オーガ
洞窟の奥から、地面を揺らすような重い足音がゆっくりと近づいてきた。その振動は壁を伝って体の奥まで響いてくるようで、さっきまでのゴブリンやオークとは明らかに違う存在感を放っている。
暗闇の奥から姿を現したそれを見て、俺は思わず小さく息を吐いた。
「……でかいな」
身長は三メートル近い。灰色の皮膚に岩のような筋肉、そして手には人間の体ほどもある巨大な棍棒を握っている。
典型的なパワー型モンスター――オーガだ。
しかも普通の個体より一回り大きい。おそらくこのモンスターハウスの主みたいな存在なのだろう。
俺は短剣を握り直しながら、自分の状態を確認した。
HPは完全ではない。さっきポーションで回復したが、戦闘を繰り返していたせいでまだ万全とは言えない状態だった。
それでも、ここで引くつもりはない。
「まぁ……レベリングにはちょうどいいか」
軽く肩を回してから、一歩前に出る。
その瞬間、オーガの目がこちらを捉えた。
「グオオオオオッ!!」
洞窟を揺らすような咆哮が響き、巨大な棍棒がゆっくりと振り上げられる。
次の瞬間――
ドンッ!!
棍棒が地面に叩きつけられ、床の石が砕け散った。
衝撃で小石が跳ね上がり、俺の頬をかすめる。
「……当たったら終わりだな」
あれをまともに食らえば、HPがどうこうというレベルでは済まないだろう。
俺は距離を取りながら、オーガの動きを観察する。
棍棒が横薙ぎに振られる。空気を切り裂く音が耳に届いた瞬間、俺は咄嗟にしゃがみ込んで回避した。
だが、その風圧だけで体が大きく揺れる。
「重すぎるだろ……」
ゴブリンやオークとは比べ物にならない破壊力だ。
それでも、俺は前に踏み込む。
短剣を構え、オーガの脚を狙って斬りつけた。
斬撃。
ザシュッ。
しかし刃は思ったより浅くしか入らない。分厚い皮膚と筋肉が、ほとんど衝撃を吸収してしまっていた。
「グオッ!」
オーガの腕が振られる。
ガンッ!
「ぐっ……!」
避けきれず、腕の一撃が肩に直撃した。
次の瞬間、俺の体は宙に浮き、そのまま背中から地面へ叩きつけられる。
肺の空気が一気に吐き出され、視界が一瞬白くなった。
「……っ、痛ってぇ……」
HPが大きく削られているのがわかる。
俺はすぐにポーションを取り出し、栓を抜いて一気に飲み干した。
体の奥に温かい感覚が広がり、傷がゆっくりと塞がっていく。
だが、オーガは待ってくれない。
「グオオオッ!」
再び棍棒を振り上げる。
振り下ろし。
ドンッ!!
俺は横へ転がりながら、ギリギリでそれを回避した。
さっきまで立っていた場所の床が大きく割れている。
もし少しでも遅れていたら、間違いなく潰されていただろう。
(正面から殴り合うのは無理だな)
呼吸を整えながら、頭の中で状況を整理する。
パワーは圧倒的。防御も高い。まともに削り合えばこっちが先に力尽きる。
だが、このタイプのモンスターには弱点がある。
動きが遅い。
俺は立ち上がり、オーガの周囲を大きく回り始めた。
棍棒が振り回される。
避ける。
もう一度振られる。
また避ける。
だが、それだけで体力はどんどん削られていく。
呼吸は荒くなり、HPも再び半分を切っていた。
「くそ……ポーション減るな」
もう一本取り出し、飲み干す。
これで残りは一本。
次で決めるしかない。
オーガが大きく吠えながら、こちらへ突進してきた。
巨大な体が一直線に迫る。
だが、その動きは直線的だ。
俺はギリギリまで引きつける。
そして――
横へ跳んだ。
オーガの巨体がそのまま前へ流れ、わずかに体勢を崩す。
その瞬間を、俺は見逃さなかった。
「ここだ!」
背後へ回り込み、短剣を全力で突き刺す。
ザシュッ!!
刃が背中の筋肉を切り裂いた。
「グオオオオオ!!」
オーガが激しく暴れる。
だが、もう遅い。
俺はさらに一歩踏み込み、もう一度斬撃を叩き込んだ。
首元。
深く。
血が噴き出す。
巨体が大きく揺れ――
ドン……
地面を揺らしながら、ゆっくりと崩れ落ちた。
洞窟の中に、静寂が戻る。
俺はその場に座り込み、大きく息を吐いた。
「……はぁ……マジで死ぬかと思った」
HPはほとんど残っていない。
最後のポーションを飲みながら、倒れたオーガを見上げた。
すると、その体がゆっくりと光り始める。
「お?」
光の粒がいくつも地面に落ちた。
ドロップだ。
しかも、数が多い。
俺は一つずつ拾い上げていく。
魔石。
骨。
そして――
ひときわ強く光る結晶。
「……スキル結晶?」
思わず笑みがこぼれる。
「これは……当たりだろ」
さすが幸運の加護。
俺はその結晶を手の中で握りしめた。
「さて……」
「どんなスキルだ?」
結晶を砕いた瞬間、光が体の中へ流れ込んだ。




