第2花 触れなければ、見えない
翌日から、俺は徹底してスズランを避けた。
視線を合わせない。
近づかない。
話しかけられても、最低限の返事だけ。
触れなければ、死亡フラグは見えない。
それが唯一の安全策だった。
「冷たくない? 最近」
昼休み、ダリアが机にもたれかかってくる。
距離が近い。意味ありげな笑み。
「本当はさ、助けたいんでしょ?」
無視する。
「えっとね、未来って、当たらないこともあるよ?」
カモミールが首を傾げる。
根拠のない言葉なのに、胸がざわついた。
「アスター先輩、今日も一緒に帰りましょ〜」
モモが腕に絡みつこうとして、寸前で俺が身を引く。
限界だった。
放課後、人気のない教室で、スズランと二人きりになる。
「……避けられてる気がして」
彼女は困ったように笑った。
「私、何かしましたか?」
触れていない。
だから、未来は見えない。
それだけで、少し安心してしまった。
「……違う」
それしか言えなかった。
立ち上がった彼女の袖が、
一瞬だけ、俺の指先に触れた。
見えてしまう。
夜の校舎。
屋上に立つスズラン。
誰もいない。誰も来ない。
彼女は自分で、柵を越える。
理由だけが、はっきりと分かった。
――世界のためなら、私一人でいい。
未来の中で、彼女は俺を見て、微笑った。
「ありがとう。
ちゃんと、優しくしてくれたから」
視界が戻る。
目の前では、何も知らないスズランが首を傾げていた。
「アスターくん?」
言葉が出なかった。
彼女の死亡フラグは、
俺に出会ったこと、そのものだった。




