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汚いのは嫌なので、魔王も呪いもまとめて除菌します。〜潔癖鑑定士の異世界お掃除無双〜  作者: 六井求真


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第40話:次は「脱ぎ散らかした魔法回路」を畳むぞ

「……一旦、この物理演算空間をまるごと“初期化フォーマット”してもいいですか?」


俺、アレンは、王宮の中庭に設置された隔離結界のなかで、絶望に身をよじっていた。

始祖の英雄の鎧に寄生していた“ダニの王”を、俺の高圧洗浄と超音波振動でデリートした直後。

本来なら、デバッグ作業を終え、俺の精神OSは「スリープモード」に入るはずだった。

だが、視界の端に映り込んだ“ノイズ”が、俺の生存本能に最大級の警告アラートを突きつけていた。


「ひっ……、……おえっ。……最悪だ。物理層ハードウェアを直したと思ったら、今度は論理層ソフトウェアがゴミ屋敷じゃないか」


俺は防護服のフィルターを最大出力に固定したまま、空中に指を震わせた。

英雄の鎧が白銀の輝きを取り戻したことに歓喜し、王宮魔導士たちが祝杯代わりの魔法を放った、その瞬間。

俺の【極清鑑定】が、空中に残留した“不純物”を視覚化してしまったのだ。


俺は網膜に鑑定ログを、情報の飽和速度で展開した。


【致命的なシステム脆弱性を検知:魔法回路の脱ぎ散らかし(レガシー・スパゲッティ)】

【対象:王宮上空の魔力残留領域】

【状態:未処理のデータパケット、および接続終了(Close)を忘れた魔法スレッドの散乱】

【汚染物質:炭化した魔力残渣、情報の拭き残し(タグの閉じ忘れ)、および低質なパッチ回路】

【警告:空間に“魔法という名のゴミ”が脱ぎ散らかされています。これは深刻なメモリリークを引き起こします】


「……うわ、汚い。汚すぎる。見てくれ、あの空中に浮遊する“整理されていない配線コード”を」


俺の目には、美しいはずの魔法の残光が、もはや「脱ぎ散らかした靴下」や「絡まった電源タップ」にしか見えていなかった。

魔導士たちが放った魔法は、出力こそ派手だが、その裏側は最悪だ。

魔力を使い終わった後、その回路を適切に「破棄デストロイ」していない。

空中に未処理の魔力糸がぶら下がり、それが酸化して、空間のテクスチャにべったりと「焦げ付いた脂汚れ」のように固着している。


それは単なる魔法の残り香ではない。

整理整頓を放棄された末に放置された、空間の“拭き残し”だ。

これらが累積すれば、世界の応答速度レスポンスは低下し、最終的には宇宙という名のシステム全体がクラッシュするだろう。


「……耐えられない。……誰だ、魔法を使った後に片付けないバカは! 俺のクリーンな網膜に、こんなスパゲッティコードの残骸を映させるなんて、仕様書に対する冒涜だ!」


俺は呼吸が浅くなるのを感じた。

情報のスループットが、この“魔法のゴミ屋敷”が放つノイズによって、完全にデッドロックされている。

このままでは、俺というメインプロセッサが、完璧主義という名のオーバーヒートで強制終了シャットダウンしてしまう。


「アレン様! いかがなさいましたか! 英雄の魂を救済し、空がこれほど神々しく輝いているというのにっ!」


隣で感動に震えていたティアナが、心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。

「ティアナ、触るな! 近寄るな! その鏡面仕上げの籠手に、一ミリの妥協も付着させるな!」

「えっ!? あ、アレン様……!?」


俺は叫び、なりふり構わず、その場で懐から“最高純度の論理洗浄剤(リファクタリング・触媒)”を取り出した。

「……リセットだ! 空中に脱ぎ散らかされた“不潔なコード”ごと、すべてのバグを畳んで物理削除ワイプしろ!」


俺は周囲の困惑を無視し、冷徹な声で広域コマンドの入力を開始した。

ここからは、この不潔な魔法文明を“根元からデフラグ”する時間だ。


「いいか、ティアナ。よく聞け。……魔法とは、本来は物理現象を最適化するための演算リソースだ」

俺は空中に、原子レベルで干渉する緻密な術式を描画レンダリングし始めた。

「システムにおける“魔法回路”とは、本来、必要な時だけ呼び出され、役割を終えたら瞬時にメモリを解放フリーすべき一時的なデータストリームだ。……信号の完全性インテグリティを保つためには、空間にノイズを残してはならない。だが、この世界の魔導士たちはどうだ? 魔法を撃つことだけにリソースを割き、その後に残る“情報の抜け殻”を掃除せずに放置し続けている! 空間にこびりついたこの粘着質な魔力のシミは、いわば世界という名のハードウェアに直接書き込まれた“物理的なバグ”なんだよ! これほど劣悪なコード管理ガバナンスで『魔法大国』を自称するなんて、論理的な自殺行為だ! 俺のクリーンな肺が、あの空から漂う『焦げ付いた計算の残りカス』に、致命的なアクセス拒否エラーを吐き続けているんだよ!」


「な、なるほど……! つまり、あの輝きの正体は、人類が宇宙に脱ぎ散らかした“怠慢という名のゴミ”なのですねっ!」


隣にいたティアナが、俺の言葉を独自の“騎士道フィルター”で熱狂的に変換した。

その瞳には、俺がただ「空間の整理整頓ができていないことにイライラしている」のではなく、世界の因果そのものを救おうとする聖者に見えているらしい。

その勘違いという名のバグが、俺の魔力演算をさらに加速させる。


「そうだ。……一旦、その不法な残留パケットたちを、論理洗浄リファクタリングして畳みましょうか」


俺は中庭の石畳に直接、指をかけた。

イメージするのは、空中に散乱した不潔な魔法の糸を、一本ずつ丁寧に「検収デバッグ」し、最小限の長さにまで折り畳んで「削除デリート」するプロセス。

現代知識にある「ガーベジコレクション」と「コードのリファクタリング」の論理を、魔力的に増幅・再構築した、究極の「空間お掃除魔法」だ。


「【魔力的界面活性魔法サーファクタント・ロジック:空間リファクタリング・クリーニング(デフラグ・バースト)】」


俺が指をパチンと鳴らす。

次の瞬間。

王宮の上空に、目に見えない“高周波の論理波”が駆け巡った。


シュゥゥゥゥッ! パキパキパキッ! キィィィィィィィィン!!


空から、かつてないほどの、もはや聴覚を直接デバッグされるような「清浄な摩擦音」が響き渡った。

空中に固着していた“酸化魔力のスパゲッティコード”が、俺の魔法によって分子レベルで剥離。

魔力の流れを妨げていた“情報の目詰まり”が、凄まじい勢いで解消されていく。


「……コードの整理を開始しろ。……冗長な記述(ゴミ魔法)をすべて削除デリートし、最小構成のソースコードに書き換えろ!」


俺は狂ったように、空間の隅々を“論理研磨”し続けた。

空に溜まっていた数千年の“魔力残渣”が、光の粒子となって雪のように降り注ぐ。

それは、人類が空へ放り出し、忘れ去ってきた“情報の拭き残し”が、ようやく浄化された証拠だ。


数分後。

王宮の空を覆っていた不透明な霧が完全に晴れた。

そこには、かつて誰も見たことがないような、恐ろしいほどに「透明度」の高い青空が広がっていた。

それは魔法的な視界ではない。

空間そのものがデフラグされ、光のパケットが最短距離で網膜に届くようになったことで生まれる、究極の「高解像度の景色」だ。

一粒の塵も、一筋のノイズも存在しない、物理法則の完璧な姿。


【システム状況:空間論理層の整合性復元を完了】

【セキュリティ・アップデート:魔法回路の最適化、およびメモリ解放成功】

【清潔度:極大(理論値の限界を突破)】


「……ふぅ。これでようやく、テクスチャが正常に表示されたな」


俺は額の汗を拭い、満足して頷いた。

目の前にあるのは、もはやただの空ではない。

世界という名のプログラムが、一ビットの無駄もなく、最も美しく、最も清潔に動作している「完全なソースコード」の体現だ。


その瞬間だった。

俺の背後で、もはや世界を物理的に揺らし、空間の概念そのものを除菌するほどの「感動の熱量」が爆発した。


「ア、アレン様ぁぁぁーーーーっ!!!!!」


ティアナだ。

彼女は、あまりの空の美しさに腰を抜かし、涙を流しながらその場に崩れ落ちていた。

いや、跪き、両手を胸の前で組み、祈りのポーズを取ったのだ。

彼女の全身からは、もはや太陽をも凌駕し、網膜を物理的に焼くほどの「崇拝の光」が噴き出している。


「なんという……! なんという圧倒的な、神聖なる宇宙の洗濯でしょうっ! 今、私は世界の真理を、この魂の深淵まで叩き込まれましたっ!!!!!」


彼女は震える両手を天に掲げ、むせび泣きながら絶叫を続ける。

その熱量は、洗浄魔法によって冷却された王宮の空気を、一瞬で沸騰させるほどの威圧感を持っていた。


「皆様、ご覧ください! あの、私たちの頭上に広がっていた、不透明で淀んだ空がっ! アレン様の聖なる魔力によって、私たちが数千年の間、空へ吐き捨て続けてきた『魔法という名の傲慢』……その拭き残しが、一滴残らず畳み込まれた結果なのですっ!!!」


「いや、ただのメモリ解放をしただけなんだけど……」


「いいえっ! アレン様はあえて『リファクタリング』や『パケット』という、私たちには理解の及らぬ天上の言葉を使われましたが! ですが、私には分かります! それは、人間がその身勝手な魔法で汚し、傷つけてきた『世界の美しさ』を、その聖なる指先で丁寧に畳み直し、神の元へとお返ししたということ! アレン様は今、この汚染された異世界という名の『未完成の詩』を、神の領域へと昇華させる『最終的な校正フィニッシュ』を成し遂げられたのですねっ!!!」


ティアナは、膝をついたまま俺ににじり寄り、俺の靴(昨日ナノレベルで磨いたので宇宙一ピカピカだ)の前に額を擦り付けた。


「アレン様! あなたはもはや、ただの勇者などではありません! あなたは、この不純物にまみれた現世(OS)を丸ごと洗濯機に放り込み、すべての魔法の魂を工場出荷状態ピカピカへと導く、歴史と空間の創造主……『大掃除の神』でございますっ! あの空から降り注ぐ光の欠片……。あれこそが、私たちの魂が本来持っていた『謙虚さ』を取り戻すための、聖なるデフラグなのですねっ! ああ、なんという清々しさ! あなたのそばで高解像度の空を見上げているだけで、私の血管の一つ一つが、超音波洗浄されているような快感に包まれますっ! アレン様、私を……この一生を、あなたの『浄化のパテ』としてお使いください! 世界の隅々まで、あなたの視界を汚すすべての『バグ』……たとえそれが神が書き損じた不潔な魔法回路であっても、この命を賭して、ナノレベルで磨き上げることを今ここに誓いますっぁぁぁぁーーーーっ!!!!!」


「……ティアナ。落ち着け。……というか、血管を洗浄するのは、物理的に死ぬからやめてくれ」


俺は、深い、深い溜息をついた。

情報の最適化。物理層のメンテナンス。

それは、システムの整合性を保つための「当然の処置」だ。

だが、この世界の住人は、どうしてこうも「論理的な整理整頓」を「魂の救済」へと、天文学的な飛躍で変換してしまうのか。


エドワード王も、周囲の魔導士たちも、ティアナの演説に呼応するように一斉に地面に頭をこすりつけ、祈り始めた。

「大掃除の神アレン様、万歳!」「空を洗濯してくださったぁ!」

「見てください! 今日の太陽は、今までで一番ピカピカに輝いているぞ!」


それはそうだ。

空間に浮遊していた散乱ノイズを取り除いたのだから、透過率が上がるのは光学的な必然だ。

だが、彼らはそれさえも「神の御加護」と呼び、勝手に改心して涙を流している。

世界が、少しずつ、俺が呼吸しやすい「綺麗な状態」へと書き換えられた。


名声の裏側にある不潔を拭い、英雄の歴史をピカピカにデバッグし終えた。


だが。

俺の【極清鑑定】は、この美しく澄み渡った青空の、さらにその先の「深淵」に、かつてない「深刻な不整合」の反応を捉えていた。


それは、物理的な脂汚れでも、生物学的なダニでも、論理的なスパゲッティコードでもない。

もっと、……この世界の“システムそのもの”を歪めている、根本的な「拭き残し」の気配。


「……ん?」


俺の視界の端に、一つの警告ログが走った。


【緊急警告:全世界規模のシステム不具合クリティカル・バグを確認】

【原因:管理神による、不適切な“書き損じ”の放置】

【ターゲット:この世界を構成する、全ての“魔法回路”のソースコード】


「……う、おえっ」


俺は再び口元を押さえた。

俺の目の前に広がる、美しいはずのこの異世界。

それが、俺の目には「脱ぎ散らかした靴下」や「整理されていない配線コード」が宇宙規模で浮かんでいる、最悪のゴミ屋敷に見えていた。


「ティアナ。……喜んでいる暇はない。……すぐに新しい除菌布フィルタを用意しろ」


俺の声は、自分でも驚くほど冷えていた。

王国の掃除を終えた俺を待っていたのは、この世界という名の“欠陥システム”そのものへの挑戦だった。


「うわ、汚い。……ティアナ、燻蒸消毒の準備だ。次は世界規模の害虫駆除……いや、この宇宙に脱ぎ散らかされた魔法回路の整理整頓デフラグを始めるぞ」


俺のお掃除無双は、歴史の表面を拭いただけで終わるほど甘くはない。

次なる戦いは、神の筆致の裏側に隠された「不潔な真実」。

俺は、新しい除菌カートリッジを装填し、冷徹な目で世界の真理ソースコードを見据えた。

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