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汚いのは嫌なので、魔王も呪いもまとめて除菌します。〜潔癖鑑定士の異世界お掃除無双〜  作者: 六井求真


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第20話:経済のボトルネック「金貸しドミニク」

王都の中央広場で敢行した金貨の浸け置き洗いは、確かに一時的なキャッシュクリアとして機能した。 だが、それは表面的な対症療法に過ぎない。 俺、アレンは、広場を埋め尽くす民衆の祈りという名のノイズから逃れるように、次なる不潔の根源へと足を向けていた。


俺の視界をジャックする【極清鑑定】のログは、依然として警告の赤色を点滅させている。 王都全体の魔力循環をスキャンした結果、ある特定の座標でデータが完全に停滞し、腐敗していることが判明したからだ。 そこは、王都の全資産を握ると豪語する大金貸し、ドミニクの屋敷だった。


澱んだ金庫と腐敗した帳簿

屋敷の門前に立った瞬間、俺は激しい目眩に襲われた。 鼻腔を貫くのは、ただの埃の臭いではない。 それは、回収されることなく地下金庫に積み上げられた金貨たちが発する、魔力の便秘とでも呼ぶべき、重苦しく饐えた異臭だ。


「……ひっ、……おえっ」


俺は口元をハンカチで押さえ、膝をつきそうになる。 鑑定ログが、網膜を埋め尽くす勢いでエラーを吐き出す。


【警告:局所的な魔力圧の異常上昇を検知】 【状態:長期滞留による情報の腐敗、および魔力便秘】 【原因:循環を無視した富の独占による、システム的なデッドロック】 【汚染物質:酸化した強欲の脂、積層した帳簿のカビ、残留思念のヘドロ】


俺の目には、豪華な装飾が施された屋敷の壁が、持ち主の執着を吸い込んでドロドロに溶け出した、巨大なゴミの塊にしか見えない。 特に屋敷の奥から漂ってくる、あの不透明な帳簿の臭い。 嘘と横領が何層にも塗り固められ、情報の解像度が著しく低下している。 それは、整理整頓を放棄された末にアイコンが重なり合い、何がどこにあるか分からない、ゴミだらけのデスクトップそのものだ。


「アレン様! お気を確かに! まさか、この屋敷から立ち上る、この世のものとは思えぬ邪悪な魔力と精神戦を繰り広げておられるのですか!」


隣に立つティアナが、心配そうに俺の肩を支えてくる。 彼女の鎧は、俺が先ほど磨き上げたおかげでピカピカだが、この不潔な空間にいるだけで、その純白の輝きが汚染されていくような錯覚を覚える。


「ティアナ……。これは邪悪なんて高尚なものじゃない。……単なる、掃除不足によるシステム障害だ」


俺は、震える手で屋敷の門を指差した。


「いいか、よく聞け。この屋敷の主、ドミニクは、この国の経済という名のシステムの処理速度を、たった一人で数十分の一に低下させている。……彼は、本来循環すべきデータを自分のフォルダに無理やり閉じ込め、暗号化もせずに放置しているんだ。その結果、データは断片化し、不純物という名のノイズが混入して、この国のキャッシュフローは今、物理的な詰まりを引き起こしている」


俺は脳内で、この屋敷という名の"巨大なバグ"を消去するための演算を開始した。


「物理メディアである金貨を一箇所に集めすぎるのは、サーバー室に生魚を放置して、排気口をガムテープで塞ぐのと同じくらい、正気の沙汰ではない。……見てみろ、あの窓から漏れ出す魔力を。あれは回収されなかった執念が、古いグリスのように重合して、もはや情報の体をなしていない、ただの汚れだ。……一旦、全部除菌して、このデスクトップを初期化しなければ、この国は遠からずフリーズする」


ティアナの熱狂と"血栓"の解釈

俺の言葉を聞いた瞬間。 ティアナの全身から、かつてないほどの、いや、もはや狂気すら感じるほどの感動のオーラが噴き出した。


「ア、アレン様ぁぁぁーーーーっ!!!!!」


彼女は、溢れ出る涙を拭おうともせず、天を仰いで絶叫した。 その瞳には、世界の真理に触れた者特有の、恐ろしいまでの光が宿っている。


「なんという……なんという圧倒的な洞察! なんという慈悲深き断罪! 皆様、お聞きになりましたか! 今、この聖なるアレン様は、この屋敷を"王国の血管に詰まった悪意の血栓"であると断じられたのですっ!」


「いや、血栓というか、単なるデータの滞留なんだけど……」


「いいえっ! アレン様は、私のような無知な武人にも伝わるように、あえて"掃除"や"初期化"という平易な言葉を選ばれました! しかし、その真意は、富を独占し、民を苦しめることで肥え太った強欲の亡者たちが、いかにこの世界の神聖なる調和を汚しているかという、至高の啓示なのですっ!」


ティアナは、そのまま屋敷の周囲にいた騎士団や集まってきた野次馬たちに向かって、大演説を始めた。


「皆様! 勇者アレン様は仰いました! この屋敷の主は、神様が私たちに与えてくださった"生命の輝き"を、自分だけの暗い部屋に閉じ込め、腐らせている不届き者であると! あの屋敷から漂う不快な臭いは、彼によって搾取され、捨てられた人々の無念が、物理的な不浄となって溢れ出したものなのですっ! アレン様は、その汚れを一身に受け、命を削りながらも、この世界をピカピカに洗い流そうとしてくださっています!」


周囲の騎士たちが、ティアナの言葉に呼応して、武器を構え始めた。 彼らの瞳には、もはや理性などは存在しない。 あるのは、アレンという名の"大掃除の神"への、狂信的なまでの忠誠心だけだ。


「おおお……! 我らが追い求めていた正義は、ここにあったのだ!」 「アレン様の鼻をつまませるような不浄は、この世に存在してはならない!」 「ドミニクの強欲を、アレン様の聖なる洗剤で洗い流せ!」


騎士たちが、口々に叫びながら屋敷を完全包囲していく。


「見てください、アレン様! 私たちもまた、あなたの雑巾となって、この王国の血管に詰まったゴミを一掃して参りますっ! このドミニクの屋敷という名の"世界最大の粗大ゴミ"を、今すぐ解体し、消毒の炎で焼き尽くしましょうっ! さあ、騎士団全員、跪け! 聖なるデフラグの開始だぁぁぁーーーーっ!!!!!」


経済の最適化デフラグ

ティアナの叫びと共に、騎士団が一斉に抜剣し、屋敷に突撃を開始しようとする。


俺は、深い溜息をついた。 情報の整理整頓、不純物の除去、そしてスループットの向上。 それは、効率的なシステム運用における基本中の基本だ。 だが、この世界の住人は、どうしてこうも"物理的なクリーニング"を"宗教的な救済"へと、あり得ないほどの飛躍で変換してしまうのか。


「……ティアナ。焼き尽くすのはやめてくれ、煙で空気が汚れる。まずは、高圧洗浄と化学剥離からだ」


俺は、腰のベルトに装着した特製除菌カートリッジに手をかけた。 屋敷の中から、慌てふためいて飛び出してきたドミニクの顔が見える。 その顔は、長年の嘘と不正のコーティングによって、俺の目には"テカテカした油まみれの生ゴミ"にしか映っていない。


「……うわ、解像度が低すぎる。……一旦、全部除菌しましょうか」


俺は、目の前の"巨大なシステムエラー"を修正するため、魔力洗浄スプレーのトリガーに指をかけた。 王国の経済を正常化させるためではない。 ただ、自分の網膜を焼き続ける、この不快な赤色の警告ログを消去したい。 その一心で、俺は"不潔の殿堂"へと足を踏み入れた。


だが、この時、俺はまだ気づいていなかった。 ドミニクの屋敷の地下に眠る、洗浄不能と言われた"腐敗した帳簿"こそが、王国の全政治腐敗を記録した"バックアップデータ"であったことに。 そして、それを俺が"クリーニング"することで、王国の歴史そのものが、物理的に書き換えられてしまうことを。


【システム状況:王都経済のデフラグ開始】 【ターゲット:不透明な帳簿、および滞留した物理キャッシュ】 【清潔度:0.01%(洗浄開始)】


俺の異世界お掃除無双は、一介の金貸しを巻き込み、国家レベルの大掃除へと加速していく。



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