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クラス最底辺の俺、触れたヒロインの死亡フラグが見えるんだが助けたら世界が壊れそう  作者: shiyushiyu


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第39花 ズレは、彼女の周りから

 最初は、違和感と呼ぶほどのものじゃなかった。


「……あれ?」


 スズランが、空のロッカーを見つめて首を傾げる。


「今日、体操服ここに入れたはずなんだけど」


「別のロッカーじゃないのか」


 俺がそう言うと、彼女は首を横に振った。


「ううん。絶対ここ。

 昨日も、今朝も」


 断言する声に、迷いがない。


 結局、体操服は二段下のロッカーから見つかった。

 名前も、間違いなくスズランのもの。


「私、寝ぼけてたのかな」


 笑って済ませる。


 その笑顔に、

 ノートは――何も反応しなかった。


 赤い文字も、黒い文字も、出ない。


 それが一番、不気味だった。


 ●


 二つ目のズレは、授業中。


「白石、そこ答えて」


 教師に指されて、スズランが立ち上がる。


「はい。……えっと」


 一瞬、言葉に詰まる。


 黒板に書かれた問題は、

 昨日、彼女と一緒に解いた内容だった。


 間違えるはずがない。


「……あれ?」


 教室が、ざわつく。


 スズランは、問題文を見つめたまま、動かない。


「ごめんなさい。

 なぜか、数字が違って見えて……」


 教師が黒板を見直す。


「違ってないぞ。

 ここは最初からこの式だ」


 クラスの何人かが頷く。


 俺だけが、

 背中に冷たい汗を流していた。


 昨日、確かに別の数字だった。


 俺の記憶違いじゃない。

 ノートを開いて確認したわけでもないのに、

 確信があった。


 スズランが座るとき、

 一瞬だけ俺と目が合う。


 困ったような、

 少し不安そうな目。


 でも彼女は、

 何も言わなかった。


 ●


 三つ目は、放課後。


「アスター、ちょっといい?」


 スズランが、校門の前で立ち止まる。


「今日さ」


 言いにくそうに、指先を絡める。


「私、保健室に呼ばれたんだ」


「……体調悪いのか」


「ううん。

 それがね」


 小さく首を振る。


「“呼んでない”って言われた」


 言葉を、失った。


「でも、確かに放送で名前呼ばれたんだよ?

 クラスの子も何人か聞いてたし」


 スズランは、困惑しているだけだ。


 怖がってもいない。

 疑ってもいない。


「変だよね。

 最近、こういうの多くてさ」


 最近。


 その言葉が、胸に刺さる。


 ノートの異変が起きてからだ。


「……スズラン」


 呼び止めそうになって、やめた。


 今ここで何を言っても、

 彼女には“理由のない不安”しか残らない。


「ま、いっか」


 スズランは笑った。


「大きな問題じゃないし」


 その“問題じゃない”が、

 一番の問題なのに。


 ●


 家に帰って、俺はノートを開いた。


 スズランのページ。


 赤い文字はない。

 死亡フラグも、事故予測も、存在しない。


 代わりに、

 灰色の文字が一行だけ増えていた。


 【周辺事象:整合性低下】


「……周辺?」


 ページの端に、

 さらに小さな追記。


 【対象本人は影響を自覚しません】


 思わず、ノートを閉じた。


 自覚しない。

 だから、止められない。


 ズレるのは、記憶。

 位置。

 認識。


 そしてきっと、次は――

 結果だ。


 俺のポケットで、ペンが鳴る。


 まだ、一本も減っていないはずの

 “残り三回”。


 なのに。


 もう、

 世界は勝手に動き始めていた。

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