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汚いのは嫌なので、魔王も呪いもまとめて除菌します。〜潔癖鑑定士の異世界お掃除無双〜  作者: 六井求真


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第34話:システム隔離!王宮聖遺物庫のバルサン化

「……一旦、この王都の全生命体を“一時停止フリーズ”させていいですか?」

俺、アレンは、王宮の中庭に設置された“完全隔離結界”の防護壁に背を預け、震える手で二重の手袋をはめ直していた。 目の前には、俺の【界面活性魔法】によって磨き上げられ、数千年の垢を落とした初代英雄の鎧。 本来なら、これでEpisode 3は「めでたしめでたし」で終わるはずだった。 だが、俺の【極清鑑定】は、この鎧が単なる“末端デバイス”に過ぎないことを冷酷に告げていた。

「ひっ……、……おえっ。……やっぱり、……やっぱりソースコード(根源)が汚染されている」

俺は防護服のフィルター出力を限界まで引き上げ、激しい目眩をこらえた。 鎧から剥離させた“魔ダニ”の死骸。 その解析結果が、俺の網膜に「滅亡のカウントダウン」のように真っ赤なエラーログを流し込み続けている。

【致命的なシステム脆弱性を検知:広域生物学的汚染】 【対象:王宮地下・聖遺物庫(全体レイヤー)】 【状態:数千年の未清掃による“ダニのサーバーファーム”化】 【原因:不潔な歴史という名のキャッシュが蓄積し、魔力的に増殖・重合】 【警告:鎧はただの“出力端末”に過ぎません。サーバー本体(聖遺物庫)は既にバイオハザード状態です】 【危険度:世界崩壊級(これ以上の放置は、人類という名のユーザーへの物理的損壊を確定させます)】

「……うわ、汚い。汚すぎる。見てくれ、この『情報の拭き残し』のネットワークを」

俺の目には、王宮の地下深くから、目に見えない“不潔なノイズ”の触手が、毛穴を這い上がるように立ち上っているのが見えていた。 聖遺物庫。 王国の歴史が眠る、神聖な場所。 だが、その実態は、数千年の間、一度もデフラグ(整理整頓)されず、前の管理者の汗、皮脂、剥離した角質、そして戦場の塵が、魔力的な接着剤となって固着した“情報の墓場”だ。

そこはもはや博物館ではない。 過去の不潔な実行ログが、暗く湿った環境で独自の進化を遂げ、魔力を食い潰しながら無限に増殖する「寄生生物の巨大演算装置サーバーファーム」と化している。 一歩足を踏み入れれば、数億のダニが肺という名のメインメモリに侵入し、俺の生存OSを瞬時にクラッシュさせるだろう。

「……耐えられない。……こんな“マルウェアの培養槽”を抱えたまま王宮が存続しているなんて、設計ミスにも程がある」

俺は呼吸が浅くなるのを感じた。 情報のスループットが、地下から漏れ出す“死臭に近い脂の臭い”によって完全にデッドロックされている。 このままでは、俺というシステムが、嫌悪感によるオーバーヒートで強制終了(強制シャットダウン)してしまう。

「アレン様! いかがなさいましたか! 英雄の魂を救われた直後だというのに、なぜそのように世界の終焉を見たような顔をされているのですかっ!」

隣で待機していたティアナが、心配そうに俺の肩を掴もうとする。 「ティアナ、触るな! 来るな! その鏡面仕上げに磨いた美しい籠手を、俺の絶望という名のノイズで汚染させる気か!」 「えっ!? あ、アレン様……!?」

俺は絶叫し、なりふり構わず、その場で懐から“特大サイズの魔力触媒(薬品樽)”を魔法で召喚した。 「……リセットだ! 聖遺物庫という名の“腐敗したレガシー・ハードウェア”ごと、すべてのバグを物理削除フォーマットしろ!」

俺は周囲の困惑を無視し、冷徹な声で広域コマンドを入力し始めた。 ここからは、この不潔な歴史を“根元からデバッグ”する時間だ。

「いいか、陛下。よく聞いてください。……魔法とは、本来は物理現象を最適化するための演算リソースだ」

俺は空中に、王宮全体を網羅するほど巨大な術式を、猛烈なスピードで描画レンダリングし始めた。 冷酷なまでの論理が、俺の口から溢れ出す。

「システムにおける“博物館”とは、本来、過去のデータをクリーンな状態でアーカイブするための保存用ストレージ(HDD)であるべきだ。……情報の不整合を避けるため、温度、湿度、そして何より衛生指数が厳密に管理されていなければならない。だが、この王宮の地下はどうだ? 数千年の間、物理的な“ゴミ箱を空にする”作業を一度も行わず、歴代の英雄たちの不要な実行ログ……すなわち血と汗と垢を上書き保存し続けてきた! この物理層に残された粘着質なヘドロは、いわばシステムのルート権限を食い荒らす常駐型ウイルス(ダニ)の温床だ! 物理的な『拭き残し』を放置した結果、この国は歴史という名のバックドアから不潔なハッキングを受け続けているんだよ! これほど劣悪なサーバー環境で、まともな国家運営ができるはずがない! 俺のクリーンな肺が、この不法投棄された過去のデータの排気ガスに、致命的なアクセス拒否エラーを吐き続けているんだ!」

「な、なるほど……! つまり、あの地下室は、王国の歴史を腐らせる“暗黒のゴミ溜め”なのですね!」

隣にいたティアナが、俺の言葉を独自の“騎士道ロジック”で全肯定変換した。 彼女の鎧は、俺が今朝3時間かけて入念に施した「超撥水・防汚パッチ」により、一粒の胞子も寄せ付けない輝きを放っている。 その輝きだけが、この汚染されゆく王宮における唯一の救いだ。

「そうだ。……一旦、その不浄なディレクトリを物理的に隔離アイソレートして、まるごと燻蒸消毒……“広域デバッグ”を敢行しましょうか」

俺は両手を広げ、王宮の地下聖遺物庫を包み込むような、巨大な透明の“真空パック型結界”を展開した。 イメージするのは、微細な隙間一ミリ、空気の分子一個さえも逃さない完全な気密空間だ。 現代知識にある、バルサン……もとい、高濃度殺菌ガスの理論と、真空パックによる酸素供給の遮断。 それを、異世界の魔法体系に再起動させる。

「【界面活性魔法サーファクタント・ロジック:広域デバッグ・スモーク(バルサン・バースト)】」

俺が指をパチンと鳴らす。 次の瞬間。 地下への入り口が魔法で完全にシーリング(封印)され、結界の内部に、超高濃度の殺菌・殺虫成分を含んだ「真っ白な魔力霧」が、爆速で充填されていった。

シュゥゥゥゥッ!!!!!!

王宮の石畳の隙間から、わずかに漏れ出した白い霧が、中庭を幻想的な白銀に染め上げていく。 それはただの霧ではない。 ダニという名の“有害なプログラム”のタンパク質を分子レベルで粉砕し、彼らが苗床にしていた数千年の皮脂汚れを、化学反応によって中和・消臭する究極のデバッグ・パッチだ。

すると、地下深くから、かつてないほどの、もはやこの世のものとは思えない「不快な断末魔」が響き渡った。

「キギギギギギッ! ギガガガガッ! ゴボォォッ!」

それは、数千年の間、王国の闇で肥え太ってきた魔ダニたちの、末期の叫び。 彼らという名の不正常駐プログラムが、俺の燻蒸消毒魔法によって、一匹残らずデリートされていく。

地下の通気孔からは、ドロドロとした真っ黒な、饐えた脂の臭いのする液体が、滝のように溢れ出していた。 それは、英雄の栄光の陰に隠されていた「歴史の拭き残し」の成れの果てだ。

「な、なんだ……!? 王宮の地下から、黒い涙が……!」 「勇者アレン様が……王国の深淵に巣食っていた、数千年の呪いを引きずり出しておられるのか……!?」

中庭に集まっていた民衆たちが、その光景を目の当たりにして、一斉に地面に膝をついた。 彼らの目には、俺が地下の聖域を冒涜しているのではなく、王国が抱えていた“負の因縁”を、その身を挺して救済しているように見えているらしい。

その瞬間だった。 俺の背後で、もはや空間を震わせ、大気を一瞬で除菌するほどの「感動の熱量」が爆発した。

「ア、アレン様ぁぁぁーーーーっ!!!!!」

ティアナだ。 彼女は、噴き上がる白い霧と、その中で一心不乱に“広域サニタイズ”を続ける俺の背中を見つめ、その場に崩れ落ちていた。 いや、膝を突き、両手を胸の前で組み、祈りのポーズを取ったのだ。 彼女の全身からは、もはや太陽をも凌駕し、網膜を物理的に焼くほどの「崇拝の光」が噴き出している。

「なんという……! なんという圧倒的な、神聖なる大浄化の極致でしょうっ! 今、私は世界の真理を、この魂の深淵まで叩き込まれましたっ!!!!!」

彼女は震える両手を天に掲げ、むせび泣きながら絶叫を続ける。 その熱量は、洗浄魔法によって急冷された王宮の空気を、一瞬で沸騰させるほどの威圧感を持っていた。

「皆様、ご覧ください! あの、王宮を包み込む神々しい白銀の雲をっ! あれこそが、アレン様が天界より呼び寄せられた、慈悲深き“救済の洗礼”そのものだったのですっ! 私たちは、過去の名声という名の偶像を拝むばかりで、その足元に溜まった不潔な罪……自分たちの汚れを放置してきた怠慢に気づきませんでした。……ああ、なんと愚かで、なんと不衛生な生き物だったのでしょうかっ! しかし、アレン様は違いますっ!!!」

「いや、ただの広域燻蒸をしてるだけなんだけど……」

「いいえっ! アレン様はあえて『デバッグ』や『バルサン』という、私たちには理解の及ばぬ天上の言葉を使われましたが! ですが、私には分かります! それは、王国が数千年の間、その暗がりに隠し続けてきた『歴史の垢』……いえ、『救われぬ死者たちの痒み』を、その聖なる煙で抱きしめ、真っ白な光へと還してくださっているということ! ああ、なんという清々しさ! アレン様は今、この王国全体を一つの巨大な『洗濯機』として使い、国民全員の魂を工場出荷状態ピカピカへと導いてくださっているのですねっ!!!」

ティアナは、膝をついたまま俺ににじり寄り、俺の靴(昨日ナノレベルで磨いたので宇宙一ピカピカだ)の前に額を擦り付けた。

「アレン様! あなたはもはや、ただの勇者などではありません! あなたは、この不純物にまみれた現世(OS)を、自らの魔力という名の『洗剤』で丸ごと書き換える、歴史と精神の創造主……『大掃除の神』でございますっ! あの地下から溢れ出した黒い煙……。あれこそが、私たちの魂が本来持っていた『謙虚さ』を取り戻すための、最後の排泄なのですねっ! ああ、なんという清々しさ! あなたのそばで煙を浴びているだけで、私の血管の一つ一つが、高圧洗浄されているような快感に包まれますっ! アレン様、私を……この一生を、あなたの『浄化のモップ』としてお使いください! 世界の隅々まで、あなたの視界を汚すすべての『拭き残し』を、この命を賭して、分子レベルで駆除することを今ここに誓いますっぁぁぁぁーーーーっ!!!!!」

「……ティアナ。落ち着け。……というか、血管を洗浄するのは、物理的に死ぬからやめてくれ」

俺は、深い、深い溜息をついた。 情報の最適化。物理層のメンテナンス。 それは、システムの健全性を保つための「当然の保守メンテナンス」だ。 だが、この世界の住人は、どうしてこうも「論理的な害虫駆除」を「魂の救済」へと、天文学的な飛躍で変換してしまうのか。

エドワード王も、周囲の騎士たちも、ティアナの演説に呼応するように一斉に地面に頭をこすりつけ、祈り始めた。 「勇者様ぁぁぁ!」「王国の痒みを止めてくださったぁ!」 「見てください! 勇者様の煙が王都を包み、今日の空はいつになく解像度が高いぞ!」

王都全体が、突如として始まった「燻蒸消毒まつり」の歓喜に包まれた。 民衆は白い煙に向かって手を合わせ、自らの不浄な過去をデリートしようと、一斉に涙を流している。 これが、不純物という名のノイズを取り除いた、システムの「真のパフォーマンス」……いや、狂騒曲だ。

俺は、さらにもう一段深い、絶望的な溜息をついた。 聖遺物庫のデバッグは完了し、王宮全体の衛生指数はかつてないスコアを記録している。 だが。 俺の【極清鑑定】は、このピカピカになった王宮の“影”に、さらなる不気味な「ノイズ」の接近を捉えていた。

それは、物理的な脂汚れでも、生物学的なダニでもない。 もっと、……この世界の“システムそのもの”を歪めている、根本的な「拭き残し」の気配。

「……ん?」

俺の視界の端に、一つの警告ログが走った。

【緊急警告:特定不能の不整合エラーを検知】 【推定原因:管理神による、不適切な“書き損じ”の放置】 【ターゲット:空中に脱ぎ散らかされた“魔法回路”の残骸】

「……う、おえっ」

俺は再び口元を押さえた。 俺の目の前に広がる、美しいはずの魔法現象。 それが、俺の目には「脱ぎ散らかした靴下」や「整理されていない配線コード」が空中に浮かんでいる、最悪のゴミ屋敷に見えていた。

「ティアナ。……喜んでいる暇はない。……すぐに新しい除菌布フィルタを用意しろ。次は、歴史という名の“拭き残されたゴミ山”を片付け、空中に散乱する不潔な魔法回路の整理整頓デフラグを始めるぞ」

俺のお掃除無双は、歴史の表面を拭いただけで終わるほど甘くはない。 次なる戦いは、神の筆致の裏側に隠された「不潔な真実」。 俺は、新しい除菌カートリッジを装填し、冷徹な目で世界の真理を見据えた。



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