EP 5
開店準備、執事とバニーと看板娘
「味は決まった。……次は『見た目』だ」
学園祭当日、早朝。
俺たちは再び、校舎裏の第2焼却炉前に集合していた。
場所は相変わらず最悪だ。錆びついた焼却炉、積み上げられた粗大ゴミ、そして微かに漂う生ゴミの臭い。
どんなに美味いラーメンを作っても、こんな場所で食べたいと思う客はいない。
「ルナ。お前の出番だ」
「はぁい。お任せくださいぃ」
ルナが一歩前に出る。彼女は地面の雑草に優しく手を触れた。
「ねぇ、みんな。……ちょっとだけ『おめかし』してみない?」
ザワワワワッ……!
その瞬間、景色が一変した。
ただの雑草が爆発的な勢いで成長し、蔦となって焼却炉を覆い隠す。
無骨な鉄骨には美しい薔薇が咲き乱れ、ゴミの山は鮮やかな緑の苔とシダ植物によって、まるで古代遺跡のような『オブジェ』へと変貌した。
「臭い消しに、芳香花も咲かせておきますねぇ」
フワッ……。
生ゴミの臭いが消え、代わりに柑橘系の爽やかな香りが漂い始める。
「す、すげぇ……!」
「ゴミ捨て場が……『森の隠れ家カフェ』になったぞ!?」
イグニスたちが目を丸くする。
ルナの植物魔法は、環境そのものを書き換えるレベルだ。これなら「汚い」ではなく「神秘的」という付加価値になる。
「よし。これでステージは整った。……次はキャストの衣装だ」
俺はマジックポーチから、リベラ理事長が(面白がって)提供してくれた衣装を取り出した。
「まずはクラウス。お前はこれだ」
「……なんだこれは」
渡されたのは、燕尾服。いわゆる執事服だ。
「お前は育ちがいいからな。その気品を活かして、奥様方や女子生徒を沼に落とせ。『接客のプロ』になりきれ」
「……騎士たるもの、民への奉仕は義務だが……なぜ執事なんだ」
クラウスはブツブツ言いながらも着替えた。
……似合う。
金髪碧眼、長身痩躯。完璧なイケメン執事の爆誕だ。これは間違いなく客を呼べる。
「「キャーッ! クラウス様ぁ!」」
すでに通りがかりの女子生徒(早朝準備組)が数人、目をハートにして倒れていた。効果は抜群だ。
「次はキャルル。お前はホール担当だ。戦場のような忙しさになるからな、機動力を重視した」
「機動力? 任せてよ! で、どんな服?」
俺は無言で、ハイレグのバニースーツ(網タイツ付き)を差し出した。
「……は?」
「ウサギ族だからバニーガール。理にかなってるだろ?」
「かなってないよ!? なんでこんな恥ずかしい格好しなきゃいけないの!?」
「空気抵抗を極限まで減らしたデザインだ。これでマッハ2も夢じゃないぞ?」
「ほんと!? ……じゃあ着る!」
チョロい。
キャルルが着替えると、健康的な太ももと引き締まったプロポーションが露わになった。
これは男子生徒への殺傷能力が高すぎる。
「キュララとリリスは、店の宣伝と呼び込みだ。その可愛さを武器に、T-Tubeで拡散しまくれ」
「まかせて! 映えスポットとして紹介するね!」
「100連ガチャの借りは返しますわよ!」
「イグニスは俺と一緒に厨房だ。その筋肉と火力で、ひたすら麺を茹でろ」
「おう! 任せろ!」
そして最後。
俺はエプロンをつけただけのリーザを見た。
「リーザ、お前は……」
「私は!?」
「店の前に座って、ひたすらラーメンを食い続けろ」
「えっ」
「お前の食いっぷりは、どんな看板よりも客を惹きつける。『サクラ』兼『看板娘』だ。……ただし、売り物の分まで食うなよ?」
「夢のような仕事ですわ!!」
リーザがガッツポーズをする。
準備は整った。
鬱蒼とした森の中に佇む、幻想的な屋台。
執事にバニーに、美少女インフルエンサー。
そして漂う、暴力的なまでに美味そうな香り。
俺は入り口に、ダンボールに筆で殴り書きした看板を掲げた。
【三ツ星屋台 ジャンク・レボリューション】
〜その味、悪魔的につき〜
「……行くぞ、野郎共」
俺は中華鍋とお玉を構え、ニヤリと笑った。
「学園祭の常識をひっくり返す。……『開店』だ」
遠くで、学園祭の開始を告げる花火が打ち上がった。
俺たちの、長くて熱い一日が始まった。




