モンスターハウス
隠しダンジョンの奥へ進むにつれて、通路は徐々に広くなっていった。
湿った空気と、どこか鉄のような匂いが漂っている。
足音が洞窟の中で反響する。
「この先か……」
しばらく歩くと、通路の先が大きく開けていた。
俺は壁に身を寄せながら慎重に中を覗く。
そして思わず小さく息を吐いた。
「……多いな」
そこは巨大な空洞だった。
しかも中にはモンスターがうろついている。
ゴブリンが五匹ほど。
スケルトンが三体。
さらに奥にはファングウルフが二匹。
普通の冒険者なら、この時点で引き返すだろう。
いわゆる――モンスターハウスだ。
だが俺は少し考えてから、空洞の中をもう一度観察した。
(全部倒す必要はない)
攻略本の知識が頭の中に浮かぶ。
このタイプの部屋は、敵の数が多い代わりにドロップ率が調整されている。
つまり、価値の低いモンスターまで全部相手にすると消耗するだけだ。
視線を奥へ向ける。
ファングウルフ。
あいつらは魔石の純度が高い。
経験値もそこそこいい。
「……あれだけ狙うか」
俺はゆっくりと短剣を握り直した。
⸻
最初に気づいたのはゴブリンだった。
「ギャッ!」
奇声を上げながらこちらに突っ込んでくる。
だが俺はそいつを相手にしない。
横へステップしてかわし、そのまま奥へ走る。
狙いは最初から決まっている。
ファングウルフだ。
だが次の瞬間、鋭い影が横から飛びかかってきた。
ガッ!
「ぐっ……!」
鋭い爪が肩をかすめる。
思った以上に速い。
HPが一気に削られる感覚があった。
痛みを堪えながら距離を取る。
「やっぱ速いな……」
ファングウルフは地面を蹴り、低い姿勢でこちらを睨んでいる。
その後ろではゴブリン達も集まり始めていた。
数で押されたらさすがにきつい。
「さっさと一匹落とすか」
俺は地面を蹴った。
同時にウルフも飛び込んでくる。
牙が迫る。
ギリギリで体をひねり、短剣を振る。
斬撃。
刃が首元を切り裂いた。
ドサッ、と重い音を立てて一匹が倒れる。
だが安心する暇はない。
背後からゴブリンが三匹、斧を振り上げて突っ込んできた。
ガンッ!
腕で受け止めた瞬間、衝撃が骨に響く。
「ちっ……!」
HPがまた削れる。
さすがに数が多い。
俺は一度距離を取ってポーションを取り出した。
ゴクッ。
薬液を飲み込むと、体の奥からじわりと熱が広がる。
傷が少しだけ塞がる感覚。
「ポーション買っといてよかった……」
だが戦いはまだ終わっていない。
残りのファングウルフが低く唸りながら飛びかかってくる。
今度は速い。
避けきれない。
牙が頬をかすめ、血が飛ぶ。
「くそ……!」
HPがかなり減った。
体も重くなってきている。
それでも、ここで倒れるわけにはいかない。
俺は踏み込んだ。
真正面からウルフに突っ込む。
相手も同時に飛びかかってくる。
その瞬間、俺は体を半歩ずらした。
牙が空を切る。
その隙に短剣を突き出す。
刃が首元に深く刺さった。
ドサッ。
ウルフが崩れ落ちる。
数秒後、部屋の中が静かになった。
残ったゴブリンは恐怖したのか、そのまま奥へ逃げていった。
⸻
「はぁ……」
俺は壁に背中を預けて息を吐いた。
HPはかなり削られている。
やっぱり数が多いと簡単じゃない。
ポーションをもう一本飲みながら、地面を見る。
すると、いくつか光が浮かび上がっていた。
「お、ドロップか」
拾い上げる。
高純度魔石が二つ。
さらにファングウルフの牙。
そして、もう一つ。
小さく光る金属。
それを手に取ると、銀色の指輪だった。
「装備アイテム……?」
思わず少し笑う。
「今日は当たりだな」
その時だった。
空洞のさらに奥。
暗闇の中から――
ズン。
ズン。
重い足音が響いた。
赤い目がゆっくりと光る。
「……まだいるのか」
俺は短剣を握り直した。
今日のレベリングは、まだ終わりそうにない。




