漫才 “フライパンが思いつかない人”
『ねぇ、結構有名ななぞなぞで、多分みんな子供の時とかに聞いたことあると思うんだけど、“パンはパンでも食べられないパンはなーんだ?”っていうのあるじゃん』
「・・・?・・へー。」
『あれ?聞いたことない?問題も答えも結構有名なんだけど。』
「知らない」
『あーそう。まあ、知らない人もいるか。』
「答えは何なの?」
『何だと思う?』
「・・・うーん、カビてるパン?」
『あー、確かに食べれないけど、それじゃ普通じゃん。違うよ。あと飢餓の極限状態で、お腹壊すリスクを恐れなければ食べる場合もあるので不正解。』
「えー?泥が付いてるパンは?」
『それも不正解。さっきと同じで、飢餓の極限状態なら、食べる場合もあり得るから。もっと違う切り口の答えなの』
「あーじゃあ、一斤五千円の食パンとか?」
『あー確かにそれは手が出ないね。高級食パン流行ってるし、どんな味だろう?って気になるけども、五千円は確かに無理。でも違う。不正解。だって大金持ちの人なら食べられるもん。知らんけど。』
「えー?何ー?わからん」
『なぞなぞなんやから、ちょっと言葉遊び?のひねりが入ってるの。』
「・・・どういう事?」
『だから掛け言葉を使った答えなの』
「掛け言葉・・・?」
『あと、食べ物とは限らないよ』
「食べ物じゃない?!あ、それありなの?」
『何だと思う?』
「・・・膝ぐらいの、長さのズボン?」
『?・・・・・・あ、短パンね!そうそう、そういう事。ちょっと一番有名な答えとは違うけど、そういう事。それも正解。他にも考えてみて』
「デニムの、ズボン?」
『ジーパンも、正解だけど、有名な答えとは違う。』
「えー、・・・海水浴の時に履くやつ?」
『海パン?それも正解やけど、一旦、履くやつから離れよう』
「南国リゾートのある島」
『サイパンは、子供知らんやろ。バブル期に流行った旅行先や。それ自分が行きたいだけやん。海パン履いて。違う。もっとよく使う、身近なもの。』
「えーもう思いつかない。・・・麻雀で使う、白い字牌?」
『それ何?知らない』
「知らないよね。子どもも知らないし身近でもないし、今のナシ、今のナシ」
『あー、ヒントは、キッチンにあるもの。』
「キッチン・・・。あっ!」
『おっ』
「誰かの食べ残し?!」
『・・・残飯?』
「うん」
『残飯は・・・不正解じゃないかな?普通は食べないけど、飢餓の極限状態では、』
「飢餓の極限状態て何?それ。そんなの想定して生きてないし。いくらお腹空いてもそんなものは食べちゃダメ。体壊すよ」
『・・・長引く不況、続く悪政、この国は今、どんどん、貧しくなっていってる。このまま行けば、そのうち飢餓の極限状態がもっと頻繁に起こる社会がやってくる。そういう時に備えて、今のうちから飢餓の極限状態を想定して生きていないと』
「子供向けのなぞなぞなんでしょ?なんでそんな夢のない話が出てくるの」
『・・・社会が貧しくなっていった時に、一番理不尽に割を食うのは子供達なんだ。』
「負けず嫌いだねえ」
『今、子供の貧困が社会問題化してて、心あるボランティアの人が子供食堂を開いたりして助けてるけど、これは根本解決にはなってなくて、本来は行政がもっと力をいれて支援策を、』
「あーもういい。わかった。もういい。もういい!」
『・・・本当に食べられないパンを教えてやろうか?それはな、目の前に飢えた子供達が大勢いる時に、自分だけしか持ってないパンの事だよ・・・。』
「・・・食べれないね。」
『でもそれだって不正解だ。そんな時でも平気で食べる、凄く無神経な人だっている。それにもしも、自分も飢えていたら、食べてしまうかもしれない心の弱い人だっている。』
「酷いね」
『酷いけどそういう人はいるんだ。そういうものなんだ。貧しさってそういうものなんだ。だからそんな状況を決して作ってはいけない!でもこのままではそんな状況がどんどん増えていくんだ!それは防がなくてはいけない!みんな!デモに行こう!』
「ちょっと待って」
『国会議事堂前に集まろう!』
「ちょっと落ち着こう」
『シュプレヒコールをあげろー!』
「落ち着いて!」
『・・・。』
「・・・なんの話だっけ?」
『・・・なぞなぞ』
「・・・で、答えは何なの?・・・一番有名な答え。」
『・・・フライパン。』
「何それ、全然面白くない。」