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痴漢冤罪で異世界召喚された俺、3分だけ“聖女”になれた件

作者: 葛葉 灯花
掲載日:2025/10/14

「この人、痴漢ですぅ~!」


 毛先だけ赤い黒髪の女子高生が、いきなり俺の左腕を乱暴につかんだ。

 耳障りな甘ったるい声で叫びながら、ドヤ顔で俺を見上げている。

 周囲の侮蔑(ぶべつ)と嫌悪の入り交じったまなざしが、俺へと集中しているのが分かった。


『えん罪。ダメ、絶対。』


「俺、乗った時から両手でつり革をつかんでいますけど?」


「私が“痴漢”だって言えば、そうなのよ!」


『女子高生裁判。判決:即・有罪?……だと?』


「嘘はバレますよ。――それでいいんですか?」


 正直、脳みその血管ブチ切れそうだが、あくまでも冷静を装うことに集中した。


『この国の電車にはな、監視カメラがあるんだよ。ログを見れば秒でカタがつく……マジで世の中舐めすぎだろう!』


 でなければ、正直、ここまで冷静ではいられないのだが。


「ハア?私が痴漢って言ってんだから、あんたは大人しく慰謝料を出しなさいよ。5万で許してあげるわ!」


『このガキ、話が通じねぇ……。』


 そんな時である。


「嘘をついているのはそっちでしょう?」


 突然、女性の声が電車内に響き渡る。

 声がする方へ視線を向ければ。

 パンツスーツ姿と黒髪ショートヘアがよく似合う、知的眼鏡美人がそこにいた。

 

「あなたのやっていることは、誰がどう見ても犯罪よ。次の駅で映像を確認したら、一緒に警察へ行ってもらいます!」


 彼女の襟元には、中央に天秤てんびんが記されている金色のバッジがついていた。


『職業:弁護士とかマジ神。ホント助かる!』


 周りの人たちを見渡せば、完全に風向きが変わったことは理解できる。

 なぜなら今度は女子高生へと、疑惑の目を向けていたからだ。

 そんな中。


「私も、彼の無実を証言しますよ!」

 

 そう言って手を上げたのは、まるで彫刻のように整った顔立ちの、別次元の超絶金髪イケメンだった。


「ありがとうございます、助かります!」


 見ず知らずの俺を助けてくれる。

 正直、感謝しかない。


「はぁ~、やってらんない!」


 女子高生は悔しそうにそう吐き捨てると、きびすを返した。


「待ちなさい!」


 金髪イケメンが、女子高生をとっさにつかむ。


 ――と、そのとき。

 床が白く焼けるように光り、視界が飽和した。


 瞬きをした瞬間……。


 目の前の光景が、一気に変わった。

 そこは、薄暗い石に囲まれた部屋だった。

 床を見れば、焦げ跡が円と紋様もんようを描いている。

 周りを見渡せば、知らないローブの集団がいた。


「やったー!」


 泣き笑いしながら抱き合っている。

 部屋は歓声で満ちていた、そんな中。


「あの人ですぅ~!」


 突然、聞き覚えのある女の声が、耳に届く。

 

「あの者を捕らえよ!」


 若い男の鋭い声が、部屋中に響き渡ると同時に、他の声がピタリと止まる。

 同時に俺の周りに集まったのは、中世の騎士のような甲冑かっちゅうを着込んだ連中。

 あっという間に俺は取り囲まれ、鋭い武器の矛先を向けられた。


 嫌な予感しかしなくて、声のする方を見てみれば。

 あの迷惑な痴漢えん罪女子高生が、そこにいた。

 アニメに出てくる貴族みたいな格好をした、赤髪の男と共に。

 どうやら彼が、先ほどの声の主らしい。


「あの人、私にひどいことをするんですぅ~。わたしぃ~、阿合真理子あごうまりこっていいますぅ~。マリリンって呼んでくださぁ~い。」


 キモイぶりっこな甘ったるい声で、赤髪の男に訴えるえん罪女子高生。

 赤髪の男は、汚いものを見るような目で俺を見ると。


「なぜ下賤が紛れ込んでいる?」


 とても失礼なことを言ってきた。

 

『おまえどんだけ偉いの?ってここドコ!?』


 赤髪の男は、黙っている俺を見下ろし、馬鹿にしたように“フンッ”と鼻を鳴らすと。


「マリリンの毛先と、私の髪の色が同じだ。コレは、きっと運命なのだ!ちなみにそこの男は、サクッと首でも落としておけ!」


 と興奮気味に、周りに意味不明なことを言い放った。


『は?サクッと首落とすって。「ちょっとそこの木の枝を切っといて!」 みたいなノリで?って首落とす対象、俺!?』


 ついさっきまでえん罪逆転劇で、あんなにラッキーだったのに?

 あれか?

 俺の一生分の幸運、全部使い切ったのか?


 否。

 まだ、使い切ってはいなかったようだ。


「バン!!」


 という大きな音とともに、部屋の扉が乱暴に開かれた。

 気がつけば、金髪碧眼きんぱつへきがんの騎士が、俺をかばうように背中を向けて立っている。

 騎士は、赤髪の男に向かって。


「彼は第一騎士団で保護いたします。」


 冷静にそれだけを言い放ち、気づけば俺を安全な場所へと、連れて来ていた。

 恩人である彼の名は、リュシアン・ホーフェン。

 この国、ルーディエンス王国の、第一騎士団長をしているらしい。

 この爽やか金髪イケメンには、正直感謝しかない。

 ちなみに赤髪の男は、この国の第一王子なのだという。

 名前は、ギルベルト・ルーディエンスというらしい。

 

「サトゥー殿。不便をかけて大変申し訳ないのだが、国王が帰ってくるまで、我々の指示に従ってもらえないだろうか?」


 この世界では俺の名前=佐藤涼介さとうりょうすけは、発音が難しいらしい。

 ちなみにあのクソ女の名字は、「阿合あごう」が「アフォ~」だからな。

 いい気味だ!


「はい。こちらこそありがとうございます。あの女の言うことを鵜呑うのみにしないでもらえて、助かりました。」


 感謝の意を込めて深くお辞儀をする。


「身分や容姿目当ての“嘘”は山ほど見た。だから、警戒もするさ。」


 彼の言葉には、呆れと疲れがにじみ出ている。

 意味ありげに、そっと足元に視線を落としたホーフェン騎士団長は、哀愁の漂う、男の色気だだ漏れの超絶イケメンだった。


「これだけのイケメンだと、女性問題多そうですよね。」


 なんて、冗談混じりに言っただけなのに……。


「分かるのか!」

 

『アレ?俺、言葉の選択間違った!?』


 何が彼をそうさせたのか?

 突然始まる、騎士団長の女難の歴史物語。

 赤子の頃から、誘拐未遂は当たり前。

 身分に関係なく、襲われそうになったことは数知れず。

 送られてくるものといえば、鉄臭い血判付きの婚姻届に、生爪や大量の髪の毛の入った手紙等々。

 お茶会や晩餐会ばんさんかいなどに行けば、毎回“睡眠薬or媚薬(びやく)時々毒薬ガチャ”に会う。

 次から次へといまだ止まることなく、まるで無限に湧き出る泉のように話題が尽きないホラー(苦労)話。

 気がつけば、すでに真っ暗になった空には、星が瞬いてる。


「ああ、もうこんな時間か。どうしてだろう?リオスク(涼介)?とは今日が初対面のはずなのだが。俺たちはよほど、気が合うらしい。」


――その笑顔、女性の前では絶対しない方がいいと思います!――


 気がつけば、お互いを名前で呼び合う仲になっていた。

 ちなみに俺は彼のことを、愛称である“シアン”と呼んでもいいらしい。


 夕食は、ちょっと固いパン。

 そして、何かの固い肉のステーキに、サラダとスープだった。

 おいしかったのだが、シアンにもらった友情の証?の指輪の紫色の石が、食事中ずっと光っているのは、少し気になるところだ。

 最近徹夜続きだったからなのか、シアンの女難話で緊張がほぐれたからなのか。

 久々に朝まで、ぐっすりと眠ることが出来た。


 翌朝。

 目を覚ますと、窓がごっそり外され、職人たちが新しいガラスをはめ込んでいた。


「おはようございますー……って、夜中に何かあったんですか?」


「いえ、まあ……ちょっとしたことです。」


 職人は、なぜか視線を合わせず、駆け足でいなくなった。


 その後。

 昼過ぎにシアンがやってきたので、指輪のことを伝えたところ。


「身を守るため、指輪は絶対に外さないでほしい!」


 そう言い放つなり、険しい表情でどこかへ行ってしまった。

 

 この指輪って、俺を守ってんの?

 指輪の石が光るたびに、護衛の騎士の顔面が、真っ青になるんだけど!?

 そのたびに、護衛につく騎士が、一人、また一人と増えていくんだけど!?

 

 騎士団員は皆、気さくないい奴らばかりである。

 俺のために生活魔法や文字、通貨の使い方や簡単な護身術まで教えてくれるし。

 正直、ありがたい存在なのだ。


 さらに次の日。

 目が覚めると、床は一面水浸しで壁には無数の穴が開いており、ドアは粉々になっていた。


「おはようございます。もしかして、リフォームですか?」


 昨日と違う職人は、俺を見るなり空を見上げる。


「え?ええ、まあ……。」


 それだけ言うと、視線を合わせることなく、足早にいなくなった。


『やっぱりそうかぁ。気を遣わせてるのかな?俺』


 さらに次の日の朝。

 目が覚めると、大がかりな屋根の差し替えが行われていた。


『今度は屋根替えかあ。いつ完成するのかなあ?』


 こんな感じで連日、俺の部屋だけがリフォームされる中、気がつけば2週間が経過していた。


 そしてついに、国王夫妻が帰還したらしい。

 俺は、王の間へ半ば強制連行されて、今、ここにいる。


 王子と同じ真っ赤に燃えさかる髪色をした、威厳バッチリの国王。

 隣にいる王妃は、穏やかな感じの美人だ。

 

 二人は俺の姿を確認するなり、息ぴったりに玉座から立ち上がる。

 それから流れるように床に正座して、上半身を折り曲げ、床に額をこすりつけた。


 日本のお家芸うちげい、『土下座』である。


 二人の姿を確認した周りにいる貴族たちも、次々と土下座をしていく。

 この部屋に入って数分で、なんともカオスな光景ができあがった。


『は?異世界土下座祭り開幕!?』


『それともお偉いさんのドミノ倒し?俺、どうしたらいい?』


「頭をお上げください。誰か状況の説明をお願いします!」


 その一言で、全員が規則正しく、元の位置へと戻っていった。


『あれ?ここって軍隊……?』


 そんなことを思っている間に、国王の話が始まった。


 簡単に説明すると。

 

 国王夫妻が隣国の婚礼で外遊していた隙に、ギルベルト王子が禁呪〈聖女召喚〉を独断で発動した――しかも片道きっぷ。


 その結果、なぜか“二人”落ちてきた。

 若い女は自動的に聖女認定で問題ないが、もう一人(俺)は“ついで”だから処刑でいいや!という雑な扱いだったらしい。


 『もちろん、そんなことはさせないがな』と国王。

 ──はい、命の保証、言質取りました。


 さらに悪いことに、マリリンは「謝罪として関係者全員に土下座」を皮切りに、豪奢な部屋・宝石・衣装・グルメを延々と要求。


 王子は「聖女を呼んだ俺スゴイ!」と増長し、城内は混乱、国庫は悲鳴、組織は阿鼻叫喚あびきょうかん


 そして極めつけは、平穏期に禁呪を乱発した反動で世界の均衡が崩れ、各地に強力な魔物がすでに湧いており――この王国は今、滅亡の危機らしい。


 以上のことから、国王夫妻の胃は、限界を突破していた。


 気づけば、爽やかな青空が、すでに夕日で真っ赤に染まっている。


「状況はわかりました。で?俺に何をどうしろと?」


「私の活躍を、とくとその目に焼き付けさせるためよ!その前に、さっさと慰謝料を払いなさい!そして死ね!バーカ!」


 話の内容が長いのと悪い意味で凄いのとで、今まで気がつかなかった。

 その後ろに控えていたであろう、バカ王子とクソ女の存在を。


 クソ女もとい、マリリンはどこぞやの悪役令嬢がごとく、玉座から俺を見下し、高笑いをしている。

 

『2週間ぶりだけど……何がどうしてこうなった!?』


 豪華絢爛ごうかけんらんフリル満載!のピンク色の悪趣味ド派手なドレスに身を包んだマリリン。


 10本の指全てにそれぞれ色違いの宝石のついた指輪をはめ、首にぶら下がる大粒の真珠のネックレスは、まるで破戒僧の数珠のようである。


 そして、何よりも気になるのは……。

 ピエロのような厚化粧、恥ずかしくないのか!


「はあ~?活躍?」


「そうよ!聖女である私の初仕事。冥土の土産として、あんたに特別にみせてあ・げ・る。」


「だが断る!」


 きちんと断ったはずなのに……。



 次の日。

 気づけば、魔物大襲来の最前線にいるのはなぜ?

 見知った第一騎士団の皆さんがそばにいるから、なんとか平常心は保てている……ハズ?


 そして……。

 現状は、とても劣勢で悲惨だった。

 なんせアフォ~マリリン聖女様がポンコツ……使い物にならない!


「え?なんで?どうして?私が聖女なのにー!ウッキー!」

 

 動物園のメスのチンパンジーなごとく、雄たけびを上げながら頭を抱えている。

 その間にも、魔物の数は全く減らないというか、どんどん増えている?!


 想像以上のスピードで増えていく魔物の数に押され、次々と倒れていく兵士たち。

 そして、第一騎士団の皆さんまでもが、次々と地面に伏していく。

 よく見れば、俺をかばいながら戦っているシアンまでもが、赤く……血に染まっていく!?


「オイ神様!いるならなんとかしてくれよ!?」


 そう願った瞬間……。


『やっと、見つけた~!』


 聞き覚えのある、若い男性の声が聞こえた。

 突然現れた、真っ白で何もない空間。

 そこにいるのは……。

 痴漢えん罪でお世話になった、あの超絶美形金髪イケメン!?

 なぜか、古代ローマ人みたいな格好をしている。

 頭の上には、円状の蛍光灯みたいなのが、光り輝いていた。


『僕が、この世界の責任者。君たちの言うところの創造神。一番偉い神様だよ~ん!』


 最初のイメージと違うんだが?

 そして、彼の説明という名の言い訳によると。

 

 無理矢理に行われた、異世界召喚を察知し、事態を収拾するため、聖女をお迎えに行く。


 しかし、俺の痴漢えん罪事件に巻き込まれ、間違ってマリリンと俺を異世界へとばしてしまう。だからマリリンに“聖女の力”はゼロ。


 本来の聖女はあの時俺を助けてくれた、知的眼鏡美人の女弁護士。


 突然の巻き込まれ事故処理で、俺を探すのが遅れてしまったらしい。


「で、どうする、この状況!」


『そこで、君の出番です!』


 突然、俺の両肩をがっつりとつかんできた、ドヤ顔創造神様。

 その笑顔、不安要素でしかないのだが!?


『変身して!』


「は?」


『ほら、こんな感じで!』


 創造神はキレッキレな動きで、見覚えのある昔懐かしの藤○弘風“初()()()()()()ー変身シーン”を完コピしてみせた。


『君の頭の中に、これがあったんだ!かっこいいから、これやって!』


 気づけば、俺の腰には大きな変身ベルトが巻かれている、だと?


「人の生死を左右するシリアスなこの状況で、それをやれ……と?」


『大丈夫!君が《()()》でも、光で包んで目隠しするし!』


 得意げに、親指を立てる創造神。


「《()()》とは?」


 いつの間にか、眩い光が視界を満たす。


「じゃ、じゃあ……変……身?」


 “《()()》”というワードに、戸惑いながらも、叫んだ瞬間!

 

「え?この聞き覚えのある音楽は……。」


 変身シーンで流れる音楽が、なぜか小さい頃に、2歳年上の姉がはまっていた“美○○戦士セー○ームー○”のお着替えシーンになっているのだが!?


「やっぱり、音楽も《()()()()()()》ね!」


「《()()()()》とは?!」


 創造神の言葉に一抹の不安も束の間、いつの間にか光は消え、血なまぐさい戦場の空気が戻る。


 と同時に、兵の動きが止まり、次には魔物の動きも止まった。

 一斉に向ける視線の先にいるのは、もちろん、俺!?


「せ……聖女……様?」


 近くにいるシアンが目を見開き、俺を見るなりそうつぶやくと……。


「聖女様!」


「聖女様だ!」


「これぞ本物の聖女様!」


 そんな声が、あちこちから聞こえてくる。


「ハア?何を言って……。」


 そこで戸惑う俺。

 声が……めっちゃかわいい女の子なんだが!?


『これが今の君だよん!すっごく似合っている!素敵だよ!』


 創造神が鼻息荒く胸を張ると、俺の脳裏に映像が流れた。

 この世のものとは思えないほどの、一人の美しい女性の姿が。


「え?これって、黒髪だけど小さい頃にはまっていた“○戦士○矢のア○ネ”じゃねーかー!」


 純白のロングドレス。

 透き通るような白い肌と、艶やかな美しい髪を持つ、神話画から抜け出たような美女。

 それにしても……。

 あの、大きな変身ベルトの必要性は?

 いつの間にか、変身ベルトは姿を消していた。

 創造神は、神様の如く(いや、神様なんだけど……)神託を下す。


『さあ、君がこの世界を救って!』


 ……といわれましても。


「どうしろと!?」


『え?ああ。今から言う呪文?を唱えて、拳を天に振りかざせば、一発で解決するよ!』 


 説明しながら脳裏に映し出された映像は、とある“ロボットアニメの決め台詞”と、“北○の○”で拳を天に掲げる、○王様の姿だった。


「創造神さんよ、俺の黒歴史、えぐってない!?」


『今はそんなこと、どうでもいいでしょ? 早くしないと、時間がないよ!?』


「はぁ?」


『だって、聖女の時間は、3分間だからね!』


「なぜ、タイムリミットを装備した!?」


 ……ピコン。残り二分です。


『正体を知られたくないヒーローに、タイムリミットはつきものなんでしょう?』


「説明が、軽くね?」


『そ~かな~』


 ……ピコン。残り一分三十秒です。


『早くして! 時間がなくなっちゃう!』


 何故に逆ギレ!?


 ……ピコン。残り一分です。


『もう時間ないよ!早く早く~!』

 

「クッ!笑いたければ、笑うがいいさ!!」


 大きく深呼吸をして……。


 ……ピコン。残り三十秒です。


「俺のこの○が真っ赤に○える!勝利を○めと○き叫ぶ!ば~く烈、○ッド・フィ○ガ――!!」


 そう叫び、左手拳を天高く突き上げた。


 その時である。


「は?」


 空から、目を開けているのが難しいほどの、無数の光が降り注いだ。

 と同時に魔物の姿が、次から次へと灰と化して消えていく。


 よく見れば、すべての人たちの傷が消えていき、血や泥にほこりまみれの汚れはすべて、きれいに取り除かれていた。




 ……ピコン。残り十秒です。




 ――世界は静かになった。――


 凶悪な魔物たちの姿は、もはやどこにも確認できない。

 こうして、無理矢理に召喚術を実行して魔物の軍団に襲われた王国は、一人の聖女に救われたのであった。




 王国に平和が訪れた後、俺はさらなる事実を知るハメになる。


 俺の指輪が食事のたびに光ったのは、王子とマリリンに脅された料理人が、毎回すべての料理に毒を仕込んでいたからだ。

 ちなみにシアンからもらった指輪は、毒の無効化に特化した厳重管理対象の国宝だった。


 シアンには、感謝しかない!

 これからも、いい友情を築いていこうと思う。


 毎朝恒例となっていた“俺の部屋だけリフォーム”の件についてだが、これも王子とマリリンが国庫をふんだんに使って雇った暗殺者が原因だった。

 毎晩やってくる刺客たちを結界が跳ね返した(撃退した)痕――と、のちに知る。


 どうやら俺は、召喚されたその日から、毎日命を狙われていたらしいのだ。


 アフォ~マリリンを「アフォ~様」と呼んだ者は皆、地下牢ちかろうにぶち込まれ、彼女、ときどき王子から“お仕置き”という名の拷問ごうもんを受けていたらしい。

 毎回、シアン率いる第一騎士団に秘密裏に救出され、保護されていたのだとか。

 結果、今回の一連の騒動を起こした第一王子は王位継承権を剥奪。

 これからは一般市民として暮らすことになった。


 ただの一般市民になった偽聖女アフォ~マリリンとは、あえて夫婦にして、はる彼方かなたの辺境へと追放。


 マリリンと勘違い王子へと貢がれた、国庫による贅沢ぜいたくの品々はすべて没収され、足りない金額は働いて返すことに。


 自分たちが拷問をした人々から、同じ拷問をやり返されるという、きついお仕置きも待っていた。

 その傷も癒やされることはなく、着の身着のままボロボロの二人は辺境へと向かう道中、どこに行っても国民から石や卵を投げつけられる。


 繰り返し行われる見ず知らずの他人からの、暴力と暴言の数々。


 新しい住処の辺境では、生活費を稼ぐことから身の回りの世話まで、全て自分たちでしなければならない。


 横暴な態度を改めない二人は、誰の協力も得られず、孤立無援状態なのだとか。

 毎日、お互いを罵り合って、取っ組み合いのけんかをしながら過ごしているらしい。


 ――――仲がいいのは、よきことかな。――――

 

 そして今、平和になった王国の新たな問題といえば……。


「この国を救ってくれた聖女様となら、是非とも結婚したく存じます。」


 そう国王に進言しているのは、この国の第一騎士団長、リュシアン・ホーフェン(25歳)。

 本当の名はリュシアン・ルーディエンス。現国王の年の離れた弟だった。

 ホーフェンは、母方の姓らしい。


 一人息子の王子が廃嫡になったため、次期国王は弟の彼に決まったのだ。

 国王となるからには、当然伴侶が必要になるわけで……。


 女性不信のシアンが唯一お認めになった生涯の伴侶は、この王国を救った英雄である聖女様。

 そのため国中が一致団結し、花嫁《聖女》捜しが行われている真っ最中なのである。


 なぜ、探しているのか?

 もちろん、バレていないからである。


 ……俺、頑張ったし!


 聖女に変身して、全てを成し遂げた後。

 残った聖女の力を振り絞り、遠くへ瞬間移動することに成功。

 変身解除がギリギリだったので、マジ危機一髪だった。


 「ピコン……。」


 カラー○イマーの音が止んだ瞬間、無事に元の姿(男)に戻れたのだが。

 あと1秒でも遅ければ、「聖女からの俺」を世にさらすところだった。

 そうなれば……。

 考えただけで、ゾッとする。


 なのに……。

 絶対にバレていないはずなのに……。


 シアンは毎日、俺の元へやって来る。

 そして、毎回、俺を試すように――。


リオスク(涼介)?聞いてくれ!……聖女様に私の全てを捧げよう!」


リオスク(涼介)?全てを敵に回しても、私だけは……聖女様を絶対に裏切らないと誓うよ!」


リオスク(涼介)?私の愛で、……聖女様の全てを満たして差し上げたい!」


「私は、聖女様に永遠の愛を誓うよ!」


 と、プロポーズまがいのことを言ってくるのだ。

 その度に、全身から脂汗が吹き出し、体がガタガタと震え出す。

 照れているのか、「聖女様」のところだけ真っ赤になり、声が極端に小さくなる――十代の思春期か!


 こっちは恐怖でしかないのだが!?


『ヤバイ!俺の貞操の危機!』


 30歳を過ぎた童貞は、魔法使いになれるとは聞いていたが、聖女になるとは聞いてない!

 創造神からは、なぜか結婚祝い(Yes/No枕やきわどい女物の下着?)が毎日のように届く。


 ――創造神よ!ちょっと話があるから降りてこい!――


 窓の外では、今日も聖女をたたえる歌が、夜風に流れている。

 ――バレたら死ぬほど恥ずかしい秘密と、平和な国。

 しばらくは、どちらもしっかりと守るつもりだ。



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