疑念
レッサードラゴンの死体の前で、洞窟の空気は妙な沈黙に包まれていた。
俺は普通に立っているだけだが、周りの騎士たちは完全に困惑している。
当然だろう。
学生が一人でドラゴンを倒したなんて、普通はあり得ない話だ。
「……本当に君が倒したのか?」
騎士の一人が低い声で聞いてくる。
鎧の男は鋭い目で俺を見ていた。
疑っている顔だ。
まぁ当然だな。
俺は肩をすくめた。
「他に誰かいるように見えるか?」
洞窟の中には俺たちしかいない。
騎士は少し黙り込む。
だが、完全には納得していない顔だった。
「……偶然弱っていた可能性もある」
「あるいは最後の一撃だけを……」
ぶつぶつとそんなことを言っている。
俺は特に否定もしない。
別に信じてもらう必要もないからだ。
その時だった。
「もう!」
美奈子が一歩前に出る。
「コウくんが倒したに決まってるじゃないですか!」
少し怒ったような声だった。
騎士たちは一瞬固まる。
美奈子は学園でも有名な貴族の娘だ。
その彼女がここまで強く言うのは珍しい。
「美奈子様……しかし」
「しかしじゃないです!」
美奈子は腕を組んで騎士を睨む。
「コウくんはすごいんです!」
洞窟の空気が少し変になる。
騎士たちは顔を見合わせた。
どうやら美奈子がここまで肩を持つとは思っていなかったらしい。
そして小さく咳払いをする。
「……とにかく」
「ここに長くいるのは危険です」
「学園へ戻りましょう」
騎士の一人がそう言った。
確かにその通りだ。
ドラゴンの死体がある場所には、他のモンスターも寄ってくる可能性がある。
俺は袋を軽く持ち上げた。
中にはさっきのドロップアイテムが入っている。
「じゃあ帰るか」
俺たちは洞窟の通路を歩き始めた。
先頭を騎士が進み、その後ろを俺と美奈子が歩く。
少しして、美奈子が小さな声で話しかけてきた。
「コウくん」
「はい」
「……本当に大丈夫でした?」
さっきまで強気だったのに、今は心配そうな顔だ。
俺は軽く笑う。
「まぁな」
「ちょっと疲れたくらいだ」
「……よかった」
美奈子はほっとしたように息を吐いた。
そして少しだけ顔を赤くする。
「その……」
「一人で行ったって聞いて、すごく心配だったんです」
「学園中で探したんですよ?」
俺は苦笑した。
そりゃ騒ぎになるわけだ。
「悪かったな」
「いきなりだったから」
「もう」
美奈子は少し拗ねた顔をする。
「今度はちゃんと言ってください」
「分かった」
そんなやり取りをしていると、前を歩いていた騎士がちらっとこちらを見る。
どうやら会話は聞こえているらしい。
しかもまだ疑っている顔だった。
俺が本当にドラゴンを倒したのか。
それとも偶然なのか。
騎士たちはまだ結論を出していない。
そして洞窟を抜けると、外の光が差し込んできた。
久しぶりの青空だ。
騎士の一人が空を見ながら言う。
「……学園に戻ったら報告が必要になります」
「ドラゴン出現は大問題ですから」
俺は軽く頷いた。
「そうだろうな」
すると別の騎士が小さく呟く。
「……それより」
「学生がドラゴンを倒したという話の方が問題かもしれないがな」
俺は思わず苦笑する。
どうやら、また面倒なことになりそうだ。
その時、美奈子が俺の隣で小さく笑った。
「でも」
「ちょっと誇らしいです」
「コウくんが強いって、みんなに分かりますから」
学園へ続く道を歩きながら、俺は空を見上げる。
静かな青空。
だが――
学園に戻れば、間違いなく騒ぎになる。
そんな予感がしていた。
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