表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
汚いのは嫌なので、魔王も呪いもまとめて除菌します。〜潔癖鑑定士の異世界お掃除無双〜  作者: 六井求真


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/48

第36話:断末魔の叫び!寄生虫たちのレガシー・デリート

「……一旦、この宇宙の全ログを“物理削除ワイプ”していいですか?」


俺、アレンは、王宮の中庭に展開された三重の隔離結界の最前線で、己の精神が「強制終了クラッシュ」するのを必死に食い止めていた。

視界を覆い尽くすのは、俺が放った殺菌ガスの真っ白な霧。

そして、その霧の中で狂ったように蠢く、漆黒の巨大な質量。


数千年の垢と皮脂を苗床に、殺虫成分から逃れるため魔力的に重合マージした怪物。

寄生生物の王【グリード・マイト・ロード】だ。


「ひっ……、……おえっ。……来るな、それ以上その“不純物の塊”を俺の網膜に焼き付けるな」


俺は防護服のフィルターを最大出力に固定し、胃の底からせり上がってくる不快な熱を無理やり飲み下した。

結界の壁を叩き、逃げ出そうとする魔物の姿は、もはや生物の定義を逸脱している。

それは、整理整頓を放棄された末に実体化した「歴史のバグ」そのものだった。


俺は網膜に【極清鑑定】のログを、血の気が引くほどの速度で展開した。


【致命的なシステム障害:ガーベジコレクションの失敗を検知】

【対象:不浄の集合体【グリード・マイト・ロード】】

【状態:未処理のレガシーデータ(垢・ダニ)によるスタックオーバーフロー】

【汚染物質:酸化重合した英雄の汗(70%)、濃縮されたダニの排泄物(25%)、および数千世代分の死骸】

【警告:対象の存在そのものが“実行時エラー”です。これ以上の放置は、世界のソースコードを恒久的に汚染します】


「……うわ、汚い。汚すぎる。見てくれ、あの表面の“ヌルつき”を」


俺の目には、魔物の表面を覆うドロドロとした液体が、社会を混乱させる「悪質なマルウェア」に見えていた。

数千年の間、一度もメンテナンス(洗濯)されることなく、前のユーザー……すなわち英雄の汗と皮脂を吸い尽くして肥え太った、救いようのない不潔。

蠢くたびに、結界の内壁に「酸化した脂の臭い」がこびりついていく。

それは、不法投棄された巨大なゴミ山が、自らの意志を持ってクリーンエリアをハッキングしようとしている、生理的な極限状態だ。


「……耐えられない。……俺の聖域(隔離室)に、こんなスパゲッティコードの化物を存在させるなんて、仕様書に対する冒涜だ」


俺は呼吸が浅くなるのを感じた。

情報のスループットが、目の前の“不潔のアーカイブ”が放つノイズによって、完全にデッドロックされている。

このままでは、俺というメインプロセッサが、嫌悪感によるオーバーヒートで壊れてしまう。


「アレン様! いかがなさいましたか! その凄まじい眼光……。もしや、邪悪なる魔神の最後の一撃を見切っておられるのですか!」


隣で防護結界の補強を手伝っていたティアナが、心配そうに俺の背中を見つめる。

「ティアナ、触るな! 来るな! その鏡面仕上げに磨き上げたピカピカの籠手に、一滴の飛沫も触れさせるな!」

「えっ!? あ、アレン様……!?」


俺は叫び、なりふり構わず、その場で懐から“特製の魔力振動カートリッジ”を取り出した。

「……リセットだ! 歴史という名の“拭き残し”ごと、すべてのバグを根元から物理削除デリートしろ!」


俺は周囲の困惑を無視し、冷徹な声で広域コマンドの入力を開始した。

ここからは、この不潔な常駐プログラムを“粉砕デバッグ”する時間だ。


「いいか、ティアナ。よく聞け。……魔法とは、本来は物理現象を最適化するための演算リソースだ」


俺は空中に、複雑怪奇な数万の術式を、猛烈なスピードで描画レンダリングし始めた。

冷酷なまでの論理が、震える俺の口から溢れ出す。


「システムにおける“振動”とは、本来、データの断片化を防ぐための『最適化(最適化)』であるべきだ。……だが、今俺が行っているのは、その究極の応用だ。物理層における強固な“固着(汚れ)”を解消するためには、対象の分子結合そのものを、高周波の演算によって強制的に切断しなければならない。見ろ、あのダニの王を。あれは、数千年の放置が生んだ、救いようのない“メモリリーク”の集積だ! 物理的な『拭き残し』を放置した結果、この世界は歴史という名のバックドアから、不潔なハッキングを受け続けているんだよ! これほど劣悪なハードウェア環境を『伝説』と呼ぶなんて、論理的な自殺行為だ! 俺のクリーンな肺が、あの中身の詰まっていない『情報の排気ガス』に、致命的なアクセス拒否エラーを吐き続けているんだ!」


「な、なるほど……! つまり、あのヌルヌルは、英雄の光に耐えきれなくなった世界の闇なのですね!」


隣にいたティアナが、俺の言葉を独自の“騎士道フィルター”で熱烈に変換した。

彼女の瞳には、俺がただ「汚いのが生理的に無理なだけ」ではなく、世界を救うために命を懸けているように見えているらしい。

その勘違いという名のバグが、俺の魔力演算をさらに加速させる。


「そうだ。……一旦、その不法なデータたちを、振動で粉砕削除しましょうか」


俺は隔離結界の出入り口に両手を突き、全魔力を注ぎ込んだ。

イメージするのは、眼鏡を洗う超音波洗浄機の、数億倍の出力。

現代知識にある「超音波」の理論を、魔力的な波長として再構築した、究極の「お掃除魔法」だ。


「【魔力的界面活性魔法サーファクタント・ロジック超音波魔力振動ソニック・デフラグ】」


俺が指をパチンと鳴らす。

次の瞬間。

隔離結界の内部が、目に見えない“高周波の刃”で埋め尽くされた。


シュゥゥゥゥッ! パキパキパキッ! キィィィィィィィン!!


結界の内部から、かつてないほどの、もはや精神を直接デリートされるような「不快な断末魔」が響き渡った。

それは、ダニという名の“バグの殻”が、分子レベルで粉砕される音だ。

数千年の間、鎧の汚れを糧に構築された“不潔な外殻”が、俺の超音波魔法によって物理的な結合を断ち切られ、ただの「データ」へと分解されていく。


「キギギギギギッ! ギガガガガッ! ゴボォォッ!」


不正常駐プログラムの王【グリード・マイト・ロード】が、俺のデバッグ魔法によって、物理的に形を保てなくなり、ドロドロと溶けていく。

溶けた不純物は、俺が事前に散布した【次亜塩素酸・パルス】と反応し、一瞬で中和・消臭されていった。


その光景を見ていた、王宮の魔導士たちが一斉に震え上がった。


「な、なんだあの術式は……!? 物質を破壊せず、汚れという名の『概念』だけを、振動で粉砕しているのか!?」

「信じられん……! あの魔導士数人がかりでも傷一つつかなかった不浄の王が、勇者アレン様の手の中で、ただの塵に変わっていく……!」

「これこそが……失われた神話の浄化術。勇者アレンは、神の領域のシステム管理者だ……!」


魔導士たちが、感極まった表情で一斉に唱和を始めた。

彼らの魔力が、俺の洗浄フィールドに「感謝」という名の不要なパッチを勝手に当てていく。

「お掃除の神、万歳!」「アレン様、万歳!」


数分後。

耳をつんざく高周波音が止み、結界の中に静寂が戻った。

真っ白だった霧が晴れ、そこには……一ミリの埃も、一匹のダニも存在しない、極限までクリーンな空間が広がっていた。

俺の目の前には、磨き上げられた石畳の上に、本来の白銀の輝きを取り戻した「初代英雄の鎧」が、静かに鎮座している。


【システム状況:不正常駐プログラムの完全削除を確認】

【セキュリティ・アップデート:広域生物学的汚染のリカバリ完了】

【清潔度:極大(工場出荷状態)】


「……ふぅ。終わったか」


俺は額の汗を拭い、虚無の目で鎧を見つめた。

数千億のダニが消滅し、歴史の垢が消え去った今の気分を一言で表すなら……。


「……掃除機の紙パックを捨てる時と同じ気分だ」


俺の呟きは、誰にも届かなかった。

なぜなら、俺の背後で、もはや宇宙の真理を見届けた聖者のような「感動の熱量」が爆発していたからだ。


「ア、アレン様ぁぁぁーーーーっ!!!!!」


ティアナだ。

彼女は、魔物が消え去った後の清涼な空気と、その中心に立つ俺の背中を見つめ、その場に崩れ落ちていた。

いや、跪き、両手を胸の前で組み、祈りのポーズを取ったのだ。

彼女の全身からは、もはや太陽をも凌駕し、網膜を物理的に焼くほどの「崇拝の光」が噴き出している。


「なんという……! なんという圧倒的な、自己犠牲の極致でしょうっ! 今、私は世界の真理を、この魂の深淵まで叩き込まれましたっ!!!!!」


彼女は震える両手を天に掲げ、むせび泣きながら絶叫を続ける。

その熱量は、洗浄魔法によって急冷された中庭の空気を、一瞬で沸騰させるほどの威圧感を持っていた。


「皆様、ご覧ください! あの、不浄の極みであった魔物が消え去り、王国を包み込むこの清々しい風をっ! あの魔物は、私たち人間が歴史という名の下に積み上げてきた『怠慢の膿』そのものだったのですっ! 私たちは、英雄の栄光ばかりを重んじ、その陰に溜まった不潔な汚れから目を背けてきました。……ああ、なんと強欲で、なんと不潔な生き物だったのでしょうかっ! しかし、アレン様は違いますっ!!!」


「いや、ただのダニ退治をしただけなんだけど……」


「いいえっ! アレン様はあえて『掃除機の紙パック』という、私たちには理解の及ばぬ天上の比喩を使われましたが! ですが、私には分かります! それは、王国が数千年の間、その暗がりに隠し続けてきた『歴史の不条理』を、自らの魂という名のフィルターですべて吸い取り、代わりに捨て去ってくださったということ! アレン様は、あの吐き気を催すような世界の膿を、自らのスプレー……いえ、聖なる慈愛で包み込み、真っ白な光へと還してくださったのですねっ!!!」


ティアナは、膝をついたまま俺ににじり寄り、俺の靴(昨日ナノレベルで磨いたので宇宙一ピカピカだ)の前に額を擦り付けた。


「アレン様! あなたはもはや、ただの勇者などではありません! あなたは、この不純物にまみれた歴史レガシーを、自らの魔力という名の『洗剤』で丸ごと書き換える、歴史と精神の創造主……『大掃除の神』でございますっ! あの魔物の瘴気が晴れた後のこの清涼感……。あれこそが、私たちの魂が本来持っていた『謙虚さ』を取り戻すための、神の吐息なのですねっ! ああ、なんという清々しさ! あなたのそばで空気を吸っているだけで、私の血管の一つ一つが、超音波洗浄されているような快感に包まれますっ! アレン様、私を……この一生を、あなたの『浄化のブラシ』としてお使いください! 世界の隅々まで、あなたの視界を汚すすべての『拭き残し』を、この命を賭して、分子レベルで駆除することを今ここに誓いますっぁぁぁぁーーーーっ!!!!!」


「……ティアナ。落ち着け。……というか、血管を洗浄するのは、物理的に死ぬからやめてくれ」


俺は、深い、深い溜息をついた。

情報の最適化。物理層のメンテナンス。

それは、システムの健全性を保つための「当然の保守メンテナンス」だ。

だが、この世界の住人は、どうしてこうも「論理的なデバッグ」を「魂の救済」へと、天文学的な飛躍で変換してしまうのか。


エドワード王も、周囲の騎士たちも、ティアナの演説に呼応するように一斉に地面に頭をこすりつけ、祈り始めた。

「勇者様ぁぁぁ!」「歴史の膿を出してくださったぁ!」

「見てください! 今日の王都は、昨日よりも解像度が高いぞ!」


世界が、少しだけ、俺が呼吸しやすい「綺麗な状態」へと書き換えられた。

Episode 3の山場を超え、初代英雄の鎧は、今や展示会に並ぶ新品のような輝きを放っている。


だが。

俺の【極清鑑定】は、この静まり返った中庭の、さらに遥か上空に、かつてない「深刻な不整合」の反応を捉えていた。


それは、物理的な脂汚れでも、論理的なバグでも、生物学的なダニでもない。

もっと、……この世界の“魔法というシステムそのもの”を歪めている、根本的な「拭き残し」の気配。


「……ん?」


俺の視界の端に、一つの警告ログが走った。


【緊急警告:特定不能の不整合ランタイムエラーを検知】

【推定原因:管理神による、不適切な“書き損じ”の放置】

【ターゲット:空中に脱ぎ散らかされた“魔法回路”の残骸】


「……う、おえっ」


俺は再び口元を押さえた。

俺の目の前に広がる、美しいはずの魔法の残光。

それが、俺の目には「脱ぎ散らかした靴下」や「整理されていない配線コード」が空中に浮かんでいる、最悪のゴミ屋敷に見えていた。


「ティアナ。……喜んでいる暇はない。……すぐに新しい除菌布フィルタを用意しろ」


俺の声は、自分でも驚くほど冷えていた。

鎧の掃除を終えた俺を待っていたのは、この世界という名の“欠陥システム”そのものへの挑戦だった。


「うわ、汚い。……ティアナ、燻蒸消毒の準備だ。次は世界規模の害虫駆除……いや、空中に散乱する不潔な魔法回路の整理整頓デフラグを始めるぞ」


俺のお掃除無双は、歴史の表面を拭いただけで終わるほど甘くはない。

次なる戦いは、神の筆致の裏側に隠された「不潔な真実」。

俺は、新しい除菌カートリッジを装填し、冷徹な目で世界の真理ソースコードを見据えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ