EP 10
勝利の行方、あぶく銭は残らない
「――集計完了! 今年の学園祭、模擬店部門の優勝は……!!」
夜の後夜祭会場。
特設ステージの巨大スクリーンに、ドラムロールと共に結果が表示された。
1位:1-A『ジャンク・レボリューション』
売上:金貨300枚(歴代最高記録)
投票:1000000点(国王票含む)
「うおおおおおおお!!」
「勝ったぁぁぁぁ!!」
クラスメイトたちが抱き合って歓喜する。
俺たち『問題児クラス』が、エリート集団である生徒会や貴族クラスを、ゴミと駄菓子でねじ伏せたのだ。
これぞ下剋上。これぞジャイアントキリング。
「すごい……! すごいですわリアン様! 金貨300枚ですって!?」
リーザが目を回している。
金貨300枚。日本円にして約3000万円。
たった一日、しかも元手ゼロで叩き出した数字としては破格だ。
「これで部室を豪華にしましょう!」
「新しい実験器具が買えるよぉ!」
「焼肉! 毎日焼肉だ!」
イグニス、キュララ、キャルルが夢を語る。
俺もまた、まんざらでもない顔で頷いた。
これだけの資金があれば、今後の活動(裏稼業)もやりやすくなる。
「……ふふっ。おめでとう、みんな」
そこへ、優雅な拍手と共にリベラ理事長がステージに上がってきた。
彼女の後ろには、黒服の職員たちが「何か」を抱えて控えている。
「素晴らしい成果ね。ゴミ捨て場というハンデを跳ね返し、国王陛下まで唸らせるなんて。……私、感動したわ」
リベラがハンカチで目元(嘘泣き)を拭う。
「さあ、これが優勝賞金の目録よ。そして、『なんでも願いが叶う権利』の証書」
彼女から手渡されたのは、金色のプレートと、巻物だった。
会場中が拍手喝采に包まれる。
「ありがとうございます、理事長」
俺が受け取ろうとした、その瞬間。
パチンッ。
リベラが指を鳴らした。
すると、黒服たちが巨大なホワイトボードを運び込んできた。
「……え?」
そこには、赤い文字でびっしりと数字が書き込まれていた。
【1-A 経費精算書】
テナント料(特別区画・森林カフェ風): 売上の30%
環境改変税(ルナによる無許可緑化): 金貨50枚
重機レンタル代(イグニス・キャルル等の人件費換算): 金貨50枚
騒音・悪臭対策費(飯テロ規制法違反): 金貨30枚
特別法人税(学園祭特別税): 売上の20%
リベラ・コンサルティング料: プライスレス(今回はサービス♡)
<u>請求合計:金貨 299枚 と 銀貨 90枚</u>
「…………は?」
クラス全員が凍りついた。
計算してみる。
売上300枚 - 請求299.9枚 = 残り銀貨10枚(約1000円)。
「あ、あの……理事長? これは……?」
「あら、当然でしょう?」
リベラはニコリと微笑み、電卓を叩いた。
ターンッ!
「商売をするにはコストがかかるの。場所代、光熱費、税金……社会に出れば当たり前のことよ?」
「いや、環境改変税って何だよ! 騒音対策費って!」
「あなたたちが起こした『匂いのテロ』で、近隣(生徒会)から苦情が殺到したのよ? その揉み消し料も含んでいるわ」
ぐうの音も出ない。
というか、最初から狙っていたな? 俺たちが稼いだ金を、合法的に回収するスキームを。
「というわけで……回収!」
黒服たちが、売上の入った金庫を回収していく。
「あぁぁぁぁ! 私の焼肉がぁぁぁ!」
「実験器具がぁぁぁ!」
阿鼻叫喚の1-A。
手元に残ったのは、銀貨数枚。……うまい棒が数本買える程度だ。
「……くっ。さすがは『金の亡者』」
「褒め言葉として受け取っておくわ、リアン君」
リベラは満足げに金庫を撫でた。
「でも、約束は守るわよ? ……ほら、まだ『願いが叶う権利』が残っているでしょう?」
そうだ。
金は奪われたが、優勝特典である『権利』は残っている。
「さあ、何を願う? 退学の取り消し? それとも……」
リベラが試すような目で俺を見る。
ここで「金を返せ」と言っても、「それは別問題」とあしらわれるのがオチだ。
「権力」や「名誉」を願っても、維持費がかかるとか言ってまた搾取されるだろう。
俺はクラスメイトたちの顔を見た。
イグニス、リーザ、クラウス、キャルル、リリス、キュララ、ルナ。
みんな、精一杯働いて、腹を空かせている。
金なんてなくても、こいつらがいれば何とかなる。
俺はニヤリと笑い、リベラに指を突きつけた。
「……願いは一つだ」
会場が静まり返る。
「今夜の打ち上げ……『最高級のフルコース』を、人数分用意しろ!」
「……え?」
リベラが目を丸くする。
クラスメイトたちも顔を見合わせる。
「金なんかじゃない。地位でもない。……俺たちは腹が減ってるんだ」
俺は腹をさすった。
「働いた後の飯ほど美味いもんはない。……そうだろ、みんな?」
一瞬の沈黙の後。
「……賛成ですわ!!」
真っ先に声を上げたのは、やはりリーザだった。
「タダ飯! 最高級! 響きだけでご飯三杯いけますわ!」
「おう! 肉だ! 肉食わせろ!」
「スイーツもね!」
全員が拳を突き上げる。
リベラは呆気にとられた顔をしたが、やがて「ふふっ」と吹き出した。
「……本当に、欲のない(ある意味強欲な)子たちね」
彼女はパチンと指を鳴らした。
「いいわ。その願い、叶えてあげる。……ゴルド商会の総力を挙げて、最高の宴を用意しなさい!」
「「「イエッサー!!」」」
◇
数時間後。
1-Aの教室は、高級ホテル顔負けのパーティー会場に変貌していた。
「うっひょー! 寿司だ! 天ぷらだ!」
「ローストビーフの山ですわぁぁぁ!」
テーブルには、リベラが手配した世界中の珍味が所狭しと並んでいる。
もちろん、全部タダ(学校持ち)だ。
「カンパーイ!!」
ジュースとシャンパン(ノンアルコール)で乾杯し、宴が始まった。
「んん〜っ! 幸せぇ〜!」
「働いた後の飯は格別だぜ!」
俺も皿に山盛りの料理を取り、口に運んだ。
……美味い。
自分で作る料理もいいが、人に作ってもらい、仲間と食べる飯はまた格別だ。
「……ふふ。結局、プラマイゼロか」
俺はグラスを傾けながら呟いた。
金貨300枚は消えたが、この笑顔と満腹感はプライスレスだ。
「リアン様! このフォアグラ丼、絶品ですわよ!」
「おいリアン! 次の『裏稼業』は何をするんだ?」
「また面白いこと考えようよ!」
仲間たちが俺を囲む。
『元三ツ星シェフ』にして『最強の少年』。
俺の学園生活は、まだ始まったばかりだ。
金はない。
地位もない。
だが、最強の仲間と、美味い飯がある。
「……ああ。次はもっとデカいことをやってやろうぜ」
俺はニヤリと笑い、最後のエビフライを口に放り込んだ。
ルミナス少年探偵団――またの名を『美食の冒険者たち』。
彼らの胃袋と野望が満たされる日は、まだまだ遠い。




