紡ぎ
「気持ちわるぅういぃ、もう船旅嫌だぁ」
夜は情けなく唸ってる。
こいつは、今回の依頼でかなり散々な目に合っている。
不意打ちでボコボコにされて、休む暇もなくまたケンカ。
依頼が終わったら、今度は苦手な小型船での移動。
ちょっとかわいそうになってきた。
「あと一時間耐えろ。俺ゲロだけは本当にダメなんだからな」
「そんなこと言われても……ウッ」
今回の依頼はかなり大変だった。
というか、依頼はこなせていないんだけども……。
この島で結ばれた新しい絆。
青春を見れた気がする。あの四人の恋。
家族を思う優しい一人の友達。
彼らがどんな道を進むのか。
それは分からない。けれど、いつかまた会えたら。
その時は、再会を喜んでお互い笑いあえたらいいな。
じゃあな、葵。じゃあな、泉五島。
「向こう戻ったら、すぐ仕事だぞ! 今回、依頼料もらえてないんだから!」
「仕方ないだろ! 奪われたんだから! うっぷ……」
「おいおい、本当に吐かないでくれよ。俺の為にも……」
***
「お邪魔します……」
前にもお邪魔したことはあるけど、やっぱり緊張する。
彼氏の家なんて緊張しないわけがない。
扉を開けた時にフワッとただよった木の香り。
和風モダンのお家は、心地よさを感じる。
緊張と、安心という矛盾した感情の落差で、まだ玄関なのに体力は限界に近い。
「いらっしゃい! 伊織」
颯太は、私の横でニコッと満面の笑みで迎える。
アセビという呪縛、犯罪者たちによる恐怖から、私達は解放されて私たちに笑顔が取り戻された。
「こんにちは、伊織さん」
リビングから、颯太の妹さんがひょこっと顔を出して、挨拶をしてくれた。私も、頭を下げて挨拶をしたら、逃げられてしまった。
私が嫌われているのか、それとも妹さんが颯太のことを好きすぎるのか、もしくはその両方か……。
「あぁ、逃げやがったあいつ……」
颯太は苦笑いで頭をかく。この様子じゃ颯太は妹さんには敵わないらしい
「寧々! お前にも話があるんだから逃げんなよ」
靴を乱雑に脱ぎ捨てて、リビングのほうに歩いていく。
彼の背中はとても大きくて、私はその後ろを歩いて行った。




