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EP 7

プラン2発動、エルフの災害

「……ねえ、イグニスさん。リアンさん、帰ってきませんねぇ」

魔の森、上流の川岸。

A班の陣地を見下ろせる高台で、ルナがのんびりと呟いた。

その手には、道中で摘んだ野花が握られている。

「ケッ。あの野郎、ヘマして捕まりやがったな」

イグニスが斧で地面を突きながら鼻を鳴らす。

だが、その表情に焦りはない。

彼らは知っているのだ。リアンが捕まった場合――それは『交渉(プラン1)』が失敗し、最も過激な『殲滅(プラン2)』へ移行する合図であることを。

「仕方ありませんねぇ。……それじゃあ、少し『お掃除』しましょうか」

ルナは川のほとりにしゃがみ込むと、水面から顔を出している岩や、岸辺の柳の木に優しく語りかけた。

「もしもし、森の皆さん。……ちょっと、水の流れを変えてみたい気分じゃないですか?」

ざわっ……。

風もないのに、木々が大きく揺れる。

川底の水草が蠢き、上流の古木がミシミシと音を立てて傾く。

「あそこの窪地(クラウスたちの陣地)に、お水をたくさん届けてあげたいの。……お願いできるかしら?」

バキバキバキッ!

ルナの『植物対話』に応じ、上流で倒木が折り重なり、一時的に堰き止められていた水流が一気に決壊した。

あるいは、ビーバーたちが協力してダムを崩したのかもしれない。

「……うおっ。相変わらず、お前のそれは魔法よりタチが悪いな」

イグニスが半歩下がる。

目の前の川が、怒れる龍のように膨れ上がり、濁流となって下流へ奔り出したからだ。

「ふふっ。私はただ、自然にお願いしただけですよぉ? ルール違反じゃありません」

ルナは無邪気に微笑んだ。

そう、これは魔法攻撃ではない。『自然災害』だ。

誰が責められようか。

   ◇

一方、A班の陣地。

クラウスたちは、久しぶりの静寂(リアンの爆撃がない)の中で、泥のような眠りを貪っていた。

「……ん、んん……?」

見張りに立っていた生徒の一人が、異変に気づいた。

地面が微かに振動している。

そして、遠くから聞こえる轟音。

ゴゴゴゴゴゴゴ……。

「なんだ? 地震か……?」

彼が森の奥へ目を凝らした、その時だった。

ザパァァァァァンッ!!

木々の隙間から、茶色い水の壁が押し寄せてきた。

「なっ!? み、水だぁぁぁ!!」

「て、鉄砲水だ! 起きろぉぉぉ!」

見張りの叫び声で、クラウスたちが飛び起きる。

だが、時すでに遅し。

「きゃああああ! 冷たっ!?」

「テントが! テントが流されるぅぅ!」

A班の陣地は、風除けのために窪地に設営されていた。それが仇となった。

濁流は低い方へと流れ込み、瞬く間にキャンプ地を膝下までの泥水で満たしていく。

「くそっ! なぜこんな時に雨も降っていないのに!」

クラウスが剣を杖にして踏ん張る。

キャルルが木の上に避難し、リリスとキュララが悲鳴を上げて逃げ惑う。

「高い所へ逃げろ! 物資を守れ!」

阿鼻叫喚の地獄絵図。

だが、これはまだ序章に過ぎない。

「ヒャッハー!! 水浴びの後は、泥パックの時間だぜぇぇ!!」

高台から、聞き覚えのある凶悪な笑い声が降ってきた。

「イ、イグニス!?」

見上げれば、崖の上に立つイグニスと、数名のモブ生徒たち(B班)。

彼らは弓を構え――いや、手に持っているのは『泥団子』や『ペイント弾』だ。

「撃てぇぇぇ!!」

ババババババッ!!

雨あられと降り注ぐ弾幕。

足場を奪われ、動きの鈍ったクラウスたちにとって、それは回避不能の爆撃だった。

「ぐわっ!?」

「目が! 目に泥が!」

「服が汚れるぅぅ!」

「くっ……! 反撃だ! 弓隊、構え……!」

クラウスが指示を出そうとするが、足元の泥に滑って体勢が整わない。

一方的な蹂躙。

自然災害と波状攻撃のコンボ。

その混乱のドサクサに紛れて――

「……今だ」

牢屋の中のリアンが、見張りのバロン令息に目配せをした。

「……はい」

バロン令息は、周囲がパニックになっているのを確認すると、震える手で鍵束を取り出し、わざとらしく足元に落とした。

チャリ……。

そして、彼は叫んだ。

「うわぁぁ! 転んだぁ! 鍵を落としちゃったぁぁ!」

なんて棒読みだ。だが、この状況では誰も気に止めない。

リアンは泥水の中に手を突っ込み、鍵を拾い上げると、素早く手錠を解錠した。

カチャリ。

拘束から解き放たれた両腕を回し、リアンはニヤリと笑った。

「……取引成立だ。感謝するぜ、未来の富豪くん」

リアンは牢屋の扉を蹴破り、混乱の渦中へと躍り出た。

目指すは一つ。

敵陣の中央に掲げられた、勝利の証――『軍旗』だ。

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