第4花 理由を知らないまま
最近、アスターくんが避けている。
気のせいじゃない。
廊下ですれ違っても、目を合わせない。
声をかけても、必要最低限の返事だけ。
――嫌われた、のかもしれない。
そう思うと、胸が少しだけ苦しくなる。
私は、何かしただろうか。
失礼なことを言った?
距離が近すぎた?
どれだけ考えても、理由が分からない。
「スズラン、元気ないね」
友達に言われて、はっとする。
「そうかな?」
「うん。笑ってるけど、前と違う」
前と違う。
その言葉が、やけに引っかかった。
放課後、教室に一人残って、窓の外を眺める。
校庭で、アスターくんが誰かと話しているのが見えた。
……後輩の女の子だ。
その子は明るくて、距離が近くて、
でも、アスターくんは明らかに困っているようだった。
胸が、ちくりと痛む。
次の瞬間、理由の分からない違和感が走った。
――あれ?
目を凝らす。
アスターくんと、その子の間に、
見えない何かが、張りつめている気がした。
根拠はない。
ただの勘。
それでも、はっきり思った。
あの人は、誰かを遠ざけようとしている。
自分を守るためじゃない。
相手を、守るために。
ぞっとする。
もし、そうだとしたら。
――私が、原因なんだ。
理由は分からない。
でも、私が関わったことで、
何かが狂い始めた。
窓ガラスに映る自分の顔は、
笑っていなかった。
(アスター)
ノートに、箇条書きで条件を書き出す。
もう、感情だけで動くのは無理だった。
【確認事項】
・触れると、死亡フラグが見える
・接触頻度が高いほど、進行度が上がる
・距離を取っても、フラグは消えない
・一人を避けると、別の誰かに移る可能性あり
……最悪だ。
スズランを避けた。
その結果、モモに即死級のフラグが立った。
つまり。
世界は、誰かが死ぬ前提でバランスを取っている。
ペンを持つ手が、震える。
じゃあ、何もしなければ?
スズランにも、モモにも関わらず、
ただ、距離を置き続けたら。
答えは、すでに出ていた。
――何もしなくても、フラグは立つ。
救わないという選択も、
世界にとっては「一つの選択」だ。
スマホを取り出す。
《補足情報》
《死亡フラグは「原因の除去」ではなく、「結果の再配置」によって修正されます》
再配置。
助ければ、他に行く。
助けなければ、そのまま実行される。
どちらにしても、
誰かは死ぬ。
息が、うまく吸えなくなる。
俺に与えられたのは、
世界を救う力じゃない。
誰を犠牲にするか、選ばされる権利だ。
ノートを閉じる。
窓の外では、夕暮れが校舎を染めていた。
スズランが、どこかで俺を見ている気がした。
――理由を知らないまま。
それでも、
選択の時は、必ず来る。




