哀怒
「颯太」
「葵か、大丈夫か?」
「もう大丈夫、心配かけてごめん」
「いや、いいよ」
港倉庫を一望できる、倉庫から少し離れた防風林の一角。
そこに、颯太と伊織がいた。
いた、というより、俺がここに呼んだんだが……。
「ひとまず、俺と香織は港倉庫に行くけど、二人はどうする?」
「そりゃ、行くに決まってる」
颯太の答えにうんうん。と伊織も頷く。二人の顔はどこか、迷いがなくなってまっすぐな目をしている。
「じゃあ、作戦会議だ!」
俺は肩に担いだ、丸まった大洋紙で、林の向こうの小屋を指す。
それを見た、二人は俺の横に並び、一緒に小屋に向かって歩き出した。
*
少し、かび臭いジメジメとした小屋。
たしか、ここは昔、海の家だったらしい。
でも、観光客が少なかったり、潮風などを防ぐために防風林を作ったときに、林の管理小屋になったけど、結局使われなくなった、子供たちの秘密基地のような場所。
小屋の中には、大きな少し古ぼけて埃の被ったソファーや、海の家の時から使われているだろう、折り畳み式のパイプのテーブル。それと、いくつかのパイプ椅子。
俺は、小屋に入るとすぐにテーブルに大洋紙を広げる。
そして、大洋紙にくるまれていた、金属バットが姿を現す。
「そのバットって?」
「ゴミ捨て場にあったのパクって来た」
「それ犯罪」
「もう、俺は犯罪者だからな、これぐらいどうってことは無いよ」
颯太の懸念を、そう返して、油性ペンで、大洋紙に情報を書き込む。
「とりあえず、今の俺たちの目的。それを明確にしよう」
「……まぁ、そうだな」
颯太は、俺の言葉が気に食わなかったのか、少し考えこむように顎を撫でていた。
颯太からしてみれば、俺が犯罪者だなんて認めたくないのだろう。学園の時からこいつはいつもそういうことを考えているようだし。
「まず、俺達の目標は、今島に来ている犯罪者たちをこの島から追い出すこと」
「そもそも、どれくらいの数いるかも、向こうの目的もまだ曖昧だからね、追い出す前にまずは情報を集めないと」
「まぁ、そうだな。今のところ情報がほとんどない」
「ならさ、夜さんに情報集めてもらわない?」
「でも、夜さんが素直に情報教えてくれると思う?」
「というと?」
「いや、まず、夜さんは奏斗さんが助っ人として呼んでくれた人なんでしょ?」
「そうだね」
「てことはさ、普通に考えたら、私たちを争いに近づけないように来ているんでしょ?なら、このこと知ったら危険だからとか言って、情報くれなさそうじゃない?」
「あ~」
「……ダメもとでも聞いてみようよ」
口を開いたのは、伊織。
再開してから一言も発していなかったから心配していたが……。
「もう、これ以上、この島で争いが起きるの、私は許せない」
「伊織……」
「……わかった。夜さんに聞いてみよう」
香織は、伊織のその言葉で心を決めたようだ。
もともと、伊織も、颯太も、香織も。みんな同じ気持ちだ。でも、そこに向かう為の道がみんなバラバラだった。
それを、伊織がそろえてくれた。
「じゃあ、連絡待ってる間、準備しようか」
「準備?」
「学園よりも荒れるかもしれないからね」
俺が、取り出したのは一本の缶。
それをみて、気持ちが昂る男と、ため息をつく少女。
「それは!火炎放射器⁉」
「さすが、正解だよ」
「最高じゃないか!」
「さらに、今回はこれもおまけ」
俺が指さしたのは、大量の酒瓶。
酒はよく燃える。人間ブランデーだ。
ガス缶とライターで、もう俺達の感情は最高潮。そこに酒瓶も加われば、もう敵なんかない。
「よく持ってきてくれた。葵」
「火炎放射器は男の夢だからな」
あはは、と冷えた笑いをこぼす、香織と伊織をよそに、俺達はノリノリで準備を進めていった。




