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悪名高い第五王女は新婚の護衛騎士を寝室に閉じ込め、「夫を返して!」と嘆く夫人を見下し、艶然と笑う

掲載日:2026/04/09


「お願いします!

 マルグリット王女!!

 どうか夫を……!

 エリオットを返してください!」


「私のザイドも返して!

 いくら夫が護衛騎士とはいえ、初夜を迎える前に王宮に呼び出し、そのまま王女宮に留めるなんてあんまりです!」


「私たちの夫はもう三日も帰ってきていません!

 お願いします!

 一目だけでもかまいません!

 ジョナサンに会わせてください!」


ロザンヌ王国の王宮。


美しき王女マルグリットの前に、護衛騎士たちの妻が集まっていた。


マルグリットの護衛騎士三人は大変仲が良く、数日前に三組同時で結婚式を挙げたばかりだった。


目に涙を浮かべ必死に懇願する夫人たち。


「彼らは王女の護衛騎士。

 どうしようと私の勝手だ」


そんな彼女たちを蔑むように、王女は口角を上げ、にたりと笑う。


まるで絶望する夫人達の反応を楽しむように……。


「エリオット、ザイド、ジョナサンの三人は今日も仲良く私の寝室にいる。

 とても居心地が良いようだぞ」


王女の人の心を弄ぶような物言いに、夫人たちは目を見開き、息を呑んだ。


「それに、そなた達の夫が家に帰らないのは、そちらに原因があるのではないのか?

 だとしたら、こちらを責めるのは筋違いだ」


王女の口ぶりは、まるで夫人達に非があるようだった。


夫人たちはキッと王女を睨みつけ、拳をぎゅっと握りしめた。


それが彼女たちにできる精一杯の抵抗だった。


「どうしても夫を返してほしいのなら……宮殿に奪いに来るのだな」


そう言って王女は不敵に笑い、踵を返した。


王女のウェーブのかかった黄金の髪が風になびき、夫人たちは彼女の背中を睨むことしかできなかった。


そう、殺意のこもった鋭い眼差しで……。




◆◆◆◆




「マルグリット王女。

 あの三人、あなたを殺すような目で見ていましたね」


マルグリット王女の背後に、ひとりの青年が立つ。


王女に寄り添うように立つ黒髪の青年の名はニコラウス。


グレイモア辺境伯の嫡男で、王女の側近だった。


「今夜あたり、王女宮が襲撃されるかもしれませんよ」


「ニコラウスか。

 そうなるように仕向けたのだ」


マルグリット王女は青い目を細め、にやりと笑う。


「ニコラウス、王女宮の警備を緩めておけ。

 奴らが襲撃に来れるように……王女の寝室に辿り着けるようにな」


王女はパタンと音を立て扇を閉じた。


「護衛騎士の妻が王女の寝室に不法侵入……理由はどうあれ、処刑は免れまい」


王女の青い目は、真冬の湖のように冷たかった。


「マルグリット王女の仰せのままに」


ニコラウスは恭しく礼をし、王女に命じられるまま、警備に穴ができるよう手配を始める。




◆◆◆◆




マルグリットが自室に戻ると、そこには先日結婚式を終えたばかりの護衛騎士が三人いた。


三人はやつれた表情で、部屋の隅で固まって座っていた。


マルグリットが帰ってきたことに気づくと、彼らは王女の元に駆け寄った。


「マルグリット王女!

 いつになったら家に帰れるのですか!?

 妻に……サラに一目会わせてください!」


護衛騎士の一人、エリオットが王女に詰め寄る。


「僕もクララに会いたいです!」


「自分も……!

 愛しのソフィーの顔が見たいです!」


ザイドとジョナサンがそれに続く。


マルグリット王女は不敵な笑みを浮かべ、三人の顔を一人一人じっくりと眺めた。


「心配せずともよい。

 今宵あたり、向こうから会いに来るであろう」


護衛騎士は王女の言葉が理解できず、困惑の表情を浮かべている。


「もっとも……そなたたちが会った時、奴は人の原型をとどめておらぬかもしれんがな」


王女は唇をぺろりと舐め、意味ありげに微笑んだ。


それは、警備に見つかり切り刻まれることを意味しているのか……?


護衛騎士たちは互いの顔を見合わせ、カタカタと肩を震わせることしかできなかった。




◆◆◆◆





そして、その夜――。



人々が寝静まった深夜、王宮に侵入者の影。


その者は、警備の手薄なところをついて城に入り込み、マルグリット王女のいる王女宮を目指していた。


「マルグリット……王女!

 許さない……!

 返して……! 

 私の夫を返して……!!」


血走った目で呟く女の声は酷く低い。

もし女の声を側で聞いている者がいたら、心臓が凍りついていたことだろう。


侵入者は王女宮の塀を軽々と乗り越え、マルグリット王女が眠る寝室へと近づいていく。


庭や廊下に護衛の姿はなく、侵入者はやすやすと寝室にたどり着いた。


「ここね!

 ここに彼がいるのね……!」


ひときわ豪華な扉の前で、女は真っ赤な舌で唇を舐めた。

月明かりに照らされ、女の唇が光りなんとも言えない不気味さを醸し出していた。


女は扉を蹴破り、王女の部屋に押し入る。


「エリオット! 

 あなたのサラが迎えに来たわよ!

 愛しのエリオット!!」


部屋の中に明かりはなく、窓から差し込む月明かりだけが光源だった。


そんな薄暗い部屋で、女は部屋の隅に固まって座っている護衛騎士三人を直ぐに見つけ出した。


「やっぱりここにいたのね……!

 私のエリオット……!」


女は目をキラリと光らせ、嬉しそうに口角を上げた。


護衛騎士は女の姿を確認しても表情は硬いままだった。


いや、エリオットの顔色は青ざめ怯えているように見えた。


「ほ、本当に来たのか……?

 か、細い体で塀を乗り越えて……?

 そんな、そんなことができるなんて……それはもう……」


エリオットの顔に覇気はなく、声は震えていた。


「こんな部屋に閉じ込められて……可哀想なエリオット。

 さぁ、私と一緒に帰りましょう」


「マ、マルグリット王女の許可がなければ帰れない……!」


女の問いに、エリオットは首を横に振る。


「王女?

 マルグリット王女が邪魔するというの?」


女は王女の寝台に目を向けた。

寝台では王女が眠っているのか、こんもりと布団が盛り上がっている。


「私のエリオットを寝室に留めて帰さない。

 そんな女は……私が殺してあげるわ!!」


女は懐からナイフを取り出し、体をくねらせ異様な速度で寝台へ向かっていく。


「マルグリット死ねーー!!!!」


振り上げたナイフの柄が月明かりを浴び、ギラリと光る。


女は躊躇なくナイフを振り下ろし、布団越しに王女を串刺しにした。


「ひっ……!」


護衛騎士の一人、エリオットが悲鳴を上げる。


女はマルグリットの血がベッドを染めることを期待したが、布団の中の羽が飛び散るだけだった。


女が布団を勢いよく捲り上げる。


ベッドに鎮座していたのは、丸太と金髪のウィッグだった。


「なんだこれは!?

 マルグリットはどこに行った!!」


女が眉を寄せ目を釣り上げ、恐ろしい形相で辺りを見回す。


「飛んで火に入る夏の虫とはお前のことだな」


背後に気配を感じたときには、すでに女の後頭部に武器が当てられていた。


女が振り向くと、金の髪をたなびかせ、真紅のドレス姿の王女が巨大なハンマーを片手に立っていた。


「王宮への不法侵入、器物破損、王女殺害未遂……。

 これだけ揃えば、その場で命を取られても文句は言えまい」


女が虫が地をはうような格好で逃げ出そうとするが、王女はそれを許さない。


「逃がさん!!」


王女が勢いよくハンマーを振り下ろす!


それは女の後頭部に命中、ミシリと骨が砕けるような嫌な音が辺りに響いた。


殴られた勢いで女は壁までふっ飛ばされた。


女は壁に激突した勢いで壁が崩れ、女はその下敷きになった。


王女はベッドから飛び降りた。


彼女はハンマーを敵に向け、戦闘態勢を崩さない。


「彼女は……死んだのですか……?」


エリオットが震える声で王女に問う。


「さてな。

 これくらいで死んでくれるなら苦労はせんのだがな」


王女は倒れたまま動かない女に、厳しい視線を向けた。


ガタッ……! と瓦礫が崩れる音がし、破片の中から手が伸びてきた。


「ぎゃあっ……!」


とエリオットが声を上げる。


女は生きていたのだ。女は瓦礫をかき分け立ち上がった。


女の首はある得ない角度に曲がり、片方の手の骨は砕け、ひしゃげた顔から血が滴り落ちていた。


「おのれ、マルグリット……!

 どこまで私の邪魔をする……!」


地獄を吹き抜ける風のようなおぞましい声が、室内に響く。


「私は、夫を……エリオットを迎えに来ただけだ……!

 邪魔をするな!」


女は髪を振り乱し、歯をむき出しにし、奇声を上げる。


「エリオット……さあ、一緒に帰りましょう!」


女の金色の目が獲物を捕食する狼のように、エリオットに纏わりつく。


女はエリオットに向かって手を伸ばしたが……。

 

「ひぃっ!

 く、くるな……!」


エリオットは女の視線から逃れるように、マルグリットの背後に隠れた。


「護衛騎士が王女の後ろに隠れてどうする……」


王女は舌打ち混じりにそう漏らした。


「マルグリット……!

 私の夫を誘惑し、帰さないつもりか!」


「笑わせるな化け物!」


王女が吐き捨てるように言った。


「ハンマーで頭を砕かれて生きている人間がいるものか!」


「くくく……はははは……!

 最初からお前の手の内だったというわけか……!」


女は奇声を上げ、シャンデリアに飛び移った。


王女はシャンデリアにハンマーを向ける。


女は不気味に笑い声を上げると、体を変形させていく。


長く美しかった茶色かった髪は白く変わっていく。

耳が尖り、口が大きく裂け、肌は緑色へと変貌していく。


「やはりお前がツマグイだったのだな!」


「ほぅ……貴様、われの名前を知っているのか」


その声はひび割れくぐもっていて、もはや人の発するものではなかった。


「護衛騎士たちの結婚式に参加した時、花嫁から異様な気配を感じた。

 しかし誰が化け物なのかまではわからなかった」


護衛騎士は三組合同で結婚式を挙げていた。そのことが仇となった。


「だから護衛騎士たちを、王女宮に住まわせた匿った!

 ツマグイは、放っておくと夫を頭からボリボリ食べてしまうからな!」


「……っ!」


自分が食べられるところだったとわかり、護衛騎士の顔色はすぐれない。


護衛騎士たちは真っ青な顔で震えながら、王女の背後に隠れた。


エリオットに至っては、半泣き状態だ。


「た、助けてくださいマルグリット王女!!

 化け物に頭から食べられるのは嫌です!!」


エリオットが王女のドレスにすがりついた。


「バカ!

 主君のドレスに触れる奴がいるか!

 これでは動けん! 離せ!」


だが、エリオットは錯乱しているようで、王女のドレスを離そうとしない。


「ははは……! 

 自分を守るはずの護衛騎士に盾にされるとは滑稽だな!

 マルグリット、まずは邪魔なお前から殺してやる!」


ツマグイの爪がハンドグローブのように伸びる。


彼女は蛇のようにうねらせ、ものすごい速さで迫ってくる。


間近に迫ったツマグイが、鋭い爪を振り上げる。


王女はハンマーを構えたが、間に合わない。


ツマグイの一撃を覚悟したその瞬間……何者かがツマグイの爪を弾いた。


「このような雑魚に、攻撃の隙を与えるとは……。

 マルグリット王女は、まだまだ修行が足りませんね」


黒く艷やかな髪が月明かりの中でたなびく。


「うるさい、ニコラウス!

 こいつらに足を引っ張られなければ、隙などさらさなかった!!」


「そういうことにしておきましょう」


ニコラウスがわずかに振り返り、ニコリと笑う。


王女はニコラウスの余裕綽々な態度が気に入らなかった。


「このポンコツ護衛騎士!

 いつまでドレスを掴んでいる気だ!」


マルグリットはキッとエリオットを睨みつけ、蹴り飛ばした。


哀れ、エリオットの体は宙を舞い、壁まで吹っ飛んでいった。


「うぐっ!」


壁に叩きつけられたエリオットは気を失った。


「お前らも邪魔だ!

 エリオットと一緒に壁際で待機してろ!!」


王女にギロリと睨まれ、ザイドとジョナサンは無言でこくこくとうなずく。


二人共腰が抜けたのか、四つん這いでヨタヨタと移動していく。


「こいつらが護衛騎士で大丈夫か?」とマルグリットはため息をついた。


護衛騎士が安全な場所に移動したことを確認し、王女はツマグイに視線を戻す。


ツマグイはニコラウスとの戦いの最中だった。


ニコラウスはまるでダンスでも楽しんでいるかのように、余裕でツマグイの攻撃を躱していく。


「ニコラウス、何を遊んでいる!」


「これは失礼。

 マルグリット王女の獲物を私が仕留めては、王女がへそを曲げるかと思い、相手を傷つけぬように配慮しながら、戦いを長引かせておりました」


ニコラウスは空中でツマグイの爪を剣で弾くと、一回転して王女の隣に着地した。


「そのような心配は無用だ!」


「それは失礼をいたしました」


ニコラウスは仰々しくマルグリットに頭を下げた。


「助かった……」


「今、何かおっしゃいましたか?」


「何でもない! 邪魔だから下がっていろ!」


ピンチを救ってもらったのに、素直になれない事に、マルグリットは苛立ちを感じた。


しかし、今は戦闘の最中。王女は雑念を振り払い、ツマグイに視線を戻す。


殺気のこもった王女の視線に、ツマグイはたじろいだ。


「役立たずの護衛騎士に足を引っ張られ、今私はめちゃくちゃ機嫌が悪い!

 手加減はできんぞ!

 悪く思うな!!」


マルグリット王女は素早くハンマーを振るい、魔物の頭を砕き、体をめった打ちにした。


ツマグイは人になり代わるのが得意だから、殴って本物かどうか確かめるしかない。

だが、ちょっとやそっとの衝撃では本性を表さない。

だから策を巡らせ、王女の寝室におびき寄せた。

万が一、本物の人間だったとしても、王女の寝室に忍び込んだ者は問答無用で処刑できる。

遠慮なく殴りつけることができるというわけだ。


ツマグイをハンマーでボッコボコにしながら、王女は計画の全貌を話した。


ボッコボコにされてるツマグイは、王女の言葉を理解するどころではなかった……。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




「マルグリット王女、そのくらいにしないとツマグイが死んでしまいます」


ニコラウスが王女をたしなめた。


ツマグイは体がズタズタになり、骨も砕けていたが、かろうじて生きていた。


ツマグイが助けを期待し、ニクラウスに目を向ける。


「奴には、まだ聞きたいことがあります」


絶対零度の赤い目と視線があった瞬間、絶望に打ち落とされた。


「本物のサラ・スタンリーはどうした?」


王女がツマグイの頭をぐりっとヒールで踏みつける。


「グッ……!」


ツマグイが声にならない声を漏らす。


「殺したのか、食ったのか、それともどこかに隠したのか……?

 正直に答えた方が身のためだぞ。 

 ニコラウスの拷問は、私の攻撃の比ではないからな」


マルグリットがちらりとニコラウスを見る。


ニコラウスは真紅の目を細め、見惚れるほど美しく笑った。


「さて、ツマグイ。

 サラ・スタンリー子爵令息夫人はどこにいるのですか?

 彼女が生きているなら、優しく殺してあげましょう。

 もし彼女が死んでいた場合……あなたには死よりもおぞましい恐怖を味わっていただくことになります」


ニコラウスの言葉遣いは丁寧だったが、その声は氷より冷たかった。


魔物であるはずのツマグイでさえ、心臓が凍りつくほどであった。


「例えばあなたの体に……」


ニクラウスはツマグイの耳元で何かを囁いた。


そこから先は、とても人前では語れない……。


想像を絶するえげつない拷問方法であったとだけ伝えておこう。


「言う! 何でも言う!

 だからひと思いに殺してくれ!」


ニクラウスと会話したあと、ツマグイの顔は緑から青色に変色し、全身からだらだらと汗を流し、全身がガタガタと音を立てて震えていた。


「ニクラウス、ツマグイに何を伝えたのだ?」


「なぁにほんの世間話ですよ」


「世間話で、魔物があそこまで怯えるわけないだろう」


マルグリット王女はニコラウスの笑顔の裏に潜む闇の部分を垣間見て、ため息をついた。


……我ながら、厄介な男に惚れたものだ。


「ツマグイ、改めて聞く。

 サラ・スタンリーはどこにいる?」


「あ……あの女は、西の森にいる!

 大きなクヌギの木の近くにある……小屋の中だ!」


「本当だな?

 嘘だったら、ニクラウスの拷問だぞ」


「ご、ごごご……拷問は嫌だ!

 ほ、本当のことしか言ってない……!!」


ツマグイの怯えように、王女は魔物が嘘を言ってないと確信した。


「サラ・スタンリーは、西の森にある大きなクヌギの近くの小屋だ!

 急げ!!

 今ならまだ助けられるかもしれない!!」


マルグリット王女が護衛騎士に命じた。


なにせ結婚式から三日も経っている。


サラが拘束され、飲まず食わずでいたなら生命の限界が近い。


壁際で震えていたエリオットだが、妻が生きていると分かると、途端に生気を取り戻し、慌てて部屋を飛び出していった。


すぐさま捜索隊が結成され、サラは無事に保護された。


衰弱がひどかったが、回復ポーションと治療師の回復魔法により命をとりとめた。


数日後には、自力で歩けるまでに回復した。


「新婚の護衛騎士を第五王女が離宮に閉じ込めて帰さない」という醜聞は、魔物の討伐と、サラの回復という吉報とともに、宮殿内のみならず民の知ることとなった。





◆◆◆◆





二週間後、王女宮――。



「マルグリット王女、アルナス王国の王太子からの求婚を断ったそうですね」


空は快晴、ガゼボの周りには季節の花が咲き乱れていた。


「あの国の王太子は好みではない。 

 軟弱すぎる」


ニコラウスがカップに紅茶を注ぎ、マルグリットに差し出す。


「はぁ……そのような事を言っていると婚期を逃しますよ。

 せっかく、あちらが王女の外見を高く評価し、婚姻の申し入れをしてくださったというのに……」


ニコラウスが深く息を吐いた。


「うるさいぞ!

 私には外見しか取り柄がないみたいな言い方をするな!」


「もちろん王女の魅力は、美しさだけではございません。

 王女の母君は国王の正室、実の兄君は王太子であらせられます。

 政略結婚の相手には申し分ないかと」


マルグリットはきつい目元が特徴的だが、金髪ロングヘアの美人。


ロザンヌ王国は資源も豊富な大国。


近隣諸国の王族にとって、マルグリットは喉から手が出るほどほしい存在。


それが十八歳になるまで売れ残るのは、魔物相手にハンマーを振り回しているからに他ならない。


「魔物相手にハンマーを振り回す乱暴な……逞しい王女を、嫁にほしいと思う王家があるといいのですが……。

 すでにセリオン王国、ルミエール王国、カルナ王国の王族から縁組を断られております」


「他国の王族に嫁ぐのが難しいなら……自国の貴族に臣籍降嫁するという手もある。

 た、例えばだが……名のある家の嫡男とか……」


マルグリットがちらりとニコラウスの顔を見る。


「文武両道で、容姿端麗で、三歳くらい年上で、私より強ければ申し分ない!」 


マルグリットはもう一度、ニコラウスに視線を送った。


ニコラウスは学園を主席で卒業しており、剣の腕もこの国随一。


辺境伯爵家の跡継ぎで、眉目秀麗、年齢は二十一歳。


彼が城内を歩くと、侍女から黄色い悲鳴が上がるほどだ。


「文武両道で容姿端麗、名門貴族の嫡男で、王女と三年差で、まだ婚約者の内定していないもの……これは難題でございますね」


ニコラウスは顎に手を当て、低く唸り声を上げた。


「ご安心くださいマルグリット王女!

 王家との縁組みを狙い、未だ独身を貫いておるものが少なからずおります!」


ニコラウスが思い出したかのように言った。 


「ゼクスト・ガルト侯爵令息、ライル・ブランド侯爵令息、ユーグ・ヴァイス伯爵令息などいかがでしょう? 

 家柄も容姿も評判もよく、そこそこ剣の腕も立ちます。

 一度、彼らを城に招きお茶会を開いてみては……王女?」


マルグリットが紅茶を片手に持ったまま、プルプルと小刻みに震えていた。


「もしかして、今名前を上げた者はお気に召しませんでしたか?」


「……の!」


「はい?」


「ニコラウスの大馬鹿者!!

 余計な事には気がつくくせに、どうしてこういう事には疎いんだ!!」


マルグリットは、叩きつけるようにカップをソーサーに戻した。


紅茶が溢れ、テーブルクロスに染みを作る。


乱暴と言われていてもマルグリットは王女。


マルグリットの粗暴な態度に、ニコラウスは動揺を隠せない。


「私はもともと、兄上の後ろに隠れるような、華奢で人見知りな少女だったのだ!

 それを、お前の父親が『第五王女殿下には魔物退治の才能がございます』と言って、父上を説得して、辺境伯領に連れて行って修行させたんだろうが!!」


マルグリットがキッとニコラウスを睨みつける。


「今では『凶暴でがさつな暴力女』として国内外問わず有名になってしまった!!

 そのせいで嫁の貰い手がない!

 お前と辺境伯爵家に責任を取らせようと思ったが、もうやめた!!」


マルグリットは席を立ち、ドスドスと音を立てて部屋に戻っていった。


ニコラウスは王女の後ろ姿を、しばし呆然と眺めていた。


「え……あっ、もしかして……今のはマルグリット王女からの逆プロポーズ……?」


マルグリットの言葉の意味に気づいたニコラウスは顔を赤らめた。


「お、お待ち下さい!

 マルグリット王女……!」


ニコラウスは慌ててマルグリットの後を追った。







ちょっと鈍い辺境伯令息と、乱暴な王女が結ばれるのはもう少し先のお話。




――終わり――





最後までお読み下さりありがとうございます。

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※以前アップしていたものを削除してしまったので、批判が多かったラスト部分を書き直して再アップしました。


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