兄妹
辺りは街灯もなく、薄暗い月明りだけが俺のいく先を照らす。
不気味な、不気味な、森の中。
その先にあるのは、灯台。
高く、大きく、禍々しい雰囲気を纏っている。
……今から俺は、魔王と、決着をつける。
これで、全部終わる。
とてつもなく、重荷がのしかかる。
でも、決して辛くはない。
灯台の階段を、カツン、カツン。音を立てて登る。
一歩進む度、決意が、みなぎる。
皆との思い出がよみがえる。
きっと、アセビが無ければ、一生繋がることのない絆だった。
でも、アセビは多くの人の命を奪った。その事実は変わらない。だから、俺がここで、終わらせないといけないんだ。
「やぁ、約束通りに来てくれたね」
階段を登り切ったその先に、赤羽紫苑。
「全部……。話してもらうぞ」
「約束は守るよ」
紫苑は、電子タバコを片手に、笑みを浮かべこちらを妖しく睨む。
「……どこまで、話したかな。確か、僕には病床に伏せた妹がいる。ってのは話したよね」
紫苑は、語りだした。
***
「お兄ちゃん!」
狭く、ボロい、郊外の格安アパート。一人でも、手狭なその場所に、俺は妹と住んでいた。
両親はいない。俺も、妹も、幼いころに親を失い。暫くは施設で過ごした。しかし、施設は十八の歳にに強制的に退去させられる。
成人したら、就職してようが、進学していようが、関係なし。
いきなり、一人の世界に放り出される。
その頃、俺は医者を目指していた。
病は、俺から、両親を奪った。
俺は、許せなかった。俺から両親を奪った、病が。
俺からすべてを奪った病を、俺は根絶させてやる。
これは、俺なりの復讐だ。
学校、バイト、家に帰り、家事。その繰り返し。
睡眠時間は、日に日に減っていき、体力も奪われる。
金も親も、何もない人間には、甘えなんて許されない。
それだけなら、まだよかった。
その生活が始まり、一年。妹が、施設を出た。
妹は、就職の道を進んだが、就職先が悪かった。
一言でいえば、ブラック企業。
朝、早い時間から仕事に出たと思ったら、日が変わる頃に帰ってくる。仕事の内容も厳しく、体を酷使する重労働。
妹は、心も体も次第に蝕まれ、半年も経たず、その身を壊した。
両親を奪った、あの病だった……。
両親だけじゃなく、妹まで……。
「仕事、紹介してやろうか? 金必要なんだろ」
「えぇ、まぁ……」
それは、先生の紹介だった。
とある島の病院で、事務の仕事をしてほしいと。
その病院の先生に、頼んで医学を学ぶことが出来るようにしておく。
そう言われた。
「お願いします」
悩む時間は、必要ない。妹が助かる可能性があるなら、何でもする。それが、兄としての責任だから。
「……先輩、行っちゃうんですか」
その頃、俺のことを慕ってくれる、少女がいた。
看護師学科で、俺と授業が被ることはなかったが、それでも大切な友達と呼べる存在だった。
「妹の為だしな……」
「……妹」
「ん? なにか言ったか?」
「いえ、何でもないです」
「もう時間だから、もう行くわ」
「はい! 頑張ってくださいね!」
挨拶を交わして、俺は別れた。
妹の命の為に、俺はまた新しい道に進むのだ。
「……」
*
島での生活は、想像よりも苦しくはなかった。
島民は優しいし、仕事も辛くない。
そもそも、仕事自体多くなく、島で過ごすほとんどの時間を勉強に費やせた。
毎月入る、給料のほとんどを妹に。
でも、現状延命治療が精一杯。
手術費用には、まだ足りない。
このままでは、いつまでたっても妹を救えない。
このままでは、妹を苦しめるだけ。
焦りという感情が、心を締め付けていた。
新しい生活が始まって、二年。
俺は、医師免許を取得した。
それと同時期に、先生が亡くなった。
警察は事故死と判断したが、一部の島民は、俺の犯行だと言った。
やってもいない罪で責められる。
想像を絶する苦しみの中、俺は一人、もくもくと仕事をつづけた。
亡き先生の遺志を継ぐために。
「先生、村長さんがいらしてます」
「わかった、今向かうよ」
《《僕》》は、島で唯一の医者だ。
村長さんや、港倉庫の社長さん。この島の中心に立つ人たちと、繋がりを作っていた。
「もう、お昼だ、君は休憩入りなさい」
「ありがとうございます、先生」
俺は、面会室に向かった。
「……」
*
「村長さん、今日はどんな用で?」
「実は、先生にお願いがあってね」
この泉五島の代表の山口さん。
この島を魅力あふれる島にしたい。が、口癖の故郷想いの人。
その想いは、島民にも同じだった。
「明後日、学校で、特別授業があるんだ。人命救助をテーマにした」
「はい」
「そこで、先生から指導してもらいたいんだが、構わないかい?」
「そうですね……。明後日はどうしても外せない予定がありまして、代わりに看護師の子にお願いする。というのはどうでしょう」
「全然、構わないよ。でも、看護師の子たちに確認を取らないとね」
「そうですね、こちらで話をしてみるので、あとで連絡します」
「そうか、ありがたいよ。……先生も忙しいだろうし、僕は、この辺で」
山口さんは、去っていった。
僕は、知らなかった。もうこの島は、毒に置かされていたことを……。




