EP 4
植物は見ていた、エルフの諜報網
「……げふっ。あー、美味しかった」
警察署の裏口から出てきたリーザは、満足げに腹をさすりながら、豪快なゲップを漏らした。
その顔は、高級エステ帰りのマダムのようにツヤツヤと輝いている。
「おいリーザ。カツ丼の感想はいいから、成果を見せろ」
茂みから出てきた俺が急かすと、リーザはニカッと笑い、懐から一枚の紙を取り出した。
「ふふふ……これぞ、食後のデザート! 金貨10枚のチケットですわ!」
彼女が広げたのは、『連続倉庫荒らしグループ・赤錆団』の手配書だった。
被害総額はそこそこデカいが、手口がコソ泥レベルのため、警察が本腰を入れられていない連中だ。
「よし、でかした。……みんな、移動だ!」
◇
俺たちはリベラマンションの2階、俺たちの部屋のリビングに集結した。
テーブルの上には手配書が広げられている。
「赤錆団……。港の倉庫から魔導具や資材を盗み出し、闇ルートで流している窃盗団か」
俺が情報を整理する。
「でも兄貴、こいつらのアジトなんてどうやって探すんだ? 港には倉庫が何百ってあるぜ?」
イグニスが腕組みをして唸る。
警察ですら特定できていないのだ。しらみつぶしに探せば、俺たちが学校に行っている間に逃げられるだろう。
「ふふん。そこで、私の出番ですね?」
おっとりとした声と共に、エルフのルナが挙手をした。
彼女は手配書の写真(犯人の人相)をじっと見つめ、ニコリと微笑んだ。
「このおじさんたちの匂いと顔……覚えました。あとは『お友達』に聞くだけですぅ」
「お友達?」
「はい。この街には、誰よりも目ざとくて、口の軽い『目撃者』がたくさんいますから」
ルナは窓を開け、ベランダに出た。
そこには、リベラ理事長が趣味で育てているプランターのゼラニウムや、風に乗って飛んできた雑草が生えている。
ルナは植物たちの前にしゃがみ込むと、優しく語りかけた。
「こんにちは、葉っぱさんたち。……ねえ、ちょっといいかしら?」
ざわっ……。
風もないのに、ゼラニウムの葉が揺れた気がした。
ルナの瞳が翠色に輝き、不可視の魔力波が放出される。
固有スキル【植物対話】。
世界樹の巫女である彼女は、植物の「声」を聞き、意思疎通ができる。
「うんうん……。あ、昨日の夜、港の方で『鉄と安いオイルの臭い』がするトラックが走ってた? ……ありがとう。そのトラック、どっちに行ったか分かる?」
ルナは楽しそうに植物と会話を続ける。
傍から見ればシュールな光景だが、その「情報網」の恐ろしさを俺は知っている。
「……なるほどぉ。街路樹のオークくんが『信号無視して東に曲がった』って。……あ、そっちの電柱の下のペンペン草ちゃんは、『4番街の廃工場の裏に入っていった』って見てたのね」
植物はどこにでもいる。
街路樹、雑草、民家の庭木、苔。
それらは全てルナの「スパイ」であり、根と根を通じた地下ネットワーク(グリーン・ウェブ)で情報は瞬時に共有される。
監視カメラの死角はあっても、植物の死角はない。
数分後。
ルナはパッと顔を上げ、リビングに戻ってきた。
「分かりましたぁ! 犯人さんたち、現在は『第4湾岸地区』の、潰れた缶詰工場の地下に隠れているそうです」
「……まじかよ」
イグニスとキャルルが戦慄する。
住所特定までわずか数分。Googleマップも真っ青の精度だ。
「しかも、『今、カップラーメンを食べてる』『ボスが水虫の薬を塗ってる』そうです」
「いらん情報まで筒抜けだな……」
俺は苦笑しつつ、ホワイトボードにアジトの場所を書き込んだ。
プライバシー? 犯罪者にそんなものはない。植物の前で悪事を働いたのが運の尽きだ。
「場所は割れた。……次は『確認』だ」
俺は天使族のキュララに視線を送った。
「キュララ。お前の出番だ」
「らじゃーっ! 天使の目は誤魔化せないよっ☆」
キュララがスマホを取り出し、アプリを起動する。
彼女の背中の翼が微かに光り、窓の外へ数機の小型ドローン(魔導カメラ付き)が飛び立っていった。
「特定班、始動! ……さあ、悪党さんの顔写真を世界中に晒しちゃおっか!」
現代(地球)の技術と、ファンタジーのチート。
この二つが合わさった時、逃げ場のある犯罪者など存在しない。
「行くぞ、ルミナス少年探偵団。……狩りの時間だ」




