EP 6
祭りの開幕、閑古鳥とライバル
ドォォォォンッ!!
学園の中央広場から、開催を告げる祝砲が打ち上がった。
『ルミナス学園祭』、スタートだ。
「いらっしゃいませー! 焼きそばだよー!」
「メイド喫茶はこちらですわー!」
遠くから、生徒たちの活気ある呼び込みの声と、賑やかな音楽が聞こえてくる。
学園全体が熱気に包まれ、外部から押し寄せた客たちでメインストリートは芋洗い状態だ。
……そう、メインストリートは。
「…………」
「…………」
俺たち『ジャンク・レボリューション』の店先には、静寂だけが広がっていた。
通り過ぎる客はゼロ。
聞こえるのは、風で揺れる葉っぱの音と、鳥のさえずりだけ。
「……暇だな」
執事服でビシッと決めたクラウスが、優雅にトレイを持ったまま呟いた。
その完璧な立ち姿は絵になるが、誰も見ていないので完全に無駄だ。
「ねぇリアン。私、準備運動しすぎて足がつりそうなんだけど」
バニースーツのキャルルが、誰もいない客席の間を高速反復横跳びしながらボヤく。
「場所が悪すぎるわ! ゴミ捨て場まで足を運ぶ物好きなんていませんことよ!」
リリスがスマホでSNSをチェックしながら叫ぶ。
予想はしていたが、やはり「第2焼却炉横」という立地は致命的だった。
人の流れから完全に隔離された陸の孤島。どんなに店がお洒落でも、存在を知られなければ意味がない。
◇
一方その頃、メインストリートの一等地。
そこには、学園祭の覇者と目される『生徒会』の巨大テントがあった。
「さあさあ! 並んでください!」
「最後尾はこちらです!」
黒山の人だかり。行列は校舎の裏まで伸びている。
彼らの目玉商品は――
【A5ランク魔牛のステーキ重 〜金箔を添えて〜】
価格:金貨1枚(約10万円)
「高い! でも美味そう!」
「さすがは生徒会、最高級の肉だ!」
生徒会長のキザな男が、鉄板の上で高級肉を焼きながら、優越感に浸っていた。
「ふふふ。料理とは『素材』と『ブランド』だ。予算ゼロのリアン君たちには悪いが、勝負は見えているね」
飛ぶように売れるステーキ重。
売上カウンターは、開始1時間ですでに天井知らずの数字を叩き出していた。
◇
「……というわけで、生徒会の一人勝ち状態ですわ」
偵察に行っていたキュララが、ドローン映像を見せながら報告に戻ってきた。
「くそっ! 金の力で殴りやがって!」
「向こうはステーキの匂いで客を釣ってるぜ。こっちは……森の匂いしかしないな」
イグニスが悔しそうに中華鍋を叩く。
さらに、悪いことは重なるもので。
「はふっ、はふっ! ……んん〜っ! 美味しゅうございます!」
「おい、リーザ」
俺が振り返ると、看板娘として店先に座らせていたリーザが、すでに『3杯目』のラーメンを完食しようとしていた。
「な、なんですの? これは『品質チェック』ですわ!」
「チェックしすぎだ。お前、売る前に在庫を食い尽くす気か?」
「だってぇ……客が来ないんですもの! 麺が伸びる前に処分しないと食材への冒涜ですわ!」
リーザが4杯目に手を伸ばそうとする。
まずい。このままでは、売上ゼロのまま食材が消滅し、ただの「リーザの食べ放題イベント」で終わってしまう。
「……ふっ」
だが、俺は焦るどころか、ニヤリと笑った。
「リアン? 笑ってる場合か?」
「いや……想定内だ。客が来ないなら、呼べばいい」
俺は厨房のイグニスと、ホールのキャルルに目配せをした。
「イグニス、火力を上げろ。スープを沸騰させるんだ」
「あぁ? 煮詰まっちまうぞ?」
「構わん。そしてキャルル、お前の『脚』で風を起こせ」
「えっ?」
俺は鍋の蓋を開け放った。
グツグツと煮えたぎる黄金スープ。そこへ、追加の『コーラ黒酢ソース』と『焦がしニンニク油(マー油)』を投入する。
ジュワァァァァァァッ!!!
爆発的な蒸気と共に、強烈な香りが立ち昇る。
魚介の旨味、豚骨のコク、ニンニクのパンチ、そして駄菓子ソースの甘酸っぱい香り。
それらが混然一体となった『暴力的な飯テロ臭』だ。
「うわっ、強烈!」
「服に匂いがつきそう!」
「キャルル、扇げ! この匂いを、風に乗せてメインストリートまで届けるんだ!」
俺の指示に、キャルルがニカっと笑った。
「了解! ……『バニー・トルネード』!!」
キャルルがその場で超高速回転を始める。
彼女の強靭な脚力が生み出す竜巻が、巨大な送風機となって、厨房の排気を吸い上げ――
ゴオオオオオオオッ!!
一筋の『香りの砲弾』となって、森を抜け、校舎を超え、メインストリートへと発射された。
「行け! 嗅覚への絨毯爆撃だ!」
俺は叫んだ。
さあ、気取ったステーキを食ってる連中に教えてやろう。
人間の本能が本当に求めているのは、高級な肉の焼ける匂いか?
いや、違う。
深夜のコンビニ、祭りの屋台、部活帰りのラーメン屋……あの抗えない『茶色の誘惑』だとな!




