EP 10
第二十話 勝利の味、全員で食べるカツ丼
警察署のすぐ裏手にある定食屋『角屋』。
昭和の雰囲気を色濃く残すその店は今、ルミナス少年探偵団によって貸し切り状態となっていた。
「へい! 特上カツ丼、八丁お待ち!!」
頑固そうな親父さんが、湯気を立てる丼をお盆に載せて運んでくる。
テーブルに並べられたのは、黄金色に輝く至高のどんぶりたち。
「うおおおおお!!」
「輝いてる……! これが勝利の輝き……!」
子供たちの目が、カツ丼に釘付けになる。
サクサクのカツ、とろとろの卵、そして甘辛い出汁の香り。
空腹という最高のスパイスも相まって、その破壊力はSランク級だ。
「……食え。俺の気が変わらないうちにな」
テーブルの端で、鮫島が力なく呟いた。
彼の手元には、すでに空っぽになった財布と、数枚の小銭だけが残されている。
「「「いただきまーす!!」」」
合掌と共に、一斉に箸が動いた。
ガツガツッ! ハフハフッ!
猛烈な勢いでカツ丼が胃袋に消えていく。
「んん〜っ!!」
まず声を上げたのは、やはりリーザだ。
「これですわ! この味ですわ! 揚げたてのカツに染み込んだお出汁のハーモニー! 犯人じゃなくても自白したくなりますわ!」
彼女は幸せそうに頬を膨らませ、米粒一つ残さずかきこんでいる。
「ガハハハ! うめぇ! 丼ごと食える勢いだぜ!」
イグニスは豪快にカツを二切れ同時に口に放り込み、丼を持ち上げて白飯を流し込む。
まさに野獣の食いっぷりだ。
「……ふむ」
一方、正統派エリートのクラウスは、初めて見る庶民の料理を興味深そうに観察していた。
「これが『カツ丼』か。フォークもナイフもない状態で、どうやって……」
彼は見よう見まねで箸を使い、カツを口に運んだ。
サクッ。
「……!」
クラウスの碧眼が見開かれる。
「……美味い。衣の油っぽさを卵が包み込み、ご飯が進む味付けになっている。これが庶民の知恵……侮れないな」
彼は「おかわり」と言い出しそうな勢いで箸を進めた。
「おじさーん! 人参サラダ追加で!」
「はいよ!」
キャルルはカツの合間にシャキシャキの野菜を挟み、栄養バランスを整えている。
さすがはアスリート(格闘家)だ。
「映える〜! #警察飯 #勝利のカツ丼 #おじさんありがとう」
「パパにも教えてあげよっと。『今、警察の人にご飯買ってもらってる』って」
キュララとリリスは、カツ丼と、背景で死んだ目をしている鮫島をフレームに入れて撮影している。
やめろ、誤解を招くキャプションをつけるな。
そして、俺――リアンもまた、カツ丼に向き合っていた。
「……ふむ」
カツを一口かじる。
「……揚げ油の鮮度は少し落ちているな。肉も国産のブランド豚じゃない。出汁も化学調味料の味がする」
俺は元シェフとしての分析をしつつ、ニヤリと笑った。
「だが……それがいい。このチープでガツンとくる味こそが、警察の、男の料理って感じだ」
洗練されたフレンチにはない、労働の後の体に染み渡る塩分とカロリー。
俺は丼を持ち上げ、ガツガツとかきこんだ。
美味い。文句なしに美味い。
「ぷはぁーっ! ごちそうさまでした!」
数分後。
全員の丼が綺麗に空になった。
「……足りたか?」
鮫島が空のコップを揺らしながら尋ねる。
「おう! 最高だったぜおっちゃん!」
「満腹ですわ! これで明日も生きていけます!」
「ありがとうございまーす!」
子供たちの満面の笑顔。
それを見た鮫島は、ふっと口元を緩め――そして、伝票を握りしめたまま、静かに一筋の涙を流した。
「……今月のタバコ代が、消えた」
「ドンマイです、隊長」
俺は鮫島の肩をポンと叩いた。
「その代わり、これからも贔屓にしてやりますよ。『ルミナス少年探偵団』は、安くて優秀ですからね」
「……二度と御免だ、クソガキ共」
鮫島は悪態をつきながらも、その表情はどこか晴れやかだった。
警察と探偵団。
奇妙な共犯関係、あるいは腐れ縁がここに結ばれた。
「さあ、帰るぞ! リベラ大家さんに、カツ丼の自慢話をしてやるんだ!」
「うわぁ、またお金取られそう……」
店を出ると、外はもう夜だった。
港の風が心地よい。
俺たちは満腹のお腹をさすりながら、賑やかに帰路についた。
次なる事件(食材)の予感を漂わせながら。
最強の少年探偵団の冒険は、まだ始まったばかりだ。
(第二章 完)




