隠しダンジョン
合同ダンジョンはまだ続いていた。
地下空洞ではあちこちで戦闘が起きている。
だが俺には関係ない。
視界に浮かぶ文字。
魔石
ポーション
ドロップするモンスターだけを狙う。
踏み込む。
斬撃。
ゴーストが消える。
魔石を拾う。
「またあいつか」
遠くでCクラスの生徒が呟くのが聞こえた。
「なんであいつばっかドロップするんだ」
「狙ってるみたいじゃね?」
怪しまれてきている。
だが問題ない。
俺はゴーストをもう一体倒し、バッグに魔石を入れた。
そして周囲を確認する。
教師は別の班を見ている。
生徒たちは戦闘中。
誰もこっちを見ていない。
「今だな」
俺はダンジョンの壁へ歩いた。
一見ただの岩壁。
だが俺は知っている。
攻略本に書いてあった。
『地下空洞の奥、壁にひびが入った場所』
そこに手を当てる。
軽く押す。
すると――
岩が静かに動いた。
隙間。
通路。
「やっぱりあったな」
隠しダンジョン。
普通のプレイヤーは気付かない。
俺はそのまま中へ入った。
通路は暗い。
湿った空気。
奥からモンスターの気配がする。
その時だった。
「きゃっ!」
悲鳴。
俺はすぐ走った。
通路の先。
小さな部屋。
そこにいたのは――
少女。
長い黒髪。
制服。
そして目の前にはモンスター。
シャドウウルフ
少女は壁に追い詰められていた。
足をくじいたのか動けないらしい。
ウルフが飛びかかる。
俺は踏み込んだ。
「斬撃」
空気を裂く。
斬撃がウルフに当たる。
モンスターが怯む。
その隙に距離を詰める。
短剣。
一撃。
二撃。
三撃。
ウルフの体が崩れた。
霧のように消える。
床に魔石が落ちた。
少女が息を整える。
「た、助かった……」
俺は短剣を戻した。
「怪我してるのか?」
「少しだけ」
少女は俺を見上げた。
少し驚いた顔。
「あなた……Dクラスの人?」
「まあな」
少女は安心したように笑った。
「ありがとう」
そして少しだけ首をかしげる。
「そういえば……」
「名前、聞いていい?」
名前。
その瞬間、俺は少し固まった。
「……」
そういえば。
考えてなかった。
この世界に来てから。
レベリング。
ダンジョン。
攻略情報。
そればかりで――
「名前決めてなかったな」
「え?」
少女が不思議そうな顔をする。
俺は少し考えた。
頭に浮かぶのは一つ。
攻略本。
この世界を生きるための知識。
「じゃあ……」
俺は肩をすくめた。
「コウでいい」
「コウ?」
「攻略のコウ」
少女が少し笑う。
「変わった名前」
そして手を差し出した。
「私は美奈子」
「よろしくね、コウ」
俺はその手を軽く握った。
その時。
通路の奥から気配がした。
モンスター。
しかも少し強い。
美奈子が顔を青くする。
「まだいるの……?」
俺は通路を見た。
そして小さく笑う。
視界に文字が浮かんでいる。
レアドロップ:スキル結晶
「……なるほど」
隠しダンジョン。
やっぱり当たりだ。
俺は短剣を構えた。
「美奈子」
「え?」
「後ろに下がってろ」
俺は通路の奥を見る。
「いいレベリングになりそうだ」




