第二章 ルナミス少年探偵団
放課後の密談、結成!「ルミナス少年探偵団」
「――さて。今月の『おやつ代』および『備品破損費』の請求についてですが」
放課後のシェアハウス。
リビングのソファに優雅に足を組んで座るリベラ理事長が、一枚の請求書をテーブルに叩きつけた。
「合計、金貨5枚(50万円相当)。……あなたたち、少し食べ過ぎと壊しすぎよ?」
冷徹な宣告に、ルミナス学園の怪物たちが縮み上がる。
「うぅ……。人参スティックの消費が激しかったかな……」
「俺様は壁をちょっと焦がしただけだぞ!」
「私はガチャで爆死しただけですわ!」
キャルル、イグニス、リリスが言い訳をするが、リベラの眼鏡の奥の瞳は笑っていない。
そして、部屋の隅で体育座りをしているリーザに至っては、すでに魂が抜けていた。
「お、お金……。私の虎の子の金貨100枚(慰謝料)は、将来のための定期預金に入れちゃいましたし……手元には500円しかありませんわ……」
「パンの耳を買うには十分だろうが、おやつには足りないな」
俺が冷静に突っ込むと、リーザは涙目で縋り付いてきた。
「リアン様ぁ! 何か美味しいものが食べたいですぅ! でもお金がないんですぅ!」
「……はぁ」
俺はため息をついた。
俺自身、料理の研究費や食材の調達で出費がかさむ。
リベラさんは大家として家賃(住居費)の面倒は見てくれるが、遊興費や贅沢費までは甘やかさない主義だ。
「甘えるんじゃありません。あなたたち、一応は能力持ちなんでしょ? 自分の小遣いくらい、自分で稼ぎなさい」
リベラはピシャリと言い放つと、優雅に紅茶を啜った。
「稼ぐって言ってもなぁ……。俺様たち、まだ10歳だぞ?」
「バイトなんてコンビニ(タロウマート)くらいしか……あ、でも私、試食コーナー出禁だった」
イグニスとリーザが頭を抱える。
確かに、この国で子供がまともに稼げる仕事は少ない。
だが――俺たちには『武力』と『特殊能力』がある。
俺はキッチンから冷えた麦茶を持ってくると、全員の前に置いた。
「……提案がある」
「提案?」
「普通のバイトが無理なら、俺たちにしかできない仕事をすればいい」
俺はニヤリと笑った。
「この太郎国、急速な発展の裏で、警察の手が回らない『小規模な事件』や『厄介なトラブル』が多発している」
「警察って……あのT-SWATの?」
「ああ。鮫島隊長も優秀だが、人手不足で猫の手も借りたい状況だ。……そこでだ」
俺はホワイトボード(リベラが持ち込んだ)に、キュキュッと文字を書いた。
『ルミナス少年探偵団』
「探偵……団?」
「表向きは子供のボランティア、あるいは迷子探しのお手伝いだ。だが、実態は――警察が動けないグレーな事件を、俺たちの能力で解決し、報奨金や懸賞金を分捕る」
俺の説明に、全員の目の色が変わった。
「懸賞金……! つまり、お肉が食べ放題!?」
「面白そう! 悪党をぶっ飛ばして金が貰えるのか!」
「私の安全靴で、社会の悪を蹴散らすのね!」
食いつきは上々だ。
俺はさらに役割分担を発表した。
「組織図はこうだ」
団長兼シェフ:リアン
(作戦立案、指揮、および戦闘後の『お疲れ様会』の料理担当)
突撃隊長:イグニス & クラウス
(正面突破、破壊工作、および正論による精神攻撃)
遊撃手:キャルル
(高速移動による撹乱、確保、壁破壊)
情報班:ルナ & キュララ
(植物網とネット網による、全方位監視システム)
政治顧問:リリス
(「勇者の娘」という肩書きとコネを使った、大人への圧力担当)
「完璧な布陣だ。これなら、Bランク級の犯罪組織くらいなら半日で壊滅できる」
「ちょっと待ってリアン。僕は?」
手を挙げたのは、正統派エリートのクラウスだ。
彼は眉をひそめている。
「僕は次期侯爵だぞ? そんな『自警団』のような真似、父上に知られたら……」
「クラウス。……この活動資金で、最高級の紅茶葉と、限定スイーツを買うつもりなんだが」
「…………やるよ。ノブレス・オブリージュだ。民の平和を守るのも貴族の務めだからな」
チョロい。こいつも染まってきたな。
「あのぉ、リアン様。私は? 私の役職は?」
リーザが期待に満ちた目で俺を見上げている。
俺は少し考えてから、ボードの端に書き足した。
マスコット(兼 囮):リーザ
(そのあふれ出る『無害感』と『貧乏オーラ』で敵を油断させ、情報を引き出す)
「お前は『お腹を空かせてうろつく』のが仕事だ」
「ええっ!? 私だけ扱いが雑ではありませんこと!?」
「成功報酬は、特上カツ丼だ」
「やりますわ!! 命がけでうろつきますわ!!」
リーザが即答した。
プライドよりも食欲。さすがだ。
「ふふっ。面白そうね」
それまで黙って聞いていたリベラが、口元を緩めた。
「いいでしょう。私の『法律事務所』の看板の下でやるなら、多少の無茶は目をつぶってあげる。……ただし」
彼女は眼鏡をクイと押し上げ、鋭い光を放った。
「稼ぎの2割は、場所代と顧問料として納めなさい。いいわね?」
「……商魂たくましいですね、大家さん」
「当然よ。さあ、商談成立ね」
リベラがパンと手を叩くと、シェアハウスの空気が一変した。
ただの子供の集まりではない。
利害と食欲で結ばれた、太郎国最強の非公認組織が誕生した瞬間だった。
「よし、善は急げだ。早速、明日から動くぞ」
俺は拳を突き上げた。
「目指すは警察署。……鮫島隊長から、金になる『ネタ』をふんだくるぞ!」
「「「おー!!」」」
子供たちの勇ましい声が響く。
その瞳は、正義感ではなく、まだ見ぬ『ご馳走』への執着でギラギラと輝いていた。




