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ダレガタメニ  作者: 猫宮いたな
港倉庫戦争
37/50

兄妹


 辺りは街灯もなく、薄暗い月明りだけが俺のいく先を照らす。

 不気味な、不気味な、森の中。

 その先にあるのは、灯台。

 

 高く、大きく、禍々しい雰囲気を纏っている。

 ……今から俺は、魔王と、決着をつける。

 これで、全部終わる。


 とてつもなく、重荷がのしかかる。

 でも、決して辛くはない。


 灯台の階段を、カツン、カツン。音を立てて登る。

 一歩進む度、決意が、みなぎる。

 皆との思い出がよみがえる。


 きっと、アセビが無ければ、一生繋がることのない絆だった。

 でも、アセビは多くの人の命を奪った。その事実は変わらない。だから、俺がここで、終わらせないといけないんだ。


「やぁ、約束通りに来てくれたね」


 階段を登り切ったその先に、赤羽紫苑。

 

「全部……。話してもらうぞ」


「約束は守るよ」


 紫苑は、電子タバコを片手に、笑みを浮かべこちらを妖しく睨む。


「……どこまで、話したかな。確か、僕には病床に伏せた妹がいる。ってのは話したよね」


 紫苑は、語りだした。


***

 

「お兄ちゃん!」


 狭く、ボロい、郊外の格安アパート。一人でも、手狭なその場所に、俺は妹と住んでいた。


 両親はいない。俺も、妹も、幼いころに親を失い。暫くは施設で過ごした。しかし、施設は十八の歳にに強制的に退去させられる。


 成人したら、就職してようが、進学していようが、関係なし。

 いきなり、一人の世界に放り出される。


 その頃、俺は医者を目指していた。

 病は、俺から、両親を奪った。


 俺は、許せなかった。俺から両親を奪った、病が。


 俺からすべてを奪った病を、俺は根絶させてやる。

 これは、俺なりの復讐だ。


 学校、バイト、家に帰り、家事。その繰り返し。

 睡眠時間は、日に日に減っていき、体力も奪われる。


 金も親も、何もない人間には、甘えなんて許されない。

 それだけなら、まだよかった。

 その生活が始まり、一年。妹が、施設を出た。


 妹は、就職の道を進んだが、就職先が悪かった。

 一言でいえば、ブラック企業。

 朝、早い時間から仕事に出たと思ったら、日が変わる頃に帰ってくる。仕事の内容も厳しく、体を酷使する重労働。

 

 妹は、心も体も次第に蝕まれ、半年も経たず、その身を壊した。

 両親を奪った、あの病だった……。


 両親だけじゃなく、妹まで……。


「仕事、紹介してやろうか? 金必要なんだろ」


「えぇ、まぁ……」


 それは、先生の紹介だった。

 とある島の病院で、事務の仕事をしてほしいと。

 その病院の先生に、頼んで医学を学ぶことが出来るようにしておく。

 そう言われた。


「お願いします」


 悩む時間は、必要ない。妹が助かる可能性があるなら、何でもする。それが、兄としての責任だから。


「……先輩、行っちゃうんですか」


 その頃、俺のことを慕ってくれる、少女がいた。

 看護師学科で、俺と授業が被ることはなかったが、それでも大切な友達と呼べる存在だった。


「妹の為だしな……」


「……妹」


「ん? なにか言ったか?」


「いえ、何でもないです」


「もう時間だから、もう行くわ」


「はい! 頑張ってくださいね!」


 挨拶を交わして、俺は別れた。

 妹の命の為に、俺はまた新しい道に進むのだ。


「……」



 島での生活は、想像よりも苦しくはなかった。

 島民は優しいし、仕事も辛くない。

 そもそも、仕事自体多くなく、島で過ごすほとんどの時間を勉強に費やせた。


 毎月入る、給料のほとんどを妹に。 

 でも、現状延命治療が精一杯。

 手術費用には、まだ足りない。


 このままでは、いつまでたっても妹を救えない。

 このままでは、妹を苦しめるだけ。


 焦りという感情が、心を締め付けていた。


 新しい生活が始まって、二年。

 俺は、医師免許を取得した。


 それと同時期に、先生が亡くなった。

 警察は事故死と判断したが、一部の島民は、俺の犯行だと言った。


 やってもいない罪で責められる。

 想像を絶する苦しみの中、俺は一人、もくもくと仕事をつづけた。


 亡き先生の遺志を継ぐために。


「先生、村長さんがいらしてます」


「わかった、今向かうよ」


 《《僕》》は、島で唯一の医者だ。

 村長さんや、港倉庫の社長さん。この島の中心に立つ人たちと、繋がりを作っていた。


「もう、お昼だ、君は休憩入りなさい」


「ありがとうございます、先生」

 

 俺は、面会室に向かった。


「……」



「村長さん、今日はどんな用で?」


「実は、先生にお願いがあってね」


 この泉五島の代表の山口さん。

 この島を魅力あふれる島にしたい。が、口癖の故郷想いの人。

 その想いは、島民にも同じだった。


「明後日、学校で、特別授業があるんだ。人命救助をテーマにした」


「はい」


「そこで、先生から指導してもらいたいんだが、構わないかい?」


「そうですね……。明後日はどうしても外せない予定がありまして、代わりに看護師の子にお願いする。というのはどうでしょう」


「全然、構わないよ。でも、看護師の子たちに確認を取らないとね」


「そうですね、こちらで話をしてみるので、あとで連絡します」


「そうか、ありがたいよ。……先生も忙しいだろうし、僕は、この辺で」


 山口さんは、去っていった。

 僕は、知らなかった。もうこの島は、毒に置かされていたことを……。

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