」


 女の話を話半分に聞いていた男でしたが、彼は良いことを思いついたとその場に彼女を押し倒します。


 「きゃあ!何をするんです!」

 「騒ぐな女。殺されたくなかったら俺の好きにさせろ」


 そのまま女を脅して無理矢理お嫁にしてしまった乱暴な男でしたが、女は悲しそうにしながらも男を何とか改心させられないかと思い悩みながら彼の隣で暮らしました。

 そんなある夜に、男が生臭さに目を覚ますと、隣に大きな魚が死んでしました。


 「な、なんだこりゃ!」


 見れば男の妻が着ていた服を着ています。男は自分を諫めに着た海の魚をお嫁にしてしまったのかと吐き気がしました。しかしその生臭さの原因を辿る前に、男は妻の傍にすやすやと眠っている赤子を見つけます。その子は人間のような身体をしていましたが下半身は魚そのもの。


 「おお!こりゃあ凄ぇ!上手く育てれば大金になるぞ!」


 男は大喜びでその子を育て、年頃の娘になったところで、見せ物小屋に売り飛ばし大金を手に入れました。そのことで味を占めた男は海でますます暴れ、大きな魚の雌を見つけると次々連れ帰り、浴槽や盥の中で飼い、次々子供を作らせました。

 しかしなかなか上手く行かず、男が苛々してきたある日、とうとう新しい子供が生まれました。


 「ぎゃあああああああああああああ!」


 男はそれを見て悲鳴を上げてしまいます。それもそのはず。今度の子供はとんでもない子供が二人。魚の顔に人間の身体を持った子と、魚の身体に人間の顔を持った化け物のような子供だったのです。

 男は悲鳴を上げて、全ての魚と子供を海に放り投げました。それから数年、男は震え上がって仕事が出来ませんでしたが、金が底を尽きるとまた働かなくてはならないと、漁を始めました。

 男がかつて妻に言われたことを思いだし、今度は心を入れ替えて真面目に働くかと網を引き上げると……


 「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああ」


 男は悲鳴を上げた後、白目になってその場で死んでしまいました。

 何故ならその網にはあの日捨てた二人の子供そっくりの人面魚と魚人間が沢山へばり付いていたから。


 その後その網を見た他の村人も、そりゃあとても驚きましたが、魚人間と人面魚は話してみればなかなか面白い奴らだったので、彼らは仲良くなりました。

 人面魚は津波の予知が出来、魚人間は釣りのポイントをよく知っていて、海との上手い付き合い方を教えてくれたのです。


 「いやぁ、お前さん達なかなか骨のある奴らだのう!」

 「カルシウムたっぷりですから」

 「ははは!上手いっ!おい婆さん、座布団持って来い!」


 *


 「なぁ、伝承?」

 「はい、どうかなさいましたか?」


 話の途中で王子はとうとう耐えられなくなり口を挟んでしまう。


 「これは喜劇なのか?悲劇なのか?」

 「いえ、教訓です」

 「き、教訓……なのか?ど、どういう、教訓?」

 「人魚や魚人が生まれると人はお金儲けに走ります。売り飛ばされる子供が可哀想だから、魚と人は結婚しては駄目だよ……そういう教訓のお話だと思います」

 「あ、あのな伝承?」

 「はい?」


 何も解っていない少年の肩を掴んで、王子は一言呟いた。


 「人間と魚じゃ、子供は出来ない」

 「……え?」

 「いや、だから、人間と魚じゃ……子供が出来ない」

 「え?」


 この少年、本当に解っていなかったのか。王子は口元が引き攣った。


 「君はその知り合いからからかわれたんだ」

 「そ、そんな!だって!」

 「伝承……魚は卵から生まれるだろう?」

 「そうですね……あ」

 「……っ」


 王子が呆れ戸惑う素振りを見せると、菫姫が笑いかけ必死に口元を押さえ出す。その様子に王子は、この少年が力を貸してくれているのだと知り、感謝の気持ちで微笑んで……その後、本気で言っていた可能性もあるのだと思い直し頭痛を覚えた。


 「伝承、一つ聞いて良いか?」

 「はい、どうぞ」

 「もしかして君は、男が男を嫁に貰っても子供が生まれるとか思っていやしないか?」

 「あはは、そんなことがあるわけないじゃないですか理様」


 軽い調子で笑う少年に、質が悪いと王子は溜息。知識が偏りすぎている。一体どんな教育を受けてきたんだこの子は。


 「それで伝承?その後魚達はどうなったのかしら?」

 「村に火事が起きた際に純血種は全滅しました。とても香ばしい良い匂いがしたそうです。ですからやはり別種族同士の共存は難しいんですね。理様の話された風の精霊然り、僕の話した人魚然り」


 何故だろう。一緒にされたくないと王子は思う。


 「ああ、でもですね!その火事の前に魚人間と結婚したお嬢さんが居て、そのお嬢さんから生まれた子供は人間なんですけど凄い魚顔で!それを僕に話してくれた人も凄い魚顔で!その人はその魚人間の末裔なんだぜって僕に教えてくれました!元々最初の女の人は海の神様の娘さんで、だから自分は王族なんだって言ってました!」

 「伝承……」

 「はい?」

 「それはおそらく普通に魚顔の男がお前をからかっただけよ」

 「えええ!?」


 菫姫にも駄目出しをされ、伝承は狼狽えている。そんな仕草は少し……背徳の王女に似ていて王子を驚かせた。

 そう考えると、性格は彼の方がよく似ている?しかし先程少年は笑った。背徳の王女ならばそんなに簡単には笑わない。やはり王女は菫姫だろう。


 「理様?」

 「いや……」

 「理様?」

 「っ!?」


 じっと彼を見ている内、菫姫に話しかけられていた。


 「今宵ももう12時になりますわ。今宵もここでお開きにしましょう」

 「ああ。彼のお陰で今日は楽しい夢が見られそうだ」

 「ふふ、私もですわ」

 「では、また明日。明日は私から……だったな」

 「いいえ、折角ですし理様。明日から伝承にも話をさせませんか?」

 「え、菫姫様っ!僕そういうの駄目です!お二人とも僕の話だとなんだかいつもと様子とか違いますし!僕上手く話せていないんでしょう!?」


 またもや狼狽える少年召使い。助けを求めるように此方を向く仮面。その角度がいつぞやの王女のそれによく似ている。そうだ。背丈がよく似ているんだと王子は気付く。菫姫はヒールを履いているから少し高く見えるけれど……


(万が一と言う可能性もあるな……)


 王子はそれを危惧し、菫姫の提案を受け入れた。


 「私からも頼もう。伝承、明日の一番手は君だ。是非とも私を泣かせるような話を考えてくれ」

 「彼を笑い泣かせてくれてもいいのよ」

 「そ、そんなぁ……っ!菫姫様っ!酷いですっ!」


 不満の声を上げる召使いを残し、菫姫は暗い扉の向こうへ。

 ふて腐れながら灯りを消し、燭台を手に取る少年は……何故だろう昨日よりも人間らしく見えた。初日と比べれば別人に思えるくらい。

 廊下を進む内、王子はいつものように彼に話しかける。


 「伝承は、海の傍に住んでいたんだな」

 「はい」

 「海は好きか?」

 「泳いだことはありませんけど、海と空を見るのは好きです」

 「そうか。身体でも悪かったのか?」

 「はい……そんなところです」


 少年は曖昧に濁し、此方に質問を投げる。


 「理様」

 「何だ?」

 「理様のお話なのですが……」

 「ああ、あれか」

 「もし理様が……風の精霊に恋をしたならどうされますか?」

 「今なら愛しただろう。だが、以前の俺ならば……拒絶してしまっただろうな」

 「以前の?」

 「ああ。俺はとても愚かだった。……失うまで何も解ることを許せず、嘘を厭いながら自分に嘘ばかりを吐いていた」

 「……奥様を捜して旅をされているんですよね?家出でもされたんですか?」

 「ああ、そんなところだ」


 王子は闇に頷く。知らないのなら、別人ならばそれでもいい。

 それでも忘れているなら、知らない振りをしているなら……酷い人だと目の前の少年に伝えてやりたかった。


 「もしも再び彼女に会えるなら、あの日言えなかった言葉をどうしても伝えたいんだ」

 「……そうですか。じゃあ、頑張らなくちゃですね!」


 少年は振り向かない。それでも声だけは明るい。


 「あ、部屋ここですね。今日はお疲れ様でした理様。お休みなさいませ」

 「ああ、お休み伝承(ミトス)


 わざと感情を込めて名前を呼べば、少年の肩が僅かに震えて見える。王子が部屋に入ると扉はすぐに閉められたが、閉めた当の本人は暫くその場を動けなかったようで、気配が一分ほど感じられた。


 「……ますます怪しくなって来たな。この森も、この城も」


 このまま先に進むことに意味はあるのだろうか?王子の悩みは森のように深くなり、光は見えない。

 騙されている。踊らされているのなら、彼女と彼の目的は何なのだろう?負けるべきなのか勝つべきなのか、解らなくなる。


(後、三回……)


 残り半分。様子見とは言っていられない。それでもまだ、わからないことが多過ぎる。寝なければ明日は来ないだろうか?そんな風にも思ったが、今朝は途中から眠らなくても夜が明けた。それは無意味だろうと王子は諦め、今日も意識を手放した。

時間ない。そう思ったらなんだか変な話になりました。

シルウィーヌの話で多分力尽きたんだ。

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