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クラス最底辺の俺、触れたヒロインの死亡フラグが見えるんだが助けたら世界が壊れそう  作者: shiyushiyu


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第5花 踏み込みすぎる女

 ダリアは、最初から距離が近い。


 物理的にも、精神的にも。


「ねえアスター。最近、避けてるでしょ」


 昼休み。

 購買前の人混みの中で、彼女はいきなりそう言った。


 心臓が跳ねる。


「……何の話だよ」


「スズラン。あとモモちゃん」


 即答だった。


 周囲のざわめきが、一瞬遠のく。


 ダリアは笑っている。

 いつも通り、余裕たっぷりで、からかうような表情。


 なのに。


 ――目だけが、笑っていない。


「偶然だろ」


「ふーん。偶然にしては、きれいに距離取ってるよね」


 彼女は一歩、近づいてくる。


 反射的に下がろうとして、やめた。


 逃げたら、確信を与える。


「ねえ。触られるの、嫌いになった?」


 その一言で、背中に冷たい汗が流れた。


 触れる。


 ダリアは、その単語を、あまりにも自然に使った。


「……何が言いたい」


「確認」


 彼女は、軽い口調で言う。


「あなた、何か“見えてる”でしょ」


 世界が、音を失う。


 耳鳴りの中で、ダリアの声だけが、やけに鮮明だった。


「見えてる、って」


「死なない未来。もしくは――死ぬ未来」


 笑顔のまま、核心を突く。


 俺は、何も言えなかった。


 否定もしない。

 肯定もしない。


 沈黙。


 ダリアは、それで十分だと言わんばかりに、肩をすくめた。


「やっぱり」


 軽い。

 あまりにも軽い反応。


「……知ってたのか」


「全部じゃないよ」


 ダリアは指を立てる。


「一つ目。あなたが、普通じゃないってこと」

「二つ目。この世界が、優しくないってこと」

「三つ目――」


 彼女は、少しだけ声を落とした。


「また始まった、ってこと」


 ぞくり、と背筋が震える。


「また?」


「うん。また」


 ダリアは、俺の反応をじっと観察している。


 試すように。

 測るように。


「レベル、どこまで行ってる?」


 その言葉で、確信した。


 この女は、

 初めてじゃない。


「……何の話だ」


「とぼけるんだ」


 ダリアは楽しそうに笑う。


「まあいいや。じゃあ別の聞き方」


 彼女は、ぐっと距離を詰めた。


 視線が絡む。


「あなた、自分が原因だと思ってるでしょ」


 喉が、ひくりと鳴った。


 スズランの顔が浮かぶ。

 モモの、無邪気な笑顔が浮かぶ。


 俺が関わったから、

 フラグが動いた。


「……だったら、どうする」


 絞り出すように言う。


 ダリアは、一瞬だけ真顔になった。


「どうもしない」


 即答だった。


「世界は、そういうふうにできてる」


 淡々と。


「誰かが引き金を引く。

 誰かが引き受ける。

 それだけ」


 胸の奥が、ざわつく。


「じゃあ、お前は……」


「私は?」


「見てるだけか」


 ダリアは、少し考える素振りを見せてから、にやっと笑った。


「踏み込むよ」


 はっきりと。


「だって、面白いじゃん」


 冗談みたいな口調。

 でも、目は本気だった。


「それに――」


 彼女は、俺の胸元に、指先を伸ばす。


 触れない。

 触れない距離。


「一人で選ばせるの、残酷すぎるでしょ」


 その瞬間。


 視界の端で、

 ダリア自身に、淡い光が灯った。


 ――フラグ。


 今まで見たことのない、色。


 進行度は、低い。

 でも、確かに“死”につながっている。


「……やめろ」


 思わず、声が出た。


「なに?」


「踏み込むな」


 ダリアは、きょとんとした顔をして、

 それから、ゆっくり笑った。


「あーあ」


 残念そうに。


「もう遅いと思うけど」


 彼女は背を向ける。


「だってさ、アスター」


 振り返りざま、楽しそうに言った。


「私、もう――選択肢に入っちゃったから」


 人混みに紛れて、ダリアは去っていった。


 残された俺は、立ち尽くす。


 ノートに書いたルールが、頭をよぎる。


 助ければ、他に行く。

 助けなければ、そのまま。


 そして、今。


 知っている女が、踏み込んできた。


 これは、想定外だ。


 世界は、静かに、

 でも確実に――難易度を上げてきている。

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