EP 9
事件解決、手柄は全てカツ丼へ
倉庫内には、黒焦げや気絶した構成員たちが折り重なっていた。
完全制圧。かかった時間はわずか数分だ。
「……ひ、ひぃぃぃ! 化け物だ! 逃げるんだ!」
奇跡的に意識が残っていたボスの男(田中ゴンタ)が、恐怖に顔を歪ませながら裏口へと這っていく。
ネットで晒され、部下は全滅し、もはや戦意など欠片もない。
「待てよ、おっさん」
その行く手を、気怠げな影が塞いだ。
T-SWAT隊長、鮫島だ。
「あ、あんたは……警察!?」
「助けてくれ! 逮捕してくれ! ここにいたら殺されるぅぅ!」
ボスが鮫島の足にすがりつく。
警察に捕まることを「助け」と呼ぶ犯罪者を見るのは、鮫島も初めてだった。
ガチャリ。
鮫島は慣れた手つきでボスの手首に手錠をかけた。
「……連続窃盗容疑で逮捕だ。感謝しろよ、これでお前らの命は保証された」
「ありがとうございますぅぅ!」
鮫島は連行されるボスを見送り、惨状と化した倉庫内を見渡した。
そして、勝ち誇る俺たちを見て、深く深いため息をついた。
「……ったく。俺の部下(SWAT)より優秀じゃねぇか、クソガキ共」
「お褒めに預かり光栄ですよ、隊長殿」
俺が肩をすくめると、鮫島は苦笑いしながらタバコ(火はついていない)をくわえ直した。
「約束通り、懸賞金の手続きはしてやる。金貨10枚……お前らの口座に振り込まれるはずだ」
「やったー! 焼肉だー!」
「新しいゲーム買うぞ!」
イグニスとキャルルがハイタッチをする。
リーザも「これでまたパンの耳生活から脱却ですわ!」と目を輝かせている。
だが――そんな甘い空気を切り裂くように、あの音が響いた。
カツン、カツン、カツン……。
硬質なヒールの音。
戦場には似つかわしくない、優雅で、かつ絶対的な支配者の足音。
「――あらあら。随分と派手にやったものね」
入り口の爆煙を割って現れたのは、書類と電卓を手にした美女。
リベラ・ゴルド理事長だ。
「り、理事長……?」
「どうしてここに?」
リベラはニコリと微笑むと、倒れている犯人たちや、破壊された倉庫の壁を値踏みするように見回した。
「忘れたのかしら? 今回の件、警察上層部やドルマン商会を黙らせるために、私が動いたことを」
彼女は眼鏡をクイと押し上げ、電卓を高速で叩き始めた。
パチパチパチパチッ! ターン!
「私の弁護士費用ってタダじゃ無くってよ? 坊や達」
リベラは弾き出された数字を、俺たちの前に突きつけた。
「今回の報酬、金貨10枚。そこから……」
顧問弁護士費用:30%
ゴルド商会仲介手数料:20%
現場復旧費(破壊したドア等):20%
探偵団運営費(場所代):20%
税金:10%
「……以上を差し引かせていただきますね♡」
「「「えっ」」」
子供たちの動きが止まる。
30+20+20+20+10=100%。
「……あの、おば……いえ、理事長? 手元に残るのは?」
「計算上は『ゼロ』ね。あら、感謝して欲しいわ。本来なら赤字のところを、私が勉強してあげたんだから」
リベラは悪魔のような笑顔で、鮫島から「懸賞金受領書」をひったくった。
「そ、そんなぁぁぁぁ!!」
「俺様の焼肉がぁぁ!」
「私の老後資金がぁぁ!」
イグニス、キャルル、リーザがその場に崩れ落ちる。
働けど働けど、我が暮らし楽にならず。
世知辛い。これが大人の、いや、リベラという女のやり方か。
「……えげつねぇな、あの女」
一部始終を見ていた鮫島が、同情の眼差しを俺たちに向けた。
犯罪組織を壊滅させ、大人顔負けの働きをした小学生たちが、報酬を全額搾取されて泣いている。
あまりに不憫だ。
鮫島は頭をガシガシと掻くと、財布の中身を確認し、覚悟を決めたように言った。
「……おい、泣くな」
「うぅ……刑事さん……」
「腹は、減ってるんだろ?」
その言葉に、全員がパッと顔を上げた。
お腹の虫が、タイミングよく『グゥ〜』と大合唱する。
「ついて来い。……今回は俺の奢りだ」
「えっ!?」
「ただし! 高いモンは駄目だぞ。……『カツ丼』で我慢しろ」
その単語を聞いた瞬間、リーザが復活した。
「カツ丼……! あの、黄金に輝く警察の味!」
「いいのか!? 刑事のおっちゃん!」
「ああ。……事件解決の祝いだ。ほら、行くぞ」
鮫島が背中を向けて歩き出す。
その背中は、少しだけ哀愁漂う、しかし頼もしい大人の背中だった。
「やったぁぁぁ! カツ丼だぁぁ!」
「急げ急げ! おっちゃんの気が変わらないうちに!」
子供たちが歓声を上げて駆け出す。
俺は最後に、リベラの方を振り返った。
彼女は「ふふっ、良かったわね」と口パクで告げ、颯爽と帰っていった。
……まあいい。今回は鮫島に免じて許してやろう。
「リアン! 早く来ないと全部食っちまうぞ!」
「待てイグニス! 俺の分も残せ!」
俺もまた、夕暮れの港を走った。
金貨は消えたが、タダ飯にありつけるなら、今日のところは勝利と言っていいだろう。




