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第12話:伝説の聖剣、その正体は“爪切り”?

「ヌルッ」という気の抜けた音。 数千年の沈黙が、物理法則によって破られた。 ティアナが掲げたその“物体”は、まばゆい白銀の光を放っている 。 「アレン様! 抜けました! ついに聖剣が、真の姿を現したのです!」 ティアナが興奮のあまり、剣(?)をぶんぶんと振り回す。 「おい、やめろ。……飛沫が飛ぶだろうが」 俺は反射的に数歩下がり、除菌スプレーを自分の顔の前に噴霧した 。 聖域を満たしていた“執着の脂”は、俺が調合した【バイカーボネート・ロジック重層魔法】と【シトリック・アシッド・パルス苦円酸魔法】によって、完全に乳化・洗浄されている 。 ボトルネックが解消されたシステムは、驚くほど軽やかだ。 だが、俺の【極清鑑定】が映し出したログは、絶望的な事実を告げていた 。


【鑑定対象:メンテナンスツール・コード104】 【状態:最適化完了(清潔度:MAX)】 【真の名称:次元のささくれ取り(ポータブル型)】 【用途:世界の表面に発生した微細なバグ(ささくれ)の切除】


「……嘘だろ」 俺はこめかみを押さえた。 汚れを落とし、完全にデフラグされたその姿。 それは、どう見ても魔王を斬るための大剣ではない。 細長く、先端が微妙に湾曲している。 さらに、親指で押し込むためのレバーのような機構までついている 。 どこからどう見ても、巨大な、そして最高級に磨き上げられた“爪切り”だ。


「アレン様、いかがなさいましたか? 聖なる輝きに、目を焼かれましたか?」 ティアナが顔を輝かせながら、その巨大な“爪切り”を俺に差し出してくる。 「ティアナ。……それを、今すぐ俺に渡せ」 「はい! この聖なる刃、アレン様にこそ相応しいものです!」 俺は、手袋を二重にはめてからそれを受け取った。 重い。 だが、重心のバランスは完璧だ。 システムのデフラグが終わったことで、本来の“演算機能”が再起動している。 周囲を見渡せば、王や大臣たちが涙を流して平伏していた 。 「おお……。あんなに細く、優美な姿になられるとは……」 「戦うための道具ではなく、慈しむための形……。これぞ平和の象徴だ!」 「伝説の聖剣は、戦いなき世界を望んでおられたのだ!」 平和主義者たちが勝手に解釈し、聖域の床に頭をこすりつけて泣き崩れている 。


「……違う。全然違う」 俺はボソリと呟いた。 こいつらは魔法を“神秘”だと思っているから、本質が見えていない。 魔法とは、物理現象を最適化するための“演算リソース”だ 。 この道具も、魔王を倒すための兵器ではない。 世界という名のシステムに発生した、微細なノイズを切り取るための“爪切り(デバッグツール)”に過ぎない 。


「アレン様、さっそくその神聖な力をお示しください!」 ティアナが期待に満ちた目で俺を見つめる。 俺はため息をつき、【極清鑑定】を最大出力で回した 。 「……一旦、全部除菌してからだと言っただろう。……あ、あそこか」 俺の視界に、一つの“バグ”が映った。 聖域の隅、空間の境界線がほんの少しだけ毛羽立っている。 それは世界の“ささくれ”だ。 放置すれば、そこから空間の汚染が広がり、やがて巨大な亀裂バグになる。


俺は巨大な“爪切り”を構え、レバーに力を込めた。 物理的な筋力ではない。 自身の魔力を、特定の術式へと変換し、レバーに流し込む。 イメージするのは、不純物の完全な切除。 「【界面活性切断:ネイル・デフラグ】」 パチン、という小気味よい音が聖域に響いた。 次の瞬間、空間の毛羽立ちが消失し、境界線が鏡面のように滑らかに修復される。


「なっ……空間そのものが、磨かれた……!?」 王宮魔導士たちが、驚愕のあまり持っていた杖を落とした 。 彼らには、俺が神の如き力で世界の理を書き換えたように見えたのだろう。 「……よし。これで一つの“ささくれ”が片付いた」 俺は満足して、巨大な爪切り……もとい、メンテナンスツールを布で丁寧に拭いた。 汚れがない世界は、実に気分がいい。


だが、その時だった。 俺の手の中で、爪切りが不気味な震動を始めた。 【警告:システム管理者の権限を確認】 【未解決の致命的な不純物バグを検知しました】 【ターゲット:王都中央・地下数千メートル】


俺の網膜に、真っ赤なアラートが点滅する。 今、俺が直した“ささくれ”なんて、ただの表面的な埃に過ぎない。 世界の深部には、俺の潔癖症が到底耐えられないような、巨大な“ドロドロの汚物”が眠っているらしい。


「アレン様、次なる御指示を!」 ティアナが拳を握り、やる気満々で俺の隣に並ぶ。 「……最悪だ。まだ掃除の続きがあるらしい」 俺は、手の中のピカピカに輝く“爪切り”を見つめ、吐き気をこらえた。 どうやら、この国の地下には、数千年の歴史が積み上げた“巨大なゴミ捨て場”が隠されているようだ。


「ティアナ。除菌スプレーの予備を全部持ってこい。……大掃除の本番は、これからだ」


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