EP 2
深層50階、輝くネオンサイン
「ふあぁ……。退屈だぜぇ」
ダンジョン攻略開始から数時間。
地下49階層。
イグニスが大あくびをしながら、巨大なミノタウロスをデコピン一発で壁に埋め込んだ。
「もっとこう、骨のある奴はいねぇのかよ! これじゃただの散歩だぜ!」
「贅沢言わないの! 視聴者も『イグニス無双www』って盛り上がってるわよ!」
キュララがドローンカメラを操作しながら叫ぶ。
確かに、俺たち『ダンジョン攻略隊』の戦力は過剰だ。
イグニスが前衛で蹂躙し、クラウスが中衛で撃ち漏らしを狩り、俺とリーザが後ろでおやつを食べているだけ。
「それにしても……妙ですわね」
リーザがもぐもぐと干し肉を噛みながら、天井を見上げた。
「さっきから、空気が変わってきていますわ。カビ臭さが消えて……なんだか『機械的な匂い(オゾン臭)』がしますの」
「ああ。壁の材質も、ただの岩じゃない。……『強化コンクリート』だ」
俺は壁に手を触れた。
滑らかで、冷たい。そして微かに振動している。
地下深くを流れる地脈から、魔力を吸い上げているような感覚。
「おい、見ろよ! 突き当たりにデケェ扉があるぞ!」
イグニスが指差した先。
迷宮の最奥、第50階層への入り口。
そこには、重厚な鉄の扉ではなく――
ウィィィィン……。
人が近づくと勝手に開く、ガラス張りの『自動ドア』があった。
「なっ!? 魔法も使わずに扉が開いた!?」
「古代の結界か!? 罠かもしれん、下がれ!」
クラウスが剣を構えて警戒する。
だが、俺は確信を持ってその「結界」を潜り抜けた。
「罠じゃない。……『歓迎』されてるんだよ」
俺が足を踏み入れた、その瞬間だった。
バチチチチッ!!
暗闇だった空間に、一斉に照明が灯った。
「「「うわぁっ!?」」」
全員が目を覆う。
だが、その光は攻撃魔法の閃光ではなかった。
赤、青、黄色、ピンク。
毒々しいほどにカラフルな光の洪水。
そして、鼓膜を震わせる爆音。
『♪〜 Welcome to the Fantasy Zone! 〜♪』
『♪〜 ガンガン行こうぜ! 確変突入! 〜♪』
『ピロリロリン! チュドォォォン!!』
「な、なんだこの音は!? 呪いの歌か!?」
「目が! 目がチカチカするわ!」
イグニスとキュララがパニックになる中、俺は呆れつつも懐かしさに目を細めた。
そこは、東京ドーム数個分はあろうかという広大なフロア。
床には幾何学模様のカーペットが敷き詰められ、壁一面には鏡。
そして、所狭しと並べられた数百台の『筐体』たち。
クレーンゲーム、メダルゲーム、格闘ゲーム、音ゲー、そしてパチンコ。
「……あーあ。やっぱりな」
俺は額を押さえた。
ここはダンジョンじゃない。
かつてこの世界に転生した、遊び心(と予算)を持て余した勇者が作り上げた――
『地下大迷宮アミューズメントパーク(ゲーセン)』
だったのだ。
◇
「す、すごい……! なにこれ! キラキラしてて可愛い!」
最初に順応したのは、やはり現代っ子(?)気質のキュララだった。
彼女はカメラを回し、興奮気味に実況を始めた。
「みんな見て! 古代遺跡の最深部は『光の城』だったの! 壁の文字が読める!? 『GAME』……『PLAZA』……?」
「ゲーム……? 古代語で『試練』という意味か?」
クラウスが真剣な顔で看板を解読しようとしている。
違うよクラウス、それは『遊び場』って意味だ。
「おいリアン! こいつら、動くぞ!」
イグニスが巨大な筐体を叩いた。
『ストリートファイター』的な格闘ゲームのデモ画面だ。
画面の中で、筋肉質の男が波動を撃っている。
「箱の中に小人が閉じ込められてやがる! 助け出してやるぜ!」
「やめろ! それは映像だ! 叩き割ったら弁償だぞ!」
俺は慌ててイグニスを止めた。
この施設の維持管理システムが生きているなら、器物破損は即『防衛システム(警備ロボ)』の対象になりかねない。
「リアン様、あちらをご覧くださいまし」
リーザが指差したのは、フロアの中央に鎮座する巨大なタワー。
そこからジャラジャラと大量のコインが溢れ出していた。
「……お金? ここは宝物庫ですの?」
「いや、あれは『トークン(メダル)』だ。この施設内だけで使える通貨だよ」
俺は近くの両替機のような装置に近づいた。
『ダンジョン魔石を入れると、メダルに交換します』
という説明書きがある。
「なるほど。倒した魔物の魔石を、ここで遊びに変えろってことか。……よく出来たシステムだ」
俺は道中で拾った魔石を投入してみた。
チャリン♪ ジャララララッ!!
排出口から、金色のメダルが100枚ほど吐き出された。
「おおっ! 金貨が増えた!」
「違うって。……ほら、みんな。これを一枚ずつ持って、好きな台に入れてみろ」
俺は全員にメダルを配った。
「これは『遊び』だ。古代人が遺した、最高の暇つぶ長さ」
「遊び……? 剣の修行ではなく?」
「お腹がいっぱいになる遊びなら歓迎ですわ!」
半信半疑のクラスメイトたち。
だが、数分後。
彼らは知ることになる。
この『電子の要塞』が、魔物よりも遥かに恐ろしい「時間と金(魔石)を吸い取る沼」であることを。
「さあ、攻略(散財)開始だ」
俺はニヤリと笑い、ネオン輝くゲームフロアへと足を踏み入れた。




