連鎖
「な、なんで……。一体だれが……」
***
「今日は、みなさんに人命救助について授業を受けてもらいます」
学園で、行われている特別授業。
学院の全校生徒、教師含む、約五百名が体育館に集合していた。
その中に彼女はいた。看護師の長谷川リナ。
俺がこの島に来てから一年がたった頃、やって来た。
彼女は異常と思えるような執着心があった。俺に対しての。
行動一つ一つ、どこか嫌悪や不快感を感じるほどに不気味だった。
彼女は、決してプライベートを明かさない。
それどころか、仕事以外で誰ともかかわろうともしない。
俺以外の人間には全く。
逆に、俺に対しては積極的に距離を縮めようとしている用だった。
「じゃあ、そこにいる君! 私の助手として手伝ってくれるか?」
長谷川が指名したのは、中等部の女子。
長谷川はその子に心臓マッサージを丁寧に教えた。
一見、おかしなところはない。
人間のそこにある思惑なんて知る事などできないのだから。
「じゃあ、協力してくれた君には、このお薬型のラムネをプレゼントしよう!」
特に問題もなく、特別授業は終わった。その時は……。
*
「先生! 娘を助けてください!」
特別授業から数日後。
ある日唐突に、一人の少女が急患として運ばれた。
その症状は、絶対にありえないものだった。
「これは……」
俺は、ある研究をしていた。とある病気の薬の研究を。
妹の病気を治す為に、寝る間も惜しんで研究をした。
でも、完成なんて夢のまた夢。
それでも、いくつかの薬を作り出した。未完成品。
一つは、激しい吐き気を催す。
一つは、アナフィラキシーショックを起こし、命の危機にもなりえる、危険な劇薬。
一つは、ただの風邪薬。
そして、運ばれてきたこの子はその薬と同じ症状があらわれていた。
*
「先生、娘は⁉」
「症状は落ち着きましたが、暫くは安静にしてもらいます」
「……そうですか、ありがとうございます」
俺の心は、落ち着かなかった。
ほぼ確実に、俺の薬のせいでこうなっているんだ。
それがバレれば、妹の病気はどうなる?
それでも、何も知らないご両親は安堵し、病室を去った……。
「……先生、今の子どうでしたか?」
「長谷川……。命に別状はない、ただ暫くは安静にしてもらうよ」
「よかったですねぇ……。死ななくて」
「‼ お前! 何言ってんだよ‼」
「えぇ~? 危険な薬の管理もできていない先生が悪いんじゃないですかぁ~?」
「お前が、奪ったのか!」
「確かに、私が薬を奪いましたよ? でも、考えてみてくださいよ~。人の命を奪ってしまうかもしれない劇薬の管理もできない、そもそもそんな危険な薬を作った医者と、それを間違えて与えた看護師。世間的にはどっちが悪いと思いますか~?」
「……ッチ」
「先生は、妹さんの為に仕事を失うわけにはいかないですもんねぇ~」
その全てを知ったようにすべてを見透かしたように何かを語る。
俺は、その時に悟った。彼女には逆らえないと……。
最悪はそれだけじゃなかった。
俺は自分の薬を量産しやすさを求めて、簡単な作りのものだった。
それが良くなかった。薬はあっという間に長谷川によって量産されてしまった。
その薬は人を傷つけるために利用され続けた。長谷川の手によって。
予防接種と言い、多くの島民に薬を投与し続けた。
俺は、長谷川に対抗するために、薬を作り始めた。
しかし、その薬を作るのは難航した。
負の連鎖は、止まらない。
徐々に、その傷口は広がり、どんどん塩を塗りこまれていく。
「薬の症状、悪化しちゃってるね~」
それは、想定すらしなかった最悪だった。
原因は分からない、ただ、薬を接種された人達の症状が急激に悪化していったのだ。
もともと、命を脅かす危険はあった。でも、正しい対処さえすれば、命の危険はない。そのはずなのに、一人また一人と、命を失う人が増えていった。
もう、俺に止めることなんてできなかった。
***
「僕はね、あの時から終わったんだ。だから……」
「じゃあ、全ては長谷川のせいだっていうのかよ!」
「いや? 長谷川を暴走させたのは、僕の責任だ」
「は?」
「あれ? 今の話で理解できない?」
「何が」
「ま、いいよ。どうせ君は終わりなんだし」
「……クソ野郎」
僕の目の前に立つ葵君は、力なく倒れた。
「決着だよ、葵君」
葵君は、長谷川に刺され、血を流し倒れた。




