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EP 5

デジタルタトゥー、天使の特定班

第4湾岸地区、廃止された缶詰工場。

錆びついたシャッターの隙間から、数機の小型ドローンが音もなく侵入した。

それは天使族のキュララが操る、最新鋭の魔導カメラ搭載機だ。

工場から少し離れたコンテナの陰で、俺たちはタブレットの画面を覗き込んでいた。

「映像、来たよっ! 画質良好、4Kでお届けしちゃうね!」

キュララがウィンクすると、画面に工場内部の様子が映し出された。

薄暗い倉庫の中、ガラの悪い男たちが5人。

中央のテーブルでカップ麺を啜りながら、盗んできた魔導具の山を分け合っている。

「へへっ、今回も大漁だぜ。警察の連中、まさかこんな所に隠れてるとは思うまい」

「ボス、この『魔導ドライヤー』高く売れそうっすね」

呑気な会話が聞こえてくる。

植物情報の通りだ。完全に油断しきっている。

「さて、と。……じゃあ、始めよっか!」

キュララがスマホをタップし、『配信開始』ボタンを押した。

『【緊急生配信】泥棒さんのアジトに突撃! みんなで特定してね☆』

という物騒なタイトルと共に、T-Tubeでのライブ配信がスタートした。

「はろーへヴん! 天使のキュララだよっ! 今日は社会科見学に来てまーす!」

画面の向こうには、すでに待機していた数千人のリスナー(迷える子羊たち)がいる。

開始数秒でコメント欄が滝のように流れ始めた。

『待ってました!』

『今日の生贄は誰?』

『タイトル草』

『後ろに映ってるの犯罪者?』

「そーなの! このおじさんたち、港の倉庫から荷物を盗んだ『赤錆団』のみなさーん! 今、盗品で宴会してまーす!」

キュララがドローンを操作し、男たちの顔をドアップで映し出す。

「さあみんな! 『特定班』の出番だよ! このおじさんたちに見覚えある人、情報求ム!」

その言葉は、現代魔法よりも恐ろしい『ネットの集合知』への召喚呪文だった。

   ◇

工場内。

カップ麺を食べていたボスが、ふと違和感を覚えて顔を上げた。

「ん? ……なんだ、あの羽虫みたいなのは」

空中に浮遊するドローンに気づく。

次の瞬間、工場の外に設置されたスピーカー(キュララが事前に配置)から、ポップなBGMと共にキュララの声が響き渡った。

『はーい、右端で醤油ラーメン食べてるお兄さーん! 笑顔くださーい!』

「な、なんだぁ!?」

「どこから声が!?」

男たちがパニックになって立ち上がる。

その間にも、キュララのタブレットにはリスナーからの『特定情報』が次々と着弾していた。

『あ、右端のヤツ知ってる。隣町の金物屋の息子だ』

『借金して逃げたゴンタじゃんw』

『真ん中のハゲ、〇〇建設の元社員だろ。横領でクビになったやつ』

『住所特定した。実家の電話番号は0X0-XXXX...』

情報は秒速で拡散され、彼らの過去、本名、住所、そして恥ずかしい秘密までもが丸裸にされていく。

「おっ、特定完了! さすがみんな仕事が早いっ!」

キュララはマイクに向かって、明るく残酷な宣告を行った。

『えー、それでは発表しまーす! リーダーの赤シャツのお兄さん! 本名は田中ゴンタさん、32歳! 実家は第2商店街のお豆腐屋さんですねー?』

「は、はぁ!? なんで俺の名前を……!」

ボスの顔色が土気色になる。

『あ、お母さんから電話来てるみたいですよ? ほら、スマホ鳴ってまーす☆』

その言葉と同時に、ボスのポケットに入っていたスマホが震え出した。

着信画面には『母ちゃん』の文字。

「ひぃっ!?」

ボスが震える手で通話ボタンを押す。スピーカーからは、母親の怒号が漏れ聞こえてきた。

『ゴンタァァァ! あんた今、ネットで泥棒って晒されてるよ!? 何やってんだい情けない! 近所歩けないじゃないか!』

「か、母ちゃん、違うんだ! これは誤解で……!」

『うるさい! 今すぐ自首しておいで! さもないと勘当だよ!』

ブツッ、ツーツー……。

絶望するボス。

他の手下たちのスマホも次々と鳴り響く。

恋人からの『別れよう』というメッセージ、バイト先からの『クビ宣告』、借金取りからの『居場所分かったぞ』という脅迫。

物理的な攻撃は一切していない。

だが、彼らはすでに社会的に『死んで』いた。

「う、うわぁぁぁぁ! なんなんだよコレェェェ!」

「俺の顔が! 世界中に晒されてるぅぅぅ!」

「消してくれ! アーカイブに残さないでくれぇぇ!」

男たちが頭を抱えて泣き崩れる。

これぞ『デジタルタトゥー』。一度ネットに刻まれた汚名は、一生消えることはない。

「ふふっ。ざまぁみろですねぇ」

コンテナの陰で、ルナがおっとりと笑う。

その横で、イグニスとクラウスは若干引いていた。

「……えげつねぇ。ブレスで焼かれるよりタチが悪いぞ」

「ネット社会の闇を見た気がする……」

俺は二人の肩を叩いた。

「感傷に浸るのはまだ早いぞ。……社会的制裁は終わった。次は『物理的制裁』の時間だ」

俺は立ち上がり、工場の入り口を見据えた。

「泣きっ面に蜂……いや、泣きっ面にドラゴンと騎士をお見舞いしてやれ」

「おうよ! 待ってました!」

「……仕方ない。彼らに『更生(物理)』の機会を与えよう」

イグニスが拳を鳴らし、クラウスが剣の柄に手をかける。

さあ、仕上げの時間だ。

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