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第三部:芽吹く希望

◆ 第6章:共に目指す未来


フェンス越しの交流を通して、リヒトとエレノアの間に信頼関係が芽生え始めていた。

最初はぎこちなかった会話も、次第に打ち解けたものになっていく。

お互いの本音を話せる、唯一の場所。それが、あの隠れたフェンス沿いの場所だった。


リヒトは、公爵家の後継者として、いずれは広大な領地を治めることになる。

そのため、学園で貴族の教養を学ぶだけでなく、将来を見据えた勉強を始めた。

「父上の領地は、農業が主な産業らしい。でも、最近は収穫量が減ってきてるって聞いた」

フェンス越しに、リヒトはエレノアに話した。


「農業……私の家も、昔は農地を持っていたわ。でも、借金のカタに取られてしまったけど」

エレノアの声には、少しの寂しさが含まれていた。

「俺は、領地の状況を改善したいと思ってるんだ。新しい農法とか、流通の仕組みとか、色々勉強してる」

リヒトは、学園の図書館では手に入らない専門書を、街の古書店で見つけて読んでいた。貴族学校の授業だけでは足りないと感じていた。


「すごいわね。私なんて、明日を生きるだけで精一杯なのに」

エレノアは自嘲気味に笑った。

だが、リヒトは真剣な眼差しでエレノアを見つめた(フェンス越しだが)。

「お前は、これからどうしたいんだ? ダメ学校を出て、どうするつもりだ?」

エレノアは一瞬言葉に詰まった。

将来のことなど、考えられる状況ではなかった。

ただ、目の前の困難を乗り越えることで精一杯だった。


「……わからない。でも、このまま終わりたくない。もう、誰にも馬鹿にされたくない」

エレノアの言葉には、強い決意が宿っていた。

貴族学校を追われ、ダメ学校でいじめられた経験が、彼女を強くしていた。

「なら、目標を持て。何をしたいか、何になりたいか。それが、お前を強くする」


リヒトの言葉は、エレノアの心に響いた。

目標。

これまで、エレノアはただ現状から逃れることだけを考えていた。

だが、リヒトの言葉を聞いて、初めて将来について具体的に考え始めた。

「……私、服飾が好きだったの。母様がドレスを仕立ててくれるのを見るのが好きで」

エレノアは、幼い頃の記憶を辿るように話した。


「貴族学校にいた頃は、流行のドレスとか、高価な装飾品とか、見ているだけで楽しかった。でも、今は……」

エレノアは言葉を濁した。

今の自分には、そんなものとは縁がない。

「なら、自分で作ればいいんじゃないか? お前がデザインして、お前が作る。誰にも真似できないような、素敵な服を」

リヒトの提案に、エレノアは目を見開いた。

自分で服を作る? そんなこと、考えたこともなかった。


「私に、そんなことができるかしら……」

「できるさ。お前には、貴族学校で培った知識と、ダメ学校で身につけた根性がある。それに、前世でだって、お前は賢くて、色々なことに興味を持っていたじゃないか」

リヒトの励ましに、エレノアの心に小さな希望の光が灯った。

自分で服飾ブランドを立ち上げる。

それは、遠い夢物語のように思えたが、同時に、エレノアが心から惹かれる目標でもあった。


「……やってみたい」

エレノアは、震える声でそう言った。

「よし! なら、俺が手伝う。俺は領地経営を学ぶ。お前は起業を志す。お互い、違う分野だけど、目指すところは同じだ。自分の力で、この世界を生き抜くこと」

その日から、夜になると、二人はあのフェンス沿いの隠れた場所で語り合うようになった。

リヒトは領地経営について学んだことを話し、エレノアは服飾のアイデアや、起業について調べて分かったことを話した。


リヒトはエレノアに、経営の視点からアドバイスをした。

市場調査、コスト計算、ターゲット顧客の設定など。

エレノアは、リヒトの知識に感心し、それを吸収していった。


エレノアはリヒトに、デザインのアイデアや、服を作る喜びについて話した。

リヒトはエレノアの話を聞くのが好きだった。

彼女が夢を語る時の、生き生きとした表情を見るのが。

フェンス越しの会話は、二人の絆を深めていった。

昼間はそれぞれの世界で孤独に戦っていたが、夜になれば、ここでお互いを励まし合い、支え合うことができた。


「俺は、お前が立ち上げたブランドの、最初の顧客になるよ」

「ふふ、ありがとう。リヒトのデザインした服も、いつか着てみたいわ」

そんな他愛もない会話が、二人の心を温めた。

前世では叶わなかった、共に歩む未来。今世では、それぞれの夢を追いながら、共に成長していく未来が、かすかに見え始めていた。

しかし、二人の間に芽生えた希望の光を、妬みや欲望の影が見つめていた。



◆ 第7章:迫る影


リヒトとエレノアがそれぞれの夢に向かって歩み始めた頃、彼らの前に立ちはだかる影が濃くなってきた。

ヴェリタス学園のリーダー的存在であるゼクスは、エレノアに執着していた。

最初は単なるいじめの対象として見ていたが、エレノアが自分に反抗し、強くなっていく姿を見て、興味を持つようになった。

そして、それは歪んだ独占欲へと変わっていった。


「ヴァレンシュタイン、俺のものになれよ。俺の言うこと聞いてりゃ、この学校で一番楽に過ごせるぜ?」

ゼクスは、エレノアに露骨な誘いをかけてきた。

「断るわ。私は、誰かの言いなりになるつもりはない」

エレノアはきっぱりと断った。


ゼクスの誘いに乗れば、一時的に楽になるかもしれない。

だが、それは自分の夢を諦めることと同じだ。

ゼクスはエレノアの拒絶に、怒りを露わにした。

「生意気な女だ。そのプライド、へし折ってやるよ」

ゼクスはエレノアへの嫌がらせをエスカレートさせた。


彼女が一人でいるところを待ち伏せしたり、彼女の物を壊したり。

ヴェリタス学園の生徒たちの前で、エレノアを貶めようとした。

ダメ学校という無法地帯で、ゼクスの力は絶対的だった。

エレノアは孤立無援の状況に追い詰められていく。


一方、ロイヤル・アカデミーでは、伯爵令嬢のアメリアがリヒトへの執着を強めていた。

リヒトが公爵家の子息であること、そしてその優秀さに、アメリアは目をつけたのだ。

リヒトと結婚すれば、アメリア自身の地位も盤石になる。


「リヒト様、なぜ私を避けるのです? 私では、公爵夫人にふさわしくないとでも?」

アメリアは、貴族学校のパーティーなどで、リヒトに詰め寄った。

「アメリア嬢。俺はまだ学園に慣れていない。それに、今は勉強に集中したい」

リヒトは当たり障りのない言葉でかわそうとした。


「勉強なんて、後でいくらでもできるでしょう? それより、わたくしとの関係を深める方が、リヒト様のためになりますわよ?」

アメリアの言葉の裏には、明確な脅迫めいた響きがあった。

彼女はリヒトが公爵家の落胤であること、そして貴族社会でのコネクションがまだ弱いことを知っていた。

自分の家柄や人脈をちらつかせ、リヒトを言いなりにさせようとしていた。


アメリアは、貴族学校の他の生徒たちを使って、リヒトに関する悪評を流したり、リヒトの行動を監視させたりもした。

リヒトは、自分を取り巻く貴族たちの闇を改めて感じていた。

前世で経験したような、権力争いや裏切りが、この世界でも繰り広げられている。


ゼクスとアメリア。

ダメ学校と貴族学校、それぞれの世界の悪役が、リヒトとエレノアに牙を剥き始めた。

彼らは、リヒトとエレノアが互いに支え合っていることを知らなかった。

知っていたとしても、そんな絆など、自分たちの力で簡単に引き裂けると考えていた。


ゼクスはエレノアを自分の意のままにしようと、アメリアはリヒトを自分のものにしようと、それぞれが画策する。

リヒトとエレノアは、それぞれの場所で、人間関係の複雑な壁にぶつかり、追い詰められていく。

フェンス越しの交流だけが、二人の心を繋ぎ止める唯一の光だった。

だが、その光も、迫りくる影によって脅かされ始めていた。

二人の夢と絆は、これらの障害を乗り越えることができるのだろうか。

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